── ビジネス誌なんかで
「経営者のこの1冊」みたいな特集を
よくやっていますよね。
永江 はい。
── そういうとき、
いわゆる「ビジネス書」を挙げる人って
あんまりいないですよね。
永江 そうですね。

以前、ある雑誌で
社長さんや、それなりの肩書きある人に
100冊の本を挙げてもらう、という
インタビューをやったんです。
── ええ、ええ。
永江 そこでいちばん多く挙がったのが、
「デカルト」でした。
── 「われ思う、ゆえにわれあり」の、ですか?
永江 なかでも『方法序説』です。
── そういう古典的な著作から、
経営的なヒントや
思考法みたいなものが得られる、と?
永江 原理的なものや、普遍的なものって
古ければ古いほど「使える」んですよ。
── 長い時間の試練にさらされてきたから、
なんでしょうか?
永江 そうですね。
聖書の言葉なんかにも、
同じようなことが言えますよね。
── 世界最大のベストセラー、
なんて言われてますものね。
永江 ええ。でも、その社長さんたちは
決して見栄をはってるわけじゃないんですよ。
つまり、デカルトなんか挙げたら
ちょっと偉そうに見えるだろう、
なんていうことじゃないと思うんです。

というのも、『方法序説』は
理工系の会社の社長さんが
けっこう挙げてくださったんですが‥‥。
── はい。
永江 ようするに、なにかを考えるときには
できるだけ細かく分けて、
最小単位のものから考えていきなさい、
ということを、デカルトは言っているわけです。
── 微分する、みたいな考えかたなんでしょうか?
永江 こまかく細分化して、
順番にしたがって考えなさい。
『方法序説』には
そういうことが書かれているんだ、と。

そして、そういう考えかたは、
企業家として新しい商品を開発したり、
プロジェクトを始めたりするときの
考えかたのベースになるんだ、と言うんです。
── なるほど‥‥。
永江 で、それは、たとえば
経営コンサルタントのような人が
いま、こんな研究がなされているから、
今後はこういった開発を始めたらいい、
なんていう現在の話よりも、
何十年、何百年と時間を経た話のほうが
応用がきくんだ、と言うんですね。

── じゃ、たとえば『論語』なんかも‥‥。
永江 あれなんか、世のなかにおける
人と人とのつき合いかたのハウツー本ですよね。
── これだけ長い期間、
読まれつづけてきたということは、
ものごとを考えるときの
普遍的なエッセンスが
詰まっているんでしょうね。
永江 そう、そう。

逆に言うと、歴史が変わって
社会が変わっても
人間って、実はそんなに変わらない、
ということなんじゃないでしょうか。
── そういった意味では、
『三位一体モデル』も
2000年くらいの歴史を持つお話です。
永江 何千年も前でも、
いや、何千年も前だからこそ、
いまの時代に有効なことって
たくさん、あるんですよ。
── 人間は何万年もの昔から、
自然に「三位一体」でものを考えてきたんだ、
と、中沢先生もおっしゃっています。
永江 とくに「3」というのは
すごく強固な考えかたですよね。
ヘーゲルの考えかたもそうでしたし。
── 正反合、という‥‥。
永江 まったく反対のものどうしを合体させて、
より高い判断(合)を求めるというね。
── 要素がみっつある、ということで
なにか安定的になるんでしょうか。
永江 ま、カメラの三脚と
同じようなことじゃないかな。
── あ、なるほど‥‥。
永江 あれ、四脚じゃだめなんですよ。
一本だけ短かったら
ガタガタしちゃって、不安定ですよね。
── そうですね! そう言われてみれば‥‥。
かといって二脚じゃ、立たないし。
永江 大工さんなんかが
「平面出し」するときも、そう。
三辺さえちゃんと決めてあげれば、
きちんとした平面ができるわけですから。



<つづきます>

2007-02-21-WED