糸井 |
以前、『白い犬とワルツを』という
ベストセラーがありましたけど、
あの本で「手描きPOP」が
全国の書店で流行りましたよね。
あれなんか、「うちのマネだ!」
なんて騒がれずに、
本屋さんが、みんなで「いいこと」として
やっていたというのを
ひとりの客として見ていたんですが、
三省堂の秋山さんとか、
そういう「しかけの打率」みたいなものって、
あったりするんですか。 |
秋山 |
打率ですか‥‥難しいですね(笑)。
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糸井 |
やらなくても同じだったら、
だんだんやらなくなっちゃいますよね。 |
秋山 |
やらなくても同じってことはないですね。 |
糸井 |
それはない? |
秋山 |
なんかちょっと
オカルト的なんですけども、私の場合‥‥。 |
糸井 |
お、そういう話が聞きたい(笑)。 |
秋山 |
やっぱり、本を売るためには、
魂を入れなきゃダメなんです、本自体に。 |
広野 |
うん、うん、わかります! |
秋山 |
本にちからを持ってもらうために、
POPをつけたり、看板をたてたり、
イベントを企画したり‥‥、
そうやって「思い込ませる」ことで
本自体がちからを持っていくという感じが
すごく、あるんですよね。
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広野 |
そう、そう。
ありますよね、それは。 |
秋山 |
ですから、打率ということでいいますと、
そうやって実際に自分が仕掛けた本って、
そんなには悪くない率で
引っかかってきてると思っています。
『三位一体モデル』も
かなりの数を入れたんですけれど、
それをかるくクリアする数は、
買っていただくことができましたし。
最近では、
売れて当然なのかも知れませんけど、
『グレート・ギャツビー』なんかも
準備期間を1ヶ月ぐらいかけて展開したら、
やはり、かなり結果を残してくれましたね。 |
糸井 |
『グレート・ギャツビー』は、
一読者としてオーラを感じました。
「こっち見ろ!」って書いてありますよ、本に。
なんだろう、これも
秋山さんのいう「オカルト的」なのかな。
丸善さんなんかはどうですか? |
知念 |
単品を仕掛けることもありますし、
いまの丸善の流行りでいいますと、
「自社セレクトのセット」ですね。
たとえば、
「初めて絵を描きたいあなたにセット」
のような感じのものです。 |
糸井 |
なるほど。
その点、ABCさんはのびのびと、というか
おそらくほかの本屋さんから見たら、
売れそうだから仕掛けてるってだけじゃなくて、
マイナーなものをバーンと
前面にうち出したりしますよね。
たとえば「おもちゃカメラ」本のコーナーに
ものすごく大きな面積を割いてらっしゃいますが、
あれなんか、金勘定にばかりうるさい人が上にいたら、
「あれだけの面積におまえ、
ベストセラーどれだけ置けると思ってんだ!」(笑)。 |
小川 |
いやいや、カメラがベストセラーです。
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糸井 |
‥‥って断じて言いますよね(笑)。
でも、あれだけ置かなきゃ、
そんなことも言えないわけでしょう? |
小川 |
うーん‥‥それはどうでしょう(笑)。 |
糸井 |
いや、お店のなかに、かなりの面積で
おもちゃカメラ本のコーナーがあったら、
「これ‥‥、どういう決断があったんだろう!?」
なんて、思っちゃいますよ、ふつう。 |
小川 |
ああ‥‥そうですか? |
糸井 |
企画を出して、
ダメだっていわれること、あるんですか? |
小川 |
ダメってこと? |
糸井 |
「こんなことしたいんですけど」
「ダメ!」‥‥みたいなことは。 |
小川 |
そうですね‥‥、
やっぱり金額的に大きいとか‥‥。
でも、ダメってこと‥‥うーん‥‥。
‥‥みなさん、
どうやって「ダメ」って出るんですか?
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一堂 |
あはははは(笑)。
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糸井 |
いや、来てもらってよかったなぁ、
ABCさんには(笑)。 |
矢部 |
たぶん、個人技なんですよ。
そこのところが確固としているので、
自信を持ってやれるんですよね。
また、そういう書店であることを
お客さまも期待しているんだろうし。 |
糸井 |
芸人さんみたいなものなんですかね。
自分でネタをつくって、
それで笑ってもらったらOKじゃないですか。
だれかに「そのネタは古い」なんて言われても、
ウケたら勝ちですから。 |
矢部 |
そうですね、ある意味「思い込み」で
お客さまを見ながら、
ということだとも思いますけど、
でもやはり自分の好き嫌いだけじゃなくて、
これが売れたならこれもいける、と‥‥。
それがきっと「おもちゃカメラ」に
繋がっていったんじゃないでしょうかね。 |
糸井 |
でもお客さんって、本屋さんに
あらゆる本があることを、要求しますよね。 |
広野 |
ABCさんって、
本の検索機とかあるんですか? |
秋葉 |
すごくあいまいなジャンルわけなので、
店内の地図というか、
ナビシステムのようなものはないですね。
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広野 |
逆に、ないほうが書店員の職人技を
発揮できるかもしませんね。 |
矢部 |
だってセレクトショップだから、
ある本がなかったとしても、怒られないよね? |
糸井 |
つまり、ここで唯一、
網羅的でない書店なんですね。 |
広野 |
でも、図書館的な網羅性は
私どもには、やっぱり要求されますね。 |
糸井 |
さらに、なおかつ
「専門的」でもあってほしい、と。
お客さんからしたら。 |
広野 |
やはり、私たち書店員の側も
幻想として持ち続けちゃうんですよね、
そういう「バベルの図書館」みたいに
なんでもある本屋さんって。
実際にすべての本を網羅することは
もちろん、不可能なんですけれど‥‥。 |
糸井 |
紀伊國屋さんなんて、
いちばん網羅的だと思い込まれてますよね? |
矢部 |
スタンダードな感じがしますよね。 |
広野 |
そう、安心しますよ、たしかに。 |
糸井 |
紀伊國屋さんがそう出たんなら、
うちはふざけてやろう、
みたいなこともできそうですよね。 |
矢部 |
紀伊國屋さんにないんなら、
もうどこにもないんだろうみたいな。 |
糸井 |
ほかの書店さんから
そういうこと言われるのって
すごいことですよね。 |
鈴木 |
でも、実際にそうであるかどうかは別として、
われわれにとっては、
スタンダードなんだと思われちゃうのは
ちょっと、つまらないなぁという気はします。
<つづきます>
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