この「言いまつがい」はなぜ起こるのか? ケース4「逆転現象」  学校帰りにお茶をしたくなった友人と私。 あるお店が目に入り、 思わず言ってしまいました。 「ヨッテリア、ロッてく?」 そして、ロッテリアに寄って帰りました。 (hiro) 〜『金の言いまつがい』67ページより〜




これは、複雑な「言いまつがい」に思えますが、
ふたつの単語がひとつのまとまった表現をつくっていて、
その一方の単語の文字と違う単語の文字が、
単語の境界を超えて入れ替わってしまうことは
しばしば見受けられる現象です。

これは脳内の働きにまつわることなので
私の専門外のことではあるのですが、
人が、何か言いたいことがあって
それをことばで表現するとき、
一連の文章を事前に予測するらしいのです。
つまり、単語をひとつ思いついてしゃべり、
それからつぎの単語を探すのではなく、
言おうとすることをざっと頭の中で
思い浮かべるわけですね。

ことばを使うときの人間の頭の働きというのは
ほんとうにすごいものだと感心するのですが、
長くしゃべるときにも、人は、使うことばを、
つぎつぎに予測していくんですね。
それを全部しゃべるというわけではないにせよ、
どんどん先を読みながら、
人間はことばを使っていく。
もちろん、しゃべることばをすべて
決めてからしゃべっているわけではありませんが、
一語先、二語先くらいまでは瞬時に予測しているんです。

ですから、この例でいうと、
「ロッテリア」という
最初のことばを言おうとする段階で、
つぎの「寄ってく?」ということばを
すでに言おうとしているわけです。
ですから、「ロッテリア」と言うべきときに
似た発音である「寄って」がよぎって、
「ヨッテリア」となってしまう。
ここからはさらなる予測になりますけれども、
ひとつの間違いが起こることによって
「すでに言ってしまったことば」と
「まだ言ってないことば」のチェックが混乱してしまい、
予測したままでまだ発音されていない
「ロッテリア」の「ロ」の部分が
続くことばに影響してしまうのではないかなと思います。





この「言いまつがい」はなぜ起こるのか? ケース5「ウルトラ逆転現象」  私が高校の時、担任のY先生はつい、 「すまん! ごめん!  みんなに言い忘れてた!」のことを 「ごまん! すめん!  いんなにみい忘れてた!」と言った。 (優) 〜『金の言いまつがい』90ページより〜





こちらも、たいへん複雑に思えますが、
基本的には先の「ロッテリア」と同じ原因です。
ただ、それが、ふたつ連続して起こってしまった、
並列になっているということですね。

「言いまつがい」の代表的なパターンは
ある種の緊張や瞬間的な混乱によって
ことばの選択を間違えてしまうというものです。
ですから、ひとつの「言いまつがい」によって、
頭の中がさらに混乱し、
新たな「言いまつがい」を生んでしまう、
ということも起こります。
ですから、この複雑な「言いまつがい」は、
「すまん! ごめん!」が
「いんなにみい忘れてた!」を
導いたということもいえるのではないでしょうか。

と、まあ、説明しようと思えばできますけれど、
「ごまん! すめん!
 いんなにみい忘れてた!」というのは
そうとうおもしろいですね(笑)。


・人は、言おうとする先のことばを  瞬時に予測しながらしゃべっている。 ・単語の境界を超えて文字が入れ替わることは  めずらしいことではない。 ・「言いまつがい」の多くは、  混乱による選択ミスによって起こる。 ・ひとつの「言いまつがい」が  連続して新たな「言いまつがい」を導くこともある。


2007-04-18-WED



(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN