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── |
まずは、率直なご感想をお聞かせください。 |
小林 |
僕が大学生のころ、
世の中は「ニュー・アカデミズム」という
ムーブメントのまっただなかでした。
中沢先生や浅田彰さんの
「難しい本」を読むのが
ファッショナブルとされていた時代です。
でも、この『三位一体モデル』からは
「難しいことを言って通じないよりも、
わかるように伝えなければダメなんだ」
という「実践の姿勢」を強く感じましたね。 |
── |
役に立つ本であると。 |
小林 |
はい。
思想系の本って、やっぱり
ほとんどのものが、難しいわけです。
なおかつ「実践」、つまり
読んで何かの役に立つといったこととは
ほど遠いケースが多い。 |
── |
たしかに、そうですね。 |
小林 |
でも、ここへきて
養老孟司さんの『バカの壁』もそうでしたし、
一級の学者なり研究者による
「わかりやすく伝える本」が
ひとつのムーブメントになってきたのかな、
と思っています。
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── |
雑誌の編集長というお立場から
「三位一体モデル」を見たとき、
どんなことをお考えになりましたか? |
小林 |
そうですね‥‥。
最近の雑誌の例でいうと、
いちばん分かりやすい成功モデルって
『CanCam』と『LEON』ですよね。 |
── |
雑誌業界からはじまって
大きな社会現象になりました。 |
小林 |
これをひとことでいうと、
「エビちゃん」と「ちょいワル」。
これらふたつの概念を
『三位一体モデル』の
「社会」「幻想」「価値の増殖」で考えると‥‥。 |
── |
中沢先生は『三位一体モデル』のあとがきで
「父」「子」「精霊」のみっつの原理を
「社会的コントロール」
「幻想力」「増殖力」と言い換えています。 |
小林 |
はい。
そういう考えかたで見てみると、
まず「エビちゃん」という概念は、
「幻想させる力」の強い、
優秀な「子」だったんじゃないかと。
いまでは、若い女性向け雑誌においては、
ひとつの「父」的な原理原則、
ルールにさえなりつつあるかもしれません。
あるいは、「ちょいワル」という
ひとつの「おしゃれのルール」を
少しだけ変えた雑誌なんかも出てきています。
でもそこで、
たとえば『LEON』のブームと
いっしょに語るべきこととして、
「伊勢丹の成功」という社会的な流れが
あったと思うんです。 |
── |
なるほど。 |
小林 |
『LEON』が創刊するちょっと前から、
新宿伊勢丹の紳士服売り場は
活気が出はじめていましたし。 |
── |
そうなんですか。 |
小林 |
つまり、雑誌というもので
「三位一体」を考えたときには
「時代との連携」ということが
非常に重要な要因としてあると思うんです。
ですから、
ただ「エビちゃん」に似たような
モデルさんを立てるというだけでは、
たぶん、うまくいかないですよね。 |
── |
ふん、ふん。 |
小林 |
モデル自体を真似ただけではダメで、
幻想させる力をもった「子」や
世のなかの雰囲気をつかんだ
「父=コンセプト」が必要になってくる。
あるいは、『Number』という雑誌。
創刊当初は、
ボクシングもやれば
アメフトもやっていたわけですけれど、
Jリーグの盛り上がりという
時代の波をうまくとらえて、
今ではサッカーを伝えるメディアの
オーソリティとなっています。 |
── |
サッカーといったら『Number』、
みたいな印象がありますよね。 |
小林 |
ええ。
そこで、『Number』の成功をみて
「あっ、このモデルはいい!」と、
似たような雑誌がたくさん出てくるわけです。
つまり、これはモデル自体が
増殖していくというケースですよね。 |
── |
なるほど。 |
小林 |
「父」や「子」の部分を、
ちょっとだけ変えたりして、
『Number』に似た雑誌をつくった。
でも、小手先だけでは、
やはりうまくいかないんですよ。 |
── |
そこが難しいところなんでしょうね。 |
小林 |
だから、「三位一体」の構造って
数値化できるものではないですから、
それぞれの部分を
固定的にとらえてしまわずに
時代の空気を読み取りながら、
常にバランスをとっていくことが、
大事なんじゃないかと思いました。
小林さんが編集長をつとめる 『Invitation』。
写真の12月号では 「ほぼ日特集」も読めます! |
── |
小林さんは、この本のベースとなった
第0講にも参加されていますね。 |
小林 |
ええ。
あの講義を本にすると聞いたとき、
最初はもっと「新書」的にするのかな、
と思っていたんですよ。
新書って、実践の書ですから。
でも、『三位一体モデル』って
そういうつくりにはなっていないですよね。 |
── |
そうですね。 |
小林 |
とはいえ、80年代に
僕らが好んで読んでいたような
かたちのない世界を語る哲学書とも違う。
圧倒的に、読みやすいんですよ。
ですから、内容じたいは
純粋に学問としておもしろいですけれど、
「キリスト教の話」と敬遠せずに
読めてしまうところがあると思うんです。 |
── |
ビジネスや経済の例も出てきますしね。 |
小林 |
最近、『Invitation』をやっていても
「実効性のあること」が大切なんだと
感じはじめていたところでした。 |
── |
ええ。 |
小林 |
それを、中沢先生は、この本でやっている。
あたまのなかのことだけじゃなくて、
「実践」していくことの大切さやおもしろさ。
このことは、
『アースダイバー』にも通じることです。
ですから、若い読者でも、
充分理解できるし、役立てることができる
本なのではないでしょうか。 |
── |
「青山分校!」の受講生にも
若いかたが多くいらっしゃいます。 |
小林 |
僕らが大学生だった80年代には
「いい大学を出て、いい会社に入る」という
ひとつの人生モデルがありましたけれど、
いまは、そのあたりの価値観が混沌として
わからなくなっている時代だと思うんです。 |
── |
はい。 |
小林 |
だからこそ、実効性のある「モデル」が
求められるようになっているんじゃないか。
そういう意味では、
ものを考えるときのひとつの道具として
この『三位一体モデル』が読まれるといいな、
というふうに思っています。 |
── |
ありがとうございました!
<終わります>
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