これまで、このコーナーでは、
『ベリーショーツ』の9つのひみつを
お知らせしてきました。
こまかく見ていくと、
この本にこらされた工夫は、
ほんとうにきりがありません。
今回は、ひみつからこぼれた
デザインのお話を
お伝えしたいと思います。
『ベリーショーツ』の本文のレイアウトは、
各ページでいちいち
デザイナーの祖父江慎さんが
「ふっふっふっふ」
と笑みをうかべながら
デザインをしていました。
お話を読みすすむうちに
「おや?」と気づくポイントが
たくさんあるのではないかと思います。
なかでも、わかりやすいのが、
このページ。
本文中の文字の色が
登場人物別に
カラフルに色分けされています。
この回のお話をデザインをしているとき、
祖父江さんは
「ええと、ええと、
これは誰のセリフ?
もっかい最初から読もうっと!」
と言って、何度も同じページを
行ったり来たり読んでいらっしゃいました。
心のなかで「早く仕上げてほしいな」と
思っていた私たち編集担当も、
この姿を見たときには、
いろんな気持ちを通り越して
「ここにいるこの人は、ただただすごい」
と思い至ったことを覚えています。
それから、「ひみつ5」でお伝えした
写真の裏も、よーく見てみてください。
写真屋さんでプリントしてもらった
「写真の裏」のような柄が
デザインされています。
よく見ると
「BANANAFILM」「877」
などの文字が印字してありますよ。
ほんとうは、写真の表面だけの印刷でも
よかったのかもしれませんが、
祖父江さんは「裏にも印刷しよう!」と
思いつき、ねばりにねばって
ここをデザインをしました。
このとき祖父江さんが
「ちょっとまってね、
ちょっとまってね」
と、蒼い顔で待ち構えている
印刷会社さんを尻目に
パソコンの前で中腰になって、
愛想をふりまきながら
過ぎ行く時間をごまかしていらっしゃったことを
覚えています。
ゴキブリさんたちの登場するページも
ごらんください。
本文の文字が、読む人の心境をあらわすかのように
ページのギリギリまで来ています。
イラストが文の中に入っている
ページも、ひとつひとつごらんください。
イラストに合わせて文章が曲がっていたり
途切れたりしています。
!も斜めですし、?もへんです。
「」(かぎかっこ)の中の文の書き方も、
ふつうの本とは違っています。
「」の中に。があったり、
「」内の文字は1字下げだったり。
これは、じつは、
小学校で習う「」の書き方の
きまりなんですって。
祖父江さんは、これを
「みんな習うけど使わない書式」と
呼んでいました。
そういえば、小学生のときは、
こうやって作文を書いていましたっけ。
遠い記憶がちょっとよみがえります。
祖父江さんは、最初、
よしもとばななさんの原稿に
どのくらいデザインを入れていいのか、
とても心配していらっしゃいました。
でも、レイアウト全体をごらんになったばななさんは
「とってもすてきです!」
と、喜んでくださいました。
ほんとに、ほんとに、
とってもすてきです。
ばななさんのお返事にほっとして、
最後の最後、表紙の裏に
祖父江さんは「消印」をデザインしました。
『ベリーショーツ』は、
誰かから届いた手紙なのでしょうか。
ばななさんからの手紙なのでしょうか。
しかしこれは、
製本所で表紙を作る際に
上下のずれがないように
かなり正確に貼りあわせないと
消印には見えません。
これが、ゆくゆくは印刷会社で
問題箇所になることは、あきらかでした。
思わず、そこにあった長いしおりを持ち、
祖父江さんにヒタヒタと近づいて
抗議しようかと思いましたが
すんでのところでやめました。
次回は、こんな祖父江さんの
「や・め・てー!(でも、やってほしい!)」な
アイデアを実現することのできた
日本に数人しかいない、
名人のみなさまのご紹介をしたいと思います。
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