11月の月間ランキングで
『三位一体モデル』が第5位にランクインした
東京・渋谷のブックファースト渋谷店。

このお店に、これまでも
中沢先生の著作を大きく展開してきた
「人文書のプロ」がいる!

‥‥ということで、
同店の人文書コーナーを担当されている
広野陽子さんに、
お話をおうかがいしてきました。

書店員さんって、
なかなか魅力的なお仕事みたいです!





ハードカバーの本が売れていくのって、 見ていてワクワクしてくるんですよ。

── ブックファースト渋谷店って、
どういうお店なんでしょう?
広野 コンセプトをひとことで言うと、
「エンターテイメント体験」です。

なにか発見があったり、
ワクワク楽しかったり、
意外な本との出会いがあったり‥‥。

そんな空間を提供したいというのが、
まず第一にありますね。

── たしかに、買いもの帰りふうの
若いかたも多いですし、
店内を見るといつもにぎやかですよね。
広野 そういうお店ですから、
いまの時期、『三位一体モデル』は
とくにおすすめしやすい本です。
── と、おっしゃいますと?
広野 クリスマスのプレゼントに
いかがですか、というふうに。
── プレゼントですか!
それは思ってもみませんでした!

‥‥でも言われてみれば、
表紙のイラストの色も、
どこかクリスマスっぽいかも‥‥。
広野 もちろん、見た目だけではなくて
『三位一体モデル』は値段も手ごろで、
中沢先生の思想や
考えかたの入門篇として、おすすめですので。
── なるほど。たしかに、内容的には
多くのかたにあてはまる
思考プロセスを描いた本ですからね。
広野 装丁など、本のつくり的にも、
おもしろみというか、
モノとしての魅力がありますよ。

『三位一体モデル』って
文庫とか新書みたいなかたちで出版する方法も
あっただろうと思うんですけれど、
あえて、こうしたハードカバーで
出していただいているのは
人文書の担当として、うれしいですよね。
── うれしい、と言いますと?
広野 やっぱり、ハードカバーの単行本が
ガンガン売れていくのを見るのって、
ワクワクするというか、楽しいんですよ。

文庫や新書が売れるというのは
ある意味で、まぁ、わかりやすいといいますか。
単価も低いですしね。
── 装丁で個性を発揮できるのも
モノとしての魅力を出せますし、
そこが単行本のいいところですよね。
広野 はい、ですからプレゼントにいかがかと。

意外に思われるかもしれないんですけれど、
私が担当するフロアでも
たまにそういう本が、あるんですよ。

たとえば
『水は答えを知っている』という本。

この本の内容じたいは
クリスマスとはぜんぜん関係ないんですけれど、
表紙の水の結晶が
ちょっと雪みたいに見えたりしたので、
「プレゼントにいかがですか」という
打ち出しかたをしたら、お客さまに
けっこう買っていただいたりしたんです。
── そのあたりは、
本をおすすめするプロである
書店員さんの「ワザ」ですよね!
広野 でも最近は、
そういうワザだけで勝負するということが
だんだん減ってきている現実もあります。

在庫管理やマーケティングに使う
集計システムの結果を参考にして
本の並びを管理化したりとか、
そういう合理的なやりかたが
整ってきていますから。
── そのワザみたいなものって、
長くその棚を担当されてきた
経験や勘に基づくものなんですか?
広野 そうですね。

自分が担当する棚を見て
この本は絶対この本のとなりだ!
みたいなこだわりを持って
棚をつくっていましたね。
── 僕らが何気なく眺めている本屋さんの棚も、
そこを担当されているかたの
思いやこだわりが秘められているんですね!
広野 でも、システムが整った現在では
勘だけに頼るわけにもいきませんよね。

データをいっさい見ないと、
勘のほうも、逆に
揺らいできてしまうと思うんです。
── そうなんですか?
広野 もちろん、それでも
売りたいと思えた本があったら
データに頼らず、
自分の判断で積極的に展開します。

── 最近、そういうやりかたで
これはうまくいった!
という本って、ありますか?
広野 そうですね‥‥。

名著とされているんですけれども、
ずっと邦訳が出ていなかった
ジル・ドゥルーズという哲学者の『シネマ2』。
出版社は法政大学出版局というところで、
これはもう、「人文書中の人文書」です。

装丁なども含めて
本当に真面目に作ってらっしゃるんですけれど、
通常、そんなに「バカ売れ」しない本なんですが‥‥。
── 仕掛けた、んですね??
広野 ええ。

邦訳が出版されると聞いたときから、
大きく展開しようと決めていました。

1冊、5000円ぐらいする本で、
表紙も、どちらかというと地味なんですが、
その本ををババーッと5面・6面で展開したら、
たくさんのお客さまが、買って下さったんですよ!
── 広野さん、すっごく
うれしそうにお話しされますね!
広野 だって、これこそ書店員のおもしろみですから。

自分が構成した棚から、
お客さまにたくさん本を買っていただけたら
ほんとうに、うれしいんですよ!
── 狙ったとおり! という?
広野 これはもう、「よっしゃー!」という、
書店員としての醍醐味ですね!
── 広野さん、「三位一体モデル」でいうと
なにか「聖霊=増殖装置」のようです!
広野 あはははは(笑)。
── じゃ、データをうまく利用しながらも、
右脳的なというか、ひらめきによる
「棚の編集力」もまた、やはり重要なんですね。
広野 そうですね。

ですから、いまの書店員には
データと勘と、その間でバランスをとることが
重要になってきていると思います。

その独自編集的な部分でしか
他の書店さんとの差別化も図れませんし。

── 今回の『三位一体モデル』をはじめ、
中沢先生の著作に注目されてこられたのは、
いったいどうしてなんでしょう?
広野 はい、「におい立つ」ものがあるんです。
── ‥‥に、におい立つ?
広野 ええ。

独特の文体からも感じますし、
中沢先生ご自身のキャラクターも
あるかと思うんですけれど、
なんというか‥‥「エロい」といったら
語弊があるかもしれませんが‥‥。
── なにか惹かれるものがある、
ということでしょうか?
広野 本そのものから出る色気みたいなものに
ひかれて買われていくお客さまを見ているのが、
私は好きなのかもしれません。
── 中沢先生の著作には
文章がすっごく詩的というか、
物語的なものもありますよね。
広野 そういう、どうしても
魅力的な雰囲気がただよってしまう
作家さんって、いるんですよ。

これはたぶん
おもに文体なんだろうと思うんですが、
海外の学者さんで、ロラン・バルトや
ジル・ドゥルーズなんていう人もそう。

まぁ、中沢先生のは
なかでも強力ですけど(笑)。
── 加えて、カバーの赤瀬川先生のイラストも‥‥。
広野 におい立ってきますねぇ(笑)。
── それでは最後に
『三位一体モデル』の今後の展望を
お聞かせ願えますか?
広野 これは、人文書のコーナーで
ロングセラーになり得る本だと思います。

ですから、中沢先生の棚のまえでずっと平積み、
というような売りかたをしたい一冊ですね。
── ありがとうございました。

<終わります>

2006-12-14-THU