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── |
これって‥‥この本に触発されて、
ジョン・レノンが「イマジン」を書いたという? |
池側 |
厳密にいうと、
それは『グレープフルーツ』という詩集ですね。
この『グレープフルーツ・ジュース』は
『グレープフルーツ』のことばを選び直し、訳し直して、
著名な写真家の写真と
組み合わせるようにして再編集した本なんです。 |
── |
へえー、浅井慎平さんとか、
菅原一剛さんとか、篠山紀信さんだとか‥‥
現代日本の有名カメラマンがズラリと。 |
池側 |
写真好きなかたが見ても、おもしろいでしょうね。 |
── |
なるほど。‥‥で、なぜこの本を? |
池側 |
『はたらきたい。』に寄せていうなら、
わたし、TSUTAYAの従業員として
「たいせつにしていること」があって。 |
── |
ほう、それは? |
池側 |
想像するということ、なんです。 |
── |
イマジン‥‥だからこの本を? |
池側 |
ほかのお仕事でもそうかもしれませんが、
「想像力」って、
TSUTAYAというお店のなかで
はたらくにあたって、
いちばん持ってなきゃならない要素だと
思っているんです。 |
── |
それは、たとえば、どういうことですか? |
池側 |
はい、TSUTAYAという店のなかでの仕事は
大半が「接客業」なんです。
‥‥今、当たり前のこと言った、みたいな顔を。 |
── |
いや‥‥すいません(笑)。 |
池側 |
それじゃ、そうですね、こう言い換えます。
TSUTAYAの人間は、本屋さんであるまえに、
CD屋さんであるまえに、
レンタルチェーンであるまえに‥‥
お客さまに楽しんでもらうための仕事をしてると、
思ってるんです。 |
── |
なるほど、そういう意味で。 |
池側 |
なんというか、
TSUTAYAって「企画」の会社なんですよ。
それぞれ自分のとこのお店のスペースをつかって、
おもしろいことを、お客さまに提案していく。 |
── |
たんなる本屋さん、CD屋さんじゃないと。 |
池側 |
そうなんです。
ですから、そのためには
時代の変化に応じて、
お客さまがよろこんでくれる「企画」が
TSUTAYAの店頭に
並んでいなくちゃならないと思うんです。 |
── |
極端なことを言うと、
本やCDというカタチにもとらわれず‥‥、
ということですか? |
池側 |
もちろん、それが軸になるとは思います。
でも、おもしろければ、
お客さまがよろこんでくれさえすれば、
何でもいいと思うんですよね。 |
── |
ほほう。 |
池側 |
本とCDとDVDレンタルとゲーム販売を
せっかくひとつのお店でやっているわけですから、
たとえば、書籍の売り場で
ニンテンドーDSと『DS文学全集』というソフトを
売ったっていいわけです。 |
── |
なるほど、そのソフトについて言えば、
ゲームの売り場よりも
本売り場のほうに、お客さんがいそうですもんね。 |
池側 |
ニンテンドーDSという携帯ゲーム機のなかに、
文学の名作を100篇も持って歩けるだなんて、
ふだん、本の売り場にしか来ないかたでしたら、
ご存じないかもしれませんよね。 |
── |
なるほど、こりゃいいぞってことに
なるかもしれませんね。 |
池側 |
それから‥‥そうですね、
『松本人志のシネマ坊主』って本がありますけど、
そのなかに出てくる映画を
レンタルコーナーの棚から抜いてきて、
獲得した「☆」の数を添えて、並べておくとか。 |
── |
ああ、松っちゃんの映画評の本を読んだら、
その批評されてる映画も、観たくなるでしょうね。 |
池側 |
こういうアイディアは、
今、店頭に並んでいるコンテンツの組み合わせで
やれることなんですけど、それ以外のことでも、
どうやったら
もっとお客さまによろこんでもらえるかを
ずーーーっと考えてなさい、という会社なんです、
TSUTAYAって。 |
── |
それ、やってるほうも、おもしろいですよね。
ただ、人気ランキングの順番に
ベストセラーやCDを並べたりしてるよりも。 |
池側 |
このコーナーで買いものされるお客さまは、
他になにを求めてるだろうか、と。 |
── |
もしかしたら、
それって「食べもの」とかかもしれませんね。 |
池側 |
ああ‥‥そうですね。
でもいま、食品は売ってないんですよ、
TSUTAYAには。 |
── |
へぇ、売っててもよさそうな感じがしますけど。 |
池側 |
‥‥わたし、むかし、
枚方ではたらいてたことがあって。 |
── |
大阪の。 |
池側 |
そう、枚方のTSUTAYA。
そのお店って、近くにコンビニとかが
ぜんぜんなかったんですよ、当時。 |
── |
ほう。 |
池側 |
で、そのお店の店長さんが、
ものすごく寒かったある冬の日に‥‥。 |
── |
はい。 |
池側 |
あったかい「ブタまん」が
どうしても食べたくなったらしいんです。 |
── |
はぁ。 |
池側 |
でも、コンビニまで遠いし、
車で行かなきゃならないなんて、めんどくさい。
でも、もう食べたくてしかたない‥‥。 |
── |
葛藤ですね。 |
池側 |
そのとき店長は、こう思ったそうなんです。
オレがこんなにブタまんを食べたいってことは、
きっとみんなも、食べたいはずだと。 |
── |
ええ、ええ。 |
池側 |
そして、あの向こうのほうのコンビニまで
クルマで買いに行くのも、
同じようにみんな、めんどくさいはずだ‥‥と。 |
── |
わかります。 |
池側 |
で、むりやりブタまんを仕入れて
売っちゃったんですって。 |
── |
TSUTAYAで? あはははは(笑)。 |
池側 |
めちゃくちゃ売れたって言ってました。 |
── |
あははははは(笑)、おもしろい。 |
池側 |
でも、あまりにも唐突だったし、
いろいろ問題もあって、
結局、撤去になっちゃったらしいんですけど‥‥
ともかく、大好評だったんです。 |
── |
ブタまんへの気持ちが
先走ってしまったと。 |
池側 |
ただ、お客さまに求められていたことは、たしかで。 |
── |
TSUTAYAに「ブタまん」が売ってたら
うれしいですけどね。 |
池側 |
ねぇ? 秋口からは、おでんとか。 |
── |
いいですねぇ、そのTSUTAYA(笑)。 |
池側 |
そうやってよろこんでいただくのが、
わたしたちの仕事なんです。 |
── |
本屋さんであるし、CD屋さんであるし、
レンタルチェーンでもあるけれど、
それよりも「企画」を提案する会社だという認識が、
社員のあいだに、共通してるんですか? |
池側 |
ええ、そうですね。
でも、わたしたち社員全員が
その共通認識を
もっと徹底して意識しながら動いたら、
TSUTAYAっていうお店を
もっともっと
楽しい場所にできるんじゃないかなぁと思います。 |
── |
なるほど、そういうことぜんぶが、
池側さんのいう「想像力」なんですね。 |
池側 |
『グレープフルーツ・ジュース』を読んでいると、
いたるところで、
「想像しなさい」ということばが出てくるんです。 |
── |
イマジン、と。 |
池側 |
大学生のときに読んで、強く印象に残っていたんですが、
社会人としてはたらくようになって、
「あたりまえの発想」ばかりにとらわれてちゃ、
おもしろくもないし、
うまくもいかないって場面に、しょっちゅう出くわして。 |
── |
そんなときに必要だったということですか、
「想像力」が。 |
池側 |
そう、この本のことを思い出したりしてたんです。
ですから『はたらきたい。』を読んで
「はたらくこと」について考えはじめた人に、
「あたりまえじゃない発想」はあるし、
「常識とはちがう考えかた」だって
できるんだぞってことに気づくきっかけとして
この『グレープフルーツ・ジュース』という本が
読まれたらいいなって、思ったんですよね。 |
── |
想像してごらん、と。 |
池側 |
そう、ブタまん売ったっていいじゃないか、と(笑)。
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