ハードカバーの本が売れていくのって、 見ていてワクワクしてくるんですよ。


糸井 まず、こういう集いがあること自体、
僕には、ものすごく愉快です。
東京の本屋さんって、
おたがいことをどう思っているのか、
そんなことから
おたずねしてみようと思います。
広野 やはり想像したりはしますよね、
ほかの書店さんのことは。
売りかたを拝見することもございますし、
決して無関心ではないですよ。
糸井 ほかのみなさんは、どうですか。
あまりよそのことを
考えないっていう本屋さん、いらっしゃいますか?
鈴木 それは、ないでしょうね。
矢部 いや、ABCさんは、
考えないんじゃない?(笑)
鈴木 ああ、そうかもしれないですね(笑)。
矢部 だって、わが道を行ってるわけですから(笑)。
糸井 リブロさんの
その水の向けかた、おもしろい(笑)。
矢部 でもほら、ある種、独特だから。
糸井 そう思われてるみたいですけど、
どうですか、ABCの小川さん。
そもそもアルバイトなのに
仕入れを任されているほどだそうですが。
小川 そうですね‥‥。
周囲にあまり、ほかの本屋さんがない
ということもありますが‥‥。

たとえば
神保町だとか新宿でしたら
まわりにいっぱい
大型書店さんがありますけど、
うちは渋谷まで出ないとありません。
そういった面では、もしかしたら
「独特」なのかもしれませんけど‥‥。
糸井 地域的な問題だけなんですかね?
広野 いや、ABCさんは、
やはり「セレクトショップ」なんですよ。
一般的な本屋だったら
取次(註:本の問屋さん)から入ってくる本を
どう並べるか、ですけれど、
ABCさんでは、
最初からセレクトされてるんですよね。
矢部 勝負するネタが違うのよね。
糸井 これは、褒め殺しですか?(笑)
広野 いえいえ。
ふつうは本を自動的に配本する仕組みがあって、
私たちは、それをいかにさばくか、
ということに気を取られがちなんですが、
ABCさんの場合、最初からもう
要らないものは入れないと決めてらっしゃって、
逆にほしい本は、自分たちで調達するみたいなことを
ちょっと聞いたことがあるんですけど‥‥。
糸井 褒めてますよね?(笑)
広野 もちろんです、もちろんです(笑)。
ですから、私どもの場合、ある意味では
ちょっと受動的なのかもしれないですね。
でも、なるべくたくさんの種類の本を
置かなければ、という要請もありますので。

糸井 一般的に、本屋さんって
網羅的にならざるをえないですよね。
広野 そうですね。
大型書店になればなるほど。
ですから、自分たちで選んで並べるのと、
できるだけ多くの本を展開するという、
その部分の違いということですよね。
糸井 ある本屋さんのことを
みんながこんなふうに語れるってことじたい、
ほかの業種とはちょっと違うところですね。
鈴木 そうですね。
糸井 いま、ABCさんの話をしてるときに、
ほかのみんなが「そうそうそう!」って(笑)。
三省堂書店さんなんか、どう思われます?
今回のこの集いと、
「青山分校! 神田出張所」の旗ふり役としては。
秋山 そうですね‥‥。
今日、他の書店のみなさんと
こうしてお話ししてみたかったのは、
なにか新しいことを
やりたいなと思っていたからなんです。
そのときのきっかけというか
軸になるものとして、
この『三位一体モデル』という本が、
中沢先生という著者にしても、テーマとしても、
いまの時期、すごくピッタリのアイテムだった。

この本を、ほかの書店さんだったら
どんな売りかたをするんだろう。
盗めるものがあったら
盗みたいなというのもあったんです(笑)。

いまお話に出ていたABCさんなんかは
やはり、僕らなんかからすると
けっこう特殊な書店さんなんですね。
ですから、
ちょっとその辺りのことを知りたいと思って、
はじめからこの集いに入って頂けないかと
お願いしていたんです。

糸井 地域によってもそうでしょうし、
書店によってもそうでしょうけど、
みなさん、
ご自分のお店の持ち味をお持ちになっている。
それは、意識して守ろうと
なさっているものなのでしょうか?

たとえば、
丸善のイメージってありますよね、明らかに。
知念 そうですね、歴史もそれなりにありますし、
意識していくべきものだとは思っています。

「洋書の丸善」とか、
「アテナインクの丸善」とか、
冠をつけて呼ばれることもあるので、
そういった「暖簾」のような意識で
丸善らしさというのは何かということを
見つめ直していますね。

糸井 言葉になってたりはするんですか?
みんなで朝礼のときに、
「丸善とはこうなんだ」、というようなことは?
知念 社訓を高らかに朝礼で、
みたいな感じではないですね。
どちらかというと、
なんとなく持っている
自社のイメージというのを
お客さまから学んでいるという感じです。
上司が「丸善とは」と言うのではなくて、
お客様のほうから、そういうふうに‥‥。
糸井 イメージを持って、
お店にこられるかたが多い、と。
知念 はい、そうですね。
糸井 今回、三省堂さんが勇気を出して
こういう場所を提案してくださったおかげで、
本屋さんの考えてることを
いっぺんに聞ける機会ができたと思うんですが、
どうなんでしょう、
みなさん、「ライバル意識」って
どれくらい、お持ちなんですかね?
矢部 むかしは本が今より売れていたので、
書店同士のライバル意識的なものは、
きっと、もっとあったと思うんです。

でも今は、以前よりも
本が売れないという状況です。
だから、ちからをあわせようという雰囲気は、
むかしに比べたら、出てきてる気がします。

なにはともあれ、みんなで盛り上げて、
もっと本を買っていただこう、というようなね。

糸井 それは‥‥いいことですよね。

いや、景気が悪い、という話としては
よくはないんでしょうけれども、
とても、健康なことのように感じます。
矢部 ようするに、
神田の本屋さん全部で「神田書店」、
池袋の本屋さん全部で
「池袋書店」みたいに捉えてもらおう、
というような共闘意識は、
少なくとも現場の棚担当のレベルでは
あるような気がしていますね。
糸井 じゃ、もう出ものは出すし、
もらうものはもらおう、ってことで
ある種の情報共有をしながら、
あっちが得したら
こっちが損するんだみたいなことを
考えてる時期じゃないと。
矢部 そんなこと言ってる場合じゃないですよね、今は。

<つづきます>


2007-01-05-FRI