糸井 |
「三位一体モデル」で考える
映画評論っていうのは
ちょっと、おもしろそうですよね。 |
中沢 |
映画は、「三位一体」構造です。 |
糸井 |
みごとに、だよね。 |
中沢 |
そもそも、映画自体が
そういうふうにできてるんですよ。
だってね、映画って
フィルムのうしろから光を照らして
スクリーンに映像が映りますよね。
でも、イスラム教をはじめとした
一神教の考えかただと、
フィルムって、
あっちゃいけないものなんですよ。
神の光は、
あまねく注がれていなければならない。
一方で、キリスト教の場合には
イエス・キリストという「像」を
置いちゃったんです。 |
糸井 |
「神の子」ですね。
ようするに、
「像=フィルム」だ、と。
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中沢 |
そうです。
「神の子=像=フィルム」を
置いたために、映画が発生したんです。
だから、なぜ「映画」が
西欧で発達したかということの根っこには
キリスト教が深く関係していると、
僕はにらんでいるんですよ。
逆に、イスラム教の原理主義派などは
映画を禁止したりしていますよね。
像も壊しちゃったり‥‥。 |
糸井 |
あってはならないものだ、と。 |
中沢 |
われわれだって、そうだったんです。
日本はもともと神道だけど、
神道の神さまっていうのは
像で作っちゃいけなかったんですよ。
天照大神だって、
本当は名前があっただけですから。 |
糸井 |
うん、うん。 |
中沢 |
ところがそこに
「仏像」ってものが入ってきた。
最初はやっぱり日本人も
仏像が神を表すわけないだろうって
争っていたんだけれども‥‥。
そこに、聖徳太子が出てきたんです。 |
糸井 |
ああ‥‥。 |
中沢 |
それで、仏像が日本に定着した。
そして、神道も消滅しなかった。
ようするに、神道と仏教が、
それぞれ一人立ちしたんです。
でも、仏教のほうには
仏像というものがあった。
で、そこから生まれてきたのが
日本の資本主義なんですよ。
なにしろ、日本で最初の高利貸しって、
お寺だったんですから。 |
糸井 |
それは、仏像があったという‥‥。 |
中沢 |
はい。
資本主義を「三位一体」で考えると、
「父=国家」「子=貨幣」
「聖霊=利潤」になると思うんです。
「子=貨幣」というのは、
「聖霊=利潤」という目に見えないものを
具体的にあらわす「像」なんですね。
つまり、「子」とは「像」であり、
資本主義社会においては
それは同時に「貨幣」でもある、と。
だからこそ、仏像があったお寺は
金貸しをしはじめたんです。
逆に、神社にはそれほどお金がない。
それは、像を持ってないからですね。 |
糸井 |
ああ‥‥そうか。
神社には、像はないですよね。 |
中沢 |
仏像がないと、
お金持ちになれません(笑)。
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糸井 |
じゃあ仏像は、複製なんだ、神の。 |
中沢 |
そうです、そうです。 |
糸井 |
そして、同時にお札でもあるわけだ。 |
中沢 |
うん、サツ(笑)。
ですから、仏像があったおかげで
日本人は今日のような発展を遂げた、
とも言えるかもしれません。
日本が近代化を
乗り切ってきた秘密は仏像だった。
聖徳太子よ、ありがとう! と(笑)。 |
会場 |
(笑) |
中沢 |
でも、昔から日本人は、
神道と仏教というふたつの原理を
並べ立ててきたんです。
だから、僕たちは
仏像だけじゃ、
つまり「お札」だけじゃまずいよって
思ってるんじゃないでしょうか。
だけど、イスラム原理主義派みたいに、
その仏像を壊しちゃっても
よくないだろうなとも、思ってる。 |
糸井 |
そうですよね。 |
中沢 |
神仏習合みたいなかたちにも、
そのことは表れていますからね。 |
糸井 |
個人的な興味で
仏像を作ってみたくなるんだけど、
なんですかね、これは。 |
中沢 |
お金を作りたいからじゃないですか? |
糸井 |
あ、そう‥‥かー。 |
会場 |
(笑)。 |
糸井 |
ああ‥‥、いや、みなさん、
そうやって笑いますけどね(笑)。 |
中沢 |
でもね、おもしろいですよ。
インド人や中国人が作る仏像って
すごくリアルなんですよ。
でも、日本人の場合‥‥。 |
糸井 |
円空になる? |
中沢 |
そう、円空仏になるし、
究極的に言ったら「お地蔵さん」です。 |
糸井 |
もともとは、ただの石? |
中沢 |
そう、そこにちょっと目鼻を付けるだけ。
あれはね、神道と仏教の合体ですよ。
これは、すごい知恵だと思う。
円空仏ってのはね、やっぱり、
日本最高の思想表現じゃないでしょうか。 |
糸井 |
自然と像とが合体している、と。 |
中沢 |
仏像、つまりお金もあって、
石や金属などの自然もある。
このふたつを一緒に考えながら
これからの日本人は、
生きていったらいいんじゃないでしょうか。 |
糸井 |
なるほど、うん。 |
中沢 |
やはり、アメリカでもない、
ヨーロッパでもない、
イスラムでもない、
日本人ならではの生きかた、考えかた。 |
糸井 |
赤ん坊から働き盛りの人、
さらには老人まで
みんなが持てるイメージですよね。 |
中沢 |
そうなんです。 |
糸井 |
それを共有していこうと。 |
中沢 |
だから、「三位一体モデル」の先には
おそらく「円空」があるんじゃないかな。 |
糸井 |
ねえ。 |
中沢 |
ええ。
<終わります>
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