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深澤さんのデザイン観って
これまでに、
いろいろ変わってきてらっしゃると
思うのですが‥‥。 |
深澤 |
ええ、変わってますね。 |
── |
たとえば、
俳人・高浜虚子の「客観写生」という
言葉を知って、
デザイン観が変わったと
著書のなかには書いておられますし、
その他にも
「without thought」や、
「張り」、「選択圧」など、
深澤さんならではの象徴的な言葉で、
デザインのコンセプトを
表現なさることが多いですよね。 |
深澤 |
ええ。 |
── |
「三位一体モデル」もそうなんですが、
そういった抽象的な言葉や概念から
デザインのヒントを得ることって
けっこう、あるんでしょうか。 |
深澤 |
高浜虚子は
「客観写生」という言葉を用いて
こういうふうに、言うんです。
俳句とは、詠む人の心情を
主観的に歌うものではなく、
そこにある現象を
あくまで客観的に詠むんだ。
現象をダイレクトに詠むことで、
相手を感動させることができるのであって、
あまりに主観が入りすぎては
他の人には受け入れてもらえないんだ、と。
これをデザインというものに
あてはめて解釈したとき、
「ああ、そうだね、その通りだよ」
と、思ったんです。 |
── |
「張り」という表現については? |
深澤 |
よく「張りがある」とか
表現しますけど、
それはいったいどういう状態を指す
言葉なんだろうか、と考えたわけです。
僕の求める答えは
辞書なんかには載っていませんから、
ようするに「張りがある」とは
どういうことで、
なぜそれは美しくとらえられるのだろう、
ということをひたすら、考えたんです。 |
── |
「張り」とは、おもに
デザインの表面のことですか? |
深澤 |
いいえ、「張り」を含め
デザインというのは、
表面だけの問題ではありません。
むしろ表面は、
モノの機能や中身などを含めた
デザインの「結果」です。 |
── |
なるほど。
そうやって深澤さんなりの
「張り」の解釈に
たどり着いたわけですね。 |
深澤 |
デザインって、人とモノとの
「いい関係」を作る行為です。
だから、見ためのデザインだけを
考えているだけではダメなんです。
そのモノ自体を考えた結果として
表面ができてくるんです。
それはようするに、
そのモノと、使う人との関係を
作っているということなんですね。 |
── |
その「張り」という考えかたが、
深澤さんのデザインの
ひとつの軸となっていった、と。 |
深澤 |
そうですね。
「選択圧」という言葉も
もともと遺伝子研究の分野で
使われてきた用語です。
淘汰されずに残っていくものと、
どんどん淘汰されていくものとの間の
力関係を成している
ひとつの記号だったんですね。 |
── |
ええ。 |
深澤 |
これをデザインにあてはめれば、
残っていくデザインには
それなりの要因があるし、
来年にはもうなくなってしまうデザインには
どこかに、淘汰される要因がある。 |
── |
なるほど、なるほど。 |
深澤 |
こういう余計なデザインを加えちゃったら
きっと来年には消えちゃうね、
でも、ここをもうちょっと引いて
こんなふうにやっておけば、
最初はちょっと
無味乾燥と思われるかもしれないけど、
長く愛されてもらえるんじゃないかな、
というようなことを
「選択圧」という言葉が
表しているように思ったんです。 |
── |
お話をお聞きしていると、
デザインというものは
直感だけでなくて、
論理的な思考のプロセスを経て
できてくるものなんですね。 |
深澤 |
それは、当然です。
もちろん、
はじめは直感的な感覚ですよ。
でもそれを論理化して実証してみたときに
破綻がなかったら、
もともとの直感的な感覚が
正しかったんだ、ということになるんです。 |
── |
あとから確かめている、と? |
深澤 |
必ず、確かめています。 |
── |
右脳と左脳を
いったりきたりしながら
進んでいくわけですか? |
深澤 |
直感的に浮かんだデザインを
具体化したあと、
あとから必ず、分析するんです。
ですから逆にいうと、
なぜこのデザインは
こうでなければならなかったか、
ということがハッキリ言えないものは
ダメでしょうね。 |
── |
なるほど‥‥。 |
深澤 |
なぜ、このデザインでなければ
ならなかったのか。
あとから考えてみて
そこに矛盾や破綻があるデザインでは
まず、失敗でしょう。
<続きます>
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