この「言いまつがい」はなぜ起こるのか? ケース7「怒っている人々」  私の上司は東京大学出身の上司とモメ、 「東大出っちゅーのが、  鼻から出とる!」と怒ってました。 「鼻にかけているのが態度に出てる」 の言いまつがいだと思います。 (小春) ~『金の言いまつがい』176ページより~  小2の娘が夜いつまでも寝る準備をしないので、 半分キレながら叱っていた時。 「だらだら遊んでて、ずっと怒られてるのと、  やることさっさとやって、あと遊ぶのと、  どっちがいいの!?」 と言おうとして、最後のところを 「‥‥どっちがお得だと思うの!?」 と言いまつがってしまいました。 ‥‥母の威厳かたなし。 (な) ~『金の言いまつがい』142ページより~





ことばを使うというのは、
頭の働きとしてはたいへん高度です。
そのことばの発音や意味を正しく覚え、
しかるべき場面で、しかるべき文法で
しかるべき発音で、使わなくはならない。
しかも、状況に最適なことばを選び、使うためには、
視覚や聴覚もフル活用する必要があります。
一説によれば、ことばをしゃべるというだけで、
脳の約三分の一を使っているそうです。
それくらい脳を働かせないと、
最適なことばというのは出てこないわけなんです。

ということを踏まえて、考えてみてください。
怒るというのは、非常に強い感情です。
瞬発的に生じる強い感情は、脳の冷静な働きを妨げます。
そうすると当然、ことばを選び、使うために、
脳がフル活動することができなくなります。
当然、正しいことばをしっかり選ぶことはできず、
適当なことばをぞんざいに選んでしまいがちです。
単語の選択だけでなく、ただしいことばのつながり、
正確な文法というのもおろそかになってしまうでしょう。

また、本来、人が怒っている場面というのは、
笑ってはいけないことがほとんどですから、
そこで人が「言いまつがい」をしてしまうということは、
あとから振り返ったときに、
通常よりもいっそうおかしみが増すのだと思います。





この「言いまつがい」はなぜ起こるのか? ケース8「緊張のあまり‥‥」  友人の結婚式に出席したときのこと。 花嫁さんがお色直しのため中座し、 余興で歌を歌う前の一言。 「本日は、○○くん、  お誕生日おめでとう!」 もちろん、その後の歌のことなんて覚えてません。 (ひろゆき) ~『金の言いまつがい』62ページより~  私の兄は、選手宣誓のときに 「宣誓! ワリワリ~、選手一同は~!」 と力強く宣言してしまった。 (happy) ~『銀の言いまつがい』222ページより~





このケースも、原因としては、
「怒っている人々」の場合と同じですね。
大勢の前でしゃべるというのは
たいへん緊張することです。

そういったことに慣れている人であれば別ですが、
経験が不足すると、うまくできるかどうか自信がない。
自信がないから、緊張する。
緊張すると脳は正常に働きません。
ことばを選ぶためにフル活動できなくなるんです。

そして、そういう場面での「言いまつがい」が
いっそうおかしいものになるというのは
先にお話ししたとおりです。





この「言いまつがい」はなぜ起こるのか? ケース9「新入社員」  職場での話。ある日、お客様が来て、 新人が応対に出ました。お客様に 「○×さんいますか」と聞かれ、 取り次ぎに行ったものの、○×さんは不在だったため、 新人はお客様の元に戻って 「あいにく○×は不在でございますが、  ただいま、変わり者が参りますので、  少々お待ちください」 とのたもうた。まわりの社員は大爆笑。 (助詞は大事) ~『銀の言いまつがい』143ページより~  その昔、私がペイペイだった頃、 お客様からの電話を受けました。 ご質問の内容がすぐにはわかりかねたので、 一旦保留にして調べ始めたところ、 なかなか答えが見つからない。ヤバイ。 すんごいお待たせしちゃってる。申しわけない。 そんな気持ちが頂点に達したところで 再び電話口に引き返して開口一番 「大変お待たせいたしません」 ああっまずいっ。 「も、申しわけございますっ」 ‥‥笑って許してくれるお客様で助かりました。 (今はヘラヘラ) ~『銀の言いまつがい』145ページより~





こういった、新入社員の「言いまつがい」というのは
不慣れで、緊張するという状況のほかに
新たな要因が加わることになります。

新入社員のように、
初めての環境に身を置かれた人というのは、
そもそも、自分が自信を持って使えることばが
圧倒的に少ないんですね。
敬語であるとか、社会人独特の言い回しなど、
自分が身につけていないことばがたくさんある。

自分の中の選択肢が多くない状態で、
さらに緊張を強いられるわけですから
おかしなことも言いやすくなります。

一方で、すでにその環境に慣れている先輩は、
緊張もしませんし、ことばについての知識もありますから
その「言いまつがい」の原因や
意味のずれが冷静に観察できて
よりおかしくなるわけですね。


・ことばをしゃべるというのは、  脳の働きとしてたいへん高度である。 ・怒ったり、緊張したりといった強い感情の振幅は  脳の正常な働きをさまたげやすく、  結果、「言いまつがい」を生みやすい。 ・そもそも自分のことばに自信がなかったり、  自分の使えることばが少なかったりする場合は、  より「言いまつがい」を生みやすい。


2007-04-20-FRI



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