ハードカバーの本が売れていくのって、 見ていてワクワクしてくるんですよ。


糸井 スタンダードだと思われるのは
つまらない、とおっしゃいましたが、
紀伊國屋さんは規模も大きいですし、
しかけにしても、いろいろありますよね。
鈴木 ビジネス的なしかけとか、
本当にやりたいしかけとか‥‥。
私の場合は本部のバイヤーの立場なので、
自分で棚を作るわけではなく、
しかけを各店へ伝えていくという仕事ですね。
糸井 企画というお立場に近いんですね。
鈴木 現場のお客さまに、
どこまでおもしろいと思ってもらえるか、
そこが勝負どころです。

でも、年間計画のなかで、
いろいろお付き合いもございますし、
純粋にビジネスとしての取り組みも
やらなくてはなりません。

そんなときに、今回の
「ほぼ日ブックス」みたいなものが
ポーンと入ってくると、
とてもうれしく仕事ができるんですね。

糸井 それは、おもしろがってもらえている、
ということでしょうか?
鈴木 そうですね、まずスタンダードじゃない。
「ほぼ日ブックス」のことを
各店へ伝える企画書なんかは、
私の文体まで変わってるかもしれません(笑)。
糸井 それは、嬉しいですねえ!
鈴木 もちろん、そればかりやってるわけじゃなくて、
バイヤーとしての打率も考えつつ、
打ち出しかたを考えています。

でも最終的には、お客さまに
紀伊國屋っておもしろいなとか
ここで買ってよかったなと
思ってもらえることがいちばんですので、
そういう企画をやっていきたいですね。
糸井 むかしのジャイアンツみたいに、
ほかの書店から動きを注目されてる、つまり
「紀伊國屋が入れたんなら、うちも」
みたいなことが
どうやらありそうだぞということは、
きっと、意識なさってますよね?
鈴木 まあ、状況としては認識はしてますけども、
でも、ここにいらっしゃってるような
とくに大型の書店をお持ちのみなさんですと、
ぜんぜん違う本にちから入れてたりすることも
とうぜん、ありますので。
ですから、
うちがいちばん先に仕入れたから
責任重大だとか、
そういうふうには、思ってませんね。
糸井 ジャイアンツみたいではない、と(笑)。
鈴木 はい、そうではないです。
そこまでプレッシャーはございません(笑)。

糸井 でもいま、ものすごく嬉しかったのは、
「ほぼ日ブックス」だと文体も変わっちゃう、
と言ってくださったことです。

というのも、本を出版してる以上、
本屋さんが飽きずにやってくださるというのが、
すごく大切なことだと思っているんです。
つきあってみて、おもしろかったと
言ってもらえたら、励みになるんですよ。

このあいだ、最後っ屁のように
ひどいことしたのは、
金銀の『言いまつがい』の発売延期ということで
子ども用のTシャツを配らせていただいて‥‥。

あれは、そのTシャツを
「来たぞ、どう受け止めようか」って、
どこかの書店さんが思ってくれるというのを
信じてやったことなんです。
僕らとしては
「ここまでのつながりのなかで
 本屋さんとやれたらいいな」と、
思い切ったというよりも
「喜んでほしいな」という気持ちだったんですね。

ですから
「文体まで変わってるような気がします」
なんて言われると、ものすごく嬉しいんですよ。
鈴木 あのTシャツのときには、
うちのわりとおとなしい店員でも
満面の笑顔で「ほぼ日」にレポートしてたりとか、
僕のほうも、本当に嬉しかったですね。
糸井 今回の「神田出張所」だって
三省堂さんからの提案に
ここにいらっしゃるみなさんが乗って、
各書店でチケットを配ってくださって‥‥。

そうやって
一冊の本を売るなんてことができたら、
もう二度といやだって言われてもいいから
やってみたいなぁと思っていたんです。
だから、実現できて本当に嬉しいんですよ。

鈴木 でも、逆に言うと
そういう場を作ってくれる出版社さんや
本当に純粋に喜んでやれるプロジェクトって
あまりないんですよね。
現場がおもしろがっている感じ、伝わってきますよ。
糸井 それでは、
今回の集いのきっかけとなった
中沢新一さんの『三位一体モデル』って、
本の売りかたとして、
簡単なんでしょうか? 難しいんでしょうか?

あるいは、
おもしろいんでしょうか?
つまんないんでしょうか?
言い出しっぺの秋山さん、どうですか?
秋山 はい、去年、藤原正彦さんの
『国家の品格』が売れましたよね。

今年、何としても
それにあたるような本を
作んなきゃいけないというのが
私のなかで、あったんです。

そんなときに営業をいただいたのが
この『三位一体モデル』。
ちょうど、40代の男性という、
三省堂神田本店のお客さまの層に
ピッタリの内容だなと思って、
これは絶対に
ご紹介しなきゃと思ったんですね。
糸井 なるほど。
秋山 かなり売れた『アースダイバー』から
太田光さんとの『憲法九条を世界遺産に』
という流れがあって、
これは、大々的にしかければ
おそらくワッーと手にとってもらえるだろうと。

でも、せっかくやるんなら、
うちの書店だけでなく
ほかの書店さんをも巻き込んでやれたら、
もっといいんじゃないか、と思ったんです。

‥‥小さい書店さんがしかける企画や本って
メディアで注目されたりするんですけども、
うちなんかの企画からベストセラーがでても、
べつに、それほど手柄のように
言われたこともなかったですしね(笑)。

糸井 そうか!
物語性が薄くなっちゃうんですね、
大きいところがやると。
秋山 そうですね。
なので、こういう大きい書店どうしでの
しかけみたいなものがあれば、
話題としては、おもしろいと思うんです。
糸井 こんな呼びかけ人がいて、
たとえば『ベリーショーツ』が
たくさん売れる本屋で
『三位一体モデル』というのは、リブロさん。
矢部 いや、中沢先生の本じたいは
非常によく売れる書店ですよ、うちも。

だから実際に置いてみても、
やはり人文書の棚のほうで
確実に売れていくんですよね。

ですから、まずは
中沢先生のファンのかたが
最初に買って下さって
いるんだろうという感じですね。

糸井 なるほどなあ。
やっぱり本屋さんというところには、
本屋に来るクセのある人が来るわけだから、
「中沢新一」といったら
ほとんどが知ってるみたいな場所なんですね。
矢部 そうですね、中沢先生の新刊ということで、
まず、ワッと手にとってもらえた。
で、先生の本にしては値段も安いですし、
内容自体も、かなり読みやすい。

ですから、本当のことをいえば、
もっともっと、売れていい本だと思うんです。
糸井 じつはね、僕もそう思ってるんですよ。

<つづきます>


2007-01-10-WED