今回は、デザイナーとして
世界的に活躍されている深澤直人さんに
ご登場いただきました。
きっかけは、デザイン誌『AXIS』の書評コーナーで
深澤さんが『三位一体モデル』を取り上げてくださったこと。
デザイン専門誌の書評欄で、なぜこの本?
そんな話題を手がかりとしながら、深澤さんのお話は
ご自身の「デザイン観」にまで広がっていきました。
今日から全5回の連載として、お届けいたします。



── 今回、『AXIS』というデザイン誌の
書評のコーナーで、
この『三位一体モデル』を
取り上げてくださったのは
いったいなぜなんでしょう?
深澤 中沢新一さんって
芸術と宗教、という領域を、
いま、真剣に考えている
唯一の人だと思うんです。
── はい。
深澤 多摩美の芸術人類学研究所を立ち上げたり、
彼自身にとっても、
今までの「宗教」だけでなく、
「芸術」というものが
思想のなかに絡んできているみたいなので、
これはちょっとおもしろそうだぞ、と。
── なるほど。
深澤 で、今回は「三位一体」という
いわゆる思考概念のモデルについて
書かれたんだろうなと思って、
これは読んでみなければ、と思ってね。
── 具体的には
どんなところがおもしろい、と
思われたのでしょうか?
深澤 うん‥‥「芸術」というものが
経済などの問題と同列に
考えかたのなかに
入ってきているところですよね。

デザイン誌の『AXIS』を
読んでる人たちとかもそうでしょうし、
僕なんかもそうなんですけれど、
芸術やデザインというものと、
文化と宗教と社会性、経済などというのは
いつも一緒に考えている課題なんです。
── と、おっしゃいますと?
深澤 現代において、
「経済」というファクターが、
「デザイン」の
大きな原動力になっているからです。

また、これを逆にいえば
「ものをつくる」という経済行為において
「デザイン」は、いま
とても重要な役割を負っていますよね。
── たしかに、あらゆる分野で
「デザイン」が
うたわれるようになりました。
深澤 でも、そのことを完全に肯定して、
僕は正しいことをやっているんだ、
というデザイナーは
そんなに、いないんじゃないかな。
── そう思われますか?
深澤 やっぱり、みんな
多少なりとも
疑問を感じてやっていますよ。
── それは、一体どういう‥‥?
深澤 後ろめたさって言ったらいいのかな、
一方で、社会や経済が
猛烈なスピードで動いてるからこそ
必要とされている「デザイン」がある。

他方で、自分では
決して良いと思っていない仕事でも
やらなければならない、という
デザイナーの葛藤が、あるんですよ。
── デザインが「消費」されている、と?
深澤 だからいま、「デザイナー」って
なにかと注目されがちな
商売になりましたけど
決して、当の本人たちは楽観的じゃない。

こんなに次々とモノを作っていいのか、
というような
迷いがあると思うんですね。
── なるほど‥‥。
深澤 でも、むしろ
それが素直な感想だと思うんです。

そういった状況のなかで、
「三位一体モデル」という考えかたが、
芸術やデザインと、経済との関係性を
解く手がかりになりそうだから
おもしろそうだな、と思ったんですね。
── 深澤さんの書評文には、
「デザインは価値の増殖装置なんだろうか、
 経済の増殖に加担してるのだろうか」、
という問いかけがありましたが‥‥。
深澤 それはね、さっきも言ったように
この本を読んでというわけではなく、
デザイナーとして、
つねに考えていることです。

簡単に答えは出ませんけれども、
少なくとも、資本主義というものは
僕たちが
お金がお金を生むシステムを
肯定してきたがために
発達した宗教なんだ、
ということは言えるでしょうね。
── でも、デザイナーである以上、
モノをつくりたいという欲求は
誰しも持っているわけですよね?
深澤 当然です。
だから、デザイナーという仕事を
やっているんです。

でも、そのことと、
何でもかんでも作ればいいのか、
ということとは
また、別の問題ですね。

つまり「デザイン」という視点から
社会全体を見すぎてしまうと、
もっと、自分自身が
日常生活で大切にしている
「感触」みたいなものは
忘れ去られてしまうんじゃないかと。
── 日常生活の感触、ですか。
深澤 デザインって、インパクトというか、
訴えかけるちからが強いだけに、
それだけを強調しすぎてしまうと
本当に自分たちが大切にしたい
「モノとの関係性」を
見失わせてしまうと思うんです。

そういうことを考えると、
果たして自分たちは
正しいことをやってるのか、とね。
── デザインをするにあたって
「経済」というものを
そんなに意識してらっしゃるとは
僕たち一般の消費者にとっては
とても意外な感じがします。
深澤 デザインというものを
本質的に考えるときには、
作りたいから作る、というだけでは
いられなくなります。

だから重要なのは、
資本主義経済という制約なかで
いかに最適な答えを導き出すか、
ということなんですよね。
── なるほど。
深澤 そういう意味合いで
『AXIS』という雑誌の読者は
いわゆるデザイナーが大半なので、
みんな、この本を読んでみたらいいのに、
ということで、紹介したんですよ。

<続きます>

2007-04-11-WED