今回は、デザイナーとして
世界的に活躍されている深澤直人さんに
ご登場いただきました。
きっかけは、デザイン誌『AXIS』の書評コーナーで
深澤さんが『三位一体モデル』を取り上げてくださったこと。
デザイン専門誌の書評欄で、なぜこの本?
そんな話題を手がかりとしながら、深澤さんのお話は
ご自身の「デザイン観」にまで広がっていきました。
今日から全5回の連載として、お届けいたします。



── 深澤さんのデザイン観って
これまでに、
いろいろ変わってきてらっしゃると
思うのですが‥‥。
深澤 ええ、変わってますね。
── たとえば、
俳人・高浜虚子の「客観写生」という
言葉を知って、
デザイン観が変わったと
著書のなかには書いておられますし、
その他にも
「without thought」や、
「張り」、「選択圧」など、
深澤さんならではの象徴的な言葉で、
デザインのコンセプトを
表現なさることが多いですよね。
深澤 ええ。
── 「三位一体モデル」もそうなんですが、
そういった抽象的な言葉や概念から
デザインのヒントを得ることって
けっこう、あるんでしょうか。
深澤 高浜虚子は
「客観写生」という言葉を用いて
こういうふうに、言うんです。

俳句とは、詠む人の心情を
主観的に歌うものではなく、
そこにある現象を
あくまで客観的に詠むんだ。
現象をダイレクトに詠むことで、
相手を感動させることができるのであって、
あまりに主観が入りすぎては
他の人には受け入れてもらえないんだ、と。

これをデザインというものに
あてはめて解釈したとき、
「ああ、そうだね、その通りだよ」
と、思ったんです。
── 「張り」という表現については?
深澤 よく「張りがある」とか
表現しますけど、
それはいったいどういう状態を指す
言葉なんだろうか、と考えたわけです。

僕の求める答えは
辞書なんかには載っていませんから、
ようするに「張りがある」とは
どういうことで、
なぜそれは美しくとらえられるのだろう、
ということをひたすら、考えたんです。
── 「張り」とは、おもに
デザインの表面のことですか?
深澤 いいえ、「張り」を含め
デザインというのは、
表面だけの問題ではありません。

むしろ表面は、
モノの機能や中身などを含めた
デザインの「結果」です。
── なるほど。
そうやって深澤さんなりの
「張り」の解釈に
たどり着いたわけですね。
深澤 デザインって、人とモノとの
「いい関係」を作る行為です。

だから、見ためのデザインだけを
考えているだけではダメなんです。
そのモノ自体を考えた結果として
表面ができてくるんです。

それはようするに、
そのモノと、使う人との関係を
作っているということなんですね。
── その「張り」という考えかたが、
深澤さんのデザインの
ひとつの軸となっていった、と。
深澤 そうですね。

「選択圧」という言葉も
もともと遺伝子研究の分野で
使われてきた用語です。

淘汰されずに残っていくものと、
どんどん淘汰されていくものとの間の
力関係を成している
ひとつの記号だったんですね。
── ええ。
深澤 これをデザインにあてはめれば、
残っていくデザインには
それなりの要因があるし、
来年にはもうなくなってしまうデザインには
どこかに、淘汰される要因がある。
── なるほど、なるほど。
深澤 こういう余計なデザインを加えちゃったら
きっと来年には消えちゃうね、
でも、ここをもうちょっと引いて
こんなふうにやっておけば、
最初はちょっと
無味乾燥と思われるかもしれないけど、
長く愛されてもらえるんじゃないかな、
というようなことを
「選択圧」という言葉が
表しているように思ったんです。
── お話をお聞きしていると、
デザインというものは
直感だけでなくて、
論理的な思考のプロセスを経て
できてくるものなんですね。
深澤 それは、当然です。

もちろん、
はじめは直感的な感覚ですよ。
でもそれを論理化して実証してみたときに
破綻がなかったら、
もともとの直感的な感覚が
正しかったんだ、ということになるんです。
── あとから確かめている、と?
深澤 必ず、確かめています。
── 右脳と左脳を
いったりきたりしながら
進んでいくわけですか?
深澤 直感的に浮かんだデザインを
具体化したあと、
あとから必ず、分析するんです。

ですから逆にいうと、
なぜこのデザインは
こうでなければならなかったか、
ということがハッキリ言えないものは
ダメでしょうね。
── なるほど‥‥。
深澤 なぜ、このデザインでなければ
ならなかったのか。

あとから考えてみて
そこに矛盾や破綻があるデザインでは
まず、失敗でしょう。

<続きます>

2007-04-18-WED