── |
ブックファースト渋谷店って、
どういうお店なんでしょう? |
広野 |
コンセプトをひとことで言うと、
「エンターテイメント体験」です。
なにか発見があったり、
ワクワク楽しかったり、
意外な本との出会いがあったり‥‥。
そんな空間を提供したいというのが、
まず第一にありますね。
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── |
たしかに、買いもの帰りふうの
若いかたも多いですし、
店内を見るといつもにぎやかですよね。 |
広野 |
そういうお店ですから、
いまの時期、『三位一体モデル』は
とくにおすすめしやすい本です。 |
── |
と、おっしゃいますと? |
広野 |
クリスマスのプレゼントに
いかがですか、というふうに。 |
── |
プレゼントですか!
それは思ってもみませんでした!
‥‥でも言われてみれば、
表紙のイラストの色も、
どこかクリスマスっぽいかも‥‥。 |
広野 |
もちろん、見た目だけではなくて
『三位一体モデル』は値段も手ごろで、
中沢先生の思想や
考えかたの入門篇として、おすすめですので。 |
── |
なるほど。たしかに、内容的には
多くのかたにあてはまる
思考プロセスを描いた本ですからね。 |
広野 |
装丁など、本のつくり的にも、
おもしろみというか、
モノとしての魅力がありますよ。
『三位一体モデル』って
文庫とか新書みたいなかたちで出版する方法も
あっただろうと思うんですけれど、
あえて、こうしたハードカバーで
出していただいているのは
人文書の担当として、うれしいですよね。 |
── |
うれしい、と言いますと? |
広野 |
やっぱり、ハードカバーの単行本が
ガンガン売れていくのを見るのって、
ワクワクするというか、楽しいんですよ。
文庫や新書が売れるというのは
ある意味で、まぁ、わかりやすいといいますか。
単価も低いですしね。 |
── |
装丁で個性を発揮できるのも
モノとしての魅力を出せますし、
そこが単行本のいいところですよね。 |
広野 |
はい、ですからプレゼントにいかがかと。
意外に思われるかもしれないんですけれど、
私が担当するフロアでも
たまにそういう本が、あるんですよ。
たとえば
『水は答えを知っている』という本。
この本の内容じたいは
クリスマスとはぜんぜん関係ないんですけれど、
表紙の水の結晶が
ちょっと雪みたいに見えたりしたので、
「プレゼントにいかがですか」という
打ち出しかたをしたら、お客さまに
けっこう買っていただいたりしたんです。 |
── |
そのあたりは、
本をおすすめするプロである
書店員さんの「ワザ」ですよね! |
広野 |
でも最近は、
そういうワザだけで勝負するということが
だんだん減ってきている現実もあります。
在庫管理やマーケティングに使う
集計システムの結果を参考にして
本の並びを管理化したりとか、
そういう合理的なやりかたが
整ってきていますから。 |
── |
そのワザみたいなものって、
長くその棚を担当されてきた
経験や勘に基づくものなんですか? |
広野 |
そうですね。
自分が担当する棚を見て
この本は絶対この本のとなりだ!
みたいなこだわりを持って
棚をつくっていましたね。 |
── |
僕らが何気なく眺めている本屋さんの棚も、
そこを担当されているかたの
思いやこだわりが秘められているんですね! |
広野 |
でも、システムが整った現在では
勘だけに頼るわけにもいきませんよね。
データをいっさい見ないと、
勘のほうも、逆に
揺らいできてしまうと思うんです。 |
── |
そうなんですか? |
広野 |
もちろん、それでも
売りたいと思えた本があったら
データに頼らず、
自分の判断で積極的に展開します。
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── |
最近、そういうやりかたで
これはうまくいった!
という本って、ありますか? |
広野 |
そうですね‥‥。
名著とされているんですけれども、
ずっと邦訳が出ていなかった
ジル・ドゥルーズという哲学者の『シネマ2』。
出版社は法政大学出版局というところで、
これはもう、「人文書中の人文書」です。
装丁なども含めて
本当に真面目に作ってらっしゃるんですけれど、
通常、そんなに「バカ売れ」しない本なんですが‥‥。 |
── |
仕掛けた、んですね?? |
広野 |
ええ。
邦訳が出版されると聞いたときから、
大きく展開しようと決めていました。
1冊、5000円ぐらいする本で、
表紙も、どちらかというと地味なんですが、
その本ををババーッと5面・6面で展開したら、
たくさんのお客さまが、買って下さったんですよ! |
── |
広野さん、すっごく
うれしそうにお話しされますね! |
広野 |
だって、これこそ書店員のおもしろみですから。
自分が構成した棚から、
お客さまにたくさん本を買っていただけたら
ほんとうに、うれしいんですよ! |
── |
狙ったとおり! という? |
広野 |
これはもう、「よっしゃー!」という、
書店員としての醍醐味ですね! |
── |
広野さん、「三位一体モデル」でいうと
なにか「聖霊=増殖装置」のようです! |
広野 |
あはははは(笑)。 |
── |
じゃ、データをうまく利用しながらも、
右脳的なというか、ひらめきによる
「棚の編集力」もまた、やはり重要なんですね。 |
広野 |
そうですね。
ですから、いまの書店員には
データと勘と、その間でバランスをとることが
重要になってきていると思います。
その独自編集的な部分でしか
他の書店さんとの差別化も図れませんし。
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── |
今回の『三位一体モデル』をはじめ、
中沢先生の著作に注目されてこられたのは、
いったいどうしてなんでしょう? |
広野 |
はい、「におい立つ」ものがあるんです。 |
── |
‥‥に、におい立つ? |
広野 |
ええ。
独特の文体からも感じますし、
中沢先生ご自身のキャラクターも
あるかと思うんですけれど、
なんというか‥‥「エロい」といったら
語弊があるかもしれませんが‥‥。 |
── |
なにか惹かれるものがある、
ということでしょうか? |
広野 |
本そのものから出る色気みたいなものに
ひかれて買われていくお客さまを見ているのが、
私は好きなのかもしれません。 |
── |
中沢先生の著作には
文章がすっごく詩的というか、
物語的なものもありますよね。 |
広野 |
そういう、どうしても
魅力的な雰囲気がただよってしまう
作家さんって、いるんですよ。
これはたぶん
おもに文体なんだろうと思うんですが、
海外の学者さんで、ロラン・バルトや
ジル・ドゥルーズなんていう人もそう。
まぁ、中沢先生のは
なかでも強力ですけど(笑)。 |
── |
加えて、カバーの赤瀬川先生のイラストも‥‥。 |
広野 |
におい立ってきますねぇ(笑)。 |
── |
それでは最後に
『三位一体モデル』の今後の展望を
お聞かせ願えますか? |
広野 |
これは、人文書のコーナーで
ロングセラーになり得る本だと思います。
ですから、中沢先生の棚のまえでずっと平積み、
というような売りかたをしたい一冊ですね。 |
── |
ありがとうございました。
<終わります>
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