大丈夫な理科系の対談。

第6回 数えきれないカルチャーギャップ

内田 日本にいると
外国人と付き合うチャンスが少ないから、
ほかの国も似たようなことやってると思うとこれが違う。
例えばヨーロッパ諸国やアメリカをを回ると
随分違うなーと。

アメリカだと、中学校ぐらいから
自分でお金を稼ぐように親がしつける。
個人として自立するというようなことを親が教育するし、
小学校でもShow&Tellみたいに、
何か持ってきて、これは私の宝物よと
一生懸命人にアピールするというような
プレゼンの練習をしますね。でもこれ、
フランスやオランダではやってないんですよね。
オランダへ遊びに行って・・・。
糸井 オランダ、僕も興味あるんです。
内田 あの、いろいろコンピュータの国際会議があって
第五世代が第五世代プロジェクトについての
招待講演に呼ばれるので出かけていったんです。
外国に出かけていって
日本人同士でかたまっていても
つまんないと思うから、
現地の人を探すわけですよ。

大体そういうカンファレンスでは
きれいなお嬢さんが受付とかしてるじゃないですか。
そういうお嬢さんたちと
おしゃべりすることにしたんです。
学術発表なんか聞いても同じようなもんだからね。
でね、そのお嬢さんたちの元締めっていうのが
いるわけですよ。会議屋さんが。
会議屋さんがどこでも、
私なんかを呼ぶ事務とかホテルの世話とかしてくれる。

それで、僕がお嬢さんたちと
いつお嫁に行くの? とかやってると
変な日本人だなあってことになる。
日本人って1人で行動する人少ないから。
そうすると会議屋さんがお嬢さんたちと
会議の打ち上げなんかでパーティやるとき
お前も面白いから一緒について来いってことになる。
そのときにね、いろんなことを話してると、
文化の違いがよくわかる。
でもそういう時に、つきあいやすい国と
つきあうとやばい、やばそうな国があって。
南の方の国は、くっついて行くとやばいことがある。
糸井 あ、そうなんですか。
内田 カトリック系の国は南の方に多いでしょ。
そっちは要注意。
北の方はプロテスタントが多いわけで、
そういう国では、
女性の権利や責任感がはっきりしてるから、
自分で自分の責任を持つ。
自分で自分の責任を持つので
何が起こっても
自分の責任よっていう国が多いんだけど、
カトリック系の国はそうはいかない。
形の上だけとはいえ、女性は守られて
リードされる立場になっちゃう。
実は凄く強いくせにさ。

だけど、それは置いておいて。
オランダなんかだと、
大体大学を出るまで親掛かりで、
女の子なんてお嫁さんに行くまで
父ちゃんべったり。
なんてことがわかった。
糸井 ほー。
内田 フランスなんかもある意味じゃ
日本の昔の家族主義みたいな文化がしっかりある。
全然違うのがスウェーデン。
あそこはひどい。
糸井 ひどい!?
内田 フリーセックスってどういう意味か
行って初めてわかった。
要するに社会生活のルールを
性別と無関係にしちゃうということだった。
男女同権、の完全実施というわけ。
女も社会へ出て行ってよいし、
男も家事をやるという。
遺伝子に書かれている男女の役割分担を
無視したルールを作っちゃった。

社会で働くと子育てなんて面倒になるらしく
また、相対的に女が強くなって
両方とも我慢しないからどんどん離婚しちゃう。
扶養の義務なんて放棄しちゃう感じで
弱者である子供にしわ寄せが行っちゃう。

可愛そうに、2度くらい離婚と再婚を繰り返すと
誰がお父さんで誰がお母さんか
わかんなくなっちゃうくらい。
それで、自分の産みの親と1年に1ヶ月は
一緒に暮らさなきゃいけないっていう
ルールがあるわけですよ。
だから、父ちゃんと母ちゃんが
離婚と結婚を繰り返すでしょう、
そうすると子供が3セットぐらい
できちゃうわけじゃないですか。

私の友人がスウェーデンに留学してましてね。
子供を連れていきますよね。
すると子供の方が隣近所と
すぐに友達になるわけですよ。
で、何々ちゃん家に行ったら、
昨日は家族が5人だったけど、
今日は8人に増えていたとか、
3人に減ってたとか、母ちゃんが代わってたとか、
っていう話になる。
実際にスウェーデン人に聞いてみると、
生みの親をと過ごすルールのせいで
そうなるというわけなんですよ。
だから、親がしっかり子供を
しつけるっていうことをしないのね。
糸井 ああ。
内田 子供たちだけで住んでる家なんていうのが
ざらにあるわけですよ、中学高校で。
そうするとね、家の前の芝生で夜中まで
酒盛りやってるわけですよ、平気で。
近所の迷惑全然考えないでやるでしょ。
うるさいから、あいつらに何か言ってこよう、
っていうと、ともかく、袋叩きにあうからやめろと。
警察も手を出せないんだって言うんですよ。
糸井 ふーん。
内田 だけどね、兵役が救いだって言うんですよ。
必ず兵役に行かなきゃいけないんですよ、2年間。
そこで初めて叩き直されるんです。
糸井 教育システムを凝縮してるわけ?
内田 してるわけ。
そこを通りすぎると、
やっと目上の人には挨拶するとかね。
朝はきちんと起きて朝食を食べて
家の中を片付けるとか覚えるんだってさ。
で、これがね、大学を出たようなカップルは
離婚しないんですって。

だからね、小学校の先生とか、
エリート階級は、しっかり相手を見定めて、
晩婚だけれども、そんなにくっついたり
離れたりしないと。彼らに言わせると、
そうじゃない人達が大問題なんだと。
だからスウェーデンの軍隊は、
国防のためにいるんじゃないって言ってましたよ。

それから、社会保障が行き届いているから
失業しても食べていけるので
プータローを通り越して
アル中がやたらと多くなるわけ。
だからアルコールがメチャクチャに高いんですよね。
そうするとそこにも抜け穴があってね、
公海上をぐるっと回って帰ってくるだけっていう
観光船があるわけ。公海の上にいる間に、
みんな飲みたいだけ飲んでね。
糸井 酔っ払い船。
内田 ぐでんぐでんになって帰ってくるわけ。
糸井 ぐでんぐでん船。
内田 だからね、スウェーデンは
人口が800万しかいないんだけど、
2割か3割かのエリートが国を支えていると。
後は単純労働者だと。
土地も領海も広いから、
きこりとか漁師とか食うには困らない。
税金はメチャ高いけど国は豊か。

日本にししゃも送って暮らしてる、
そういう国なんだよと、聞かされて。
フリーセックスというのは
すごい社会実験なんだと思ったわけ。
隣のフィンランドとかノルウェーは違うんですよ。
いろんな国みてきたけど。
糸井 ああ。
内田 あとすごいなぁと思ったのが、ドイツ。
ドイツ人とは一緒に仕事やりたくないなって感じ。
苦い経験がありましてね。
もう何しろ、やり始める前にもう、
仕事の分担をまずきっちりやる。
なあなあっていうのが全くないの。
糸井 ベンツが今、アメリカとドイツの
合弁になったでしょう。
きっついらしいですね、
両方のすごいところを足しちゃって。
内田 ああ、アメリカもすごいですもんね。
糸井 ベンツは凄いらしいよ。
金はある、ビジネスは長けてる、
こっちできっちりしてる、掛け算ですから。
内田 ホントそうでしょうね。
そう思う。
日本の明治の人たちがね、
憲法だけはドイツを真似したけれども、
教育とか政治の仕組みは
全部イギリスにしたっていうのが
本当によく分かる。

イギリスがね、プロテスタントの
ちょっと砕けた感じなんで、
日本人とよく合うんですね。
いい加減さがちょうどいい。
しかし、イタリア人までいい加減になると
もうついていけないですからね。
ブラジルなんてもっとついていけない。

ブラジルで講演したんですよ。
あなたの講演時間は
午後の一番目ですって言われて、
準備してたわけ。
そうしたら、まず午前中のセッションが
午後2時まで延びたわけ。
で、それから飯食いに行くわけ。
一緒にいこうよ、と。もうとっくに
昼休みのスケジュールは過ぎてるのに
急がないし、全然平気ですよ。
しかも飯はやっぱり2時間かけて食うんだって言って。
だから私の講演は4時ぐらいにやっと始まって、
講演時間は何分ですかって聞くと
Don't mind.って。
糸井 ドンマイと。
内田 好きなだけしゃべりなさいと。
6時に終わるはずが8時でも平気ですよ。
糸井 それはそれで、そういうシステム同士では
上手くいってるんですよね。
内田 それでいいんですね。
糸井 だから、そういうの全部と
アメリカンスタンダードがぶつかって、
これから淘汰されてくんだと思ってるんですよ。
おそらくブラジルにだって、
きっとアメリカンスタンダードが
入っていくわけですよね。
で、そうはいかねえぜっていう場面がきっと、
アメリカが今主役ですからぶつかって
摩擦受けてここは変えてっていう風に
曲げますよね。
曲げたもの同士がまたバラバラになって
存在するっていう状態になると僕は思うんです。
内田 なぜ今いろんな国の例を言ったかっていうと、
他の国は陸でくっついてるから、自分の国のね、
他の国と比べての特異性っていうのを
よくわかってるわけですよ。
それ故にそれが自分の国のアイデンティティにも
なってるんだっていうのを分かってるから、
外国文化が来てもここまでよ、って、
その境界をはっきり宣言して切るわけ。

ところが日本ってそういう意味じゃ
純潔もいいところでしょう、ナイーブで。
周りの国との違いっていうのが分かってないと思うの。
僕もアメリカ人やヨーロッパ人、
中国人とかとやりあうまでは、
みんな日本人と同じだと思ってつきあってたの。
で、大失敗を重ねてね。
糸井 重ねましたか。
内田 重ねましたね。
日本人と同じ気配りをするだろうとかね。
アジアだけじゃなくヨーロッパでも。
例えばね、一番典型的なのは、
人のもてなし方の違い。

大学にいたとき、
先生の大事なお客さんが羽田に来るから、
お前接待しなさいと言われることがよくあった。
すると我々はね、その方が不自由ないように
ベッドに寝るまで傍にくっついて、
いろいろ何かご用がないか聞かにゃあならんと。
次の日は、ちゃんと朝お迎えに伺いますから
と言って、なるべく早めに行って、
私は待ってますので出発の準備ができたら
いつでもどうぞとか。
そのほか退屈しないように話し相手するとか。
密着型の接待をしないといけないと思ってますよね。
アメリカに長く住んでいる中国人の先生に
ある時、教えられたんだけど
日本ではそういう風にやるのが良いんだろうけど
幸か不幸かお前のやり方は、外国では……
糸井 うるさい、と。
内田 くっついていられるとイヤなんだと。
私の場合、離れろなんて言う人いなかったけどね、
紳士だから。

今度は私が逆の立場で接待されて
ご招待されるときに、何されたかっていうと、
You must be tired. だと。
だから、あなた一人にしてあげるからね、
明日何時に迎えに来るからね、
さようならって帰っちゃうわけですよ。
ちょっと、町の中くらい案内してくれたって
いいのにとか、このホテルの中広いんだけど
どの飯屋が一番うまいかとか、
教えてくれたらいいじゃないか、とか
思うじゃないですか。
明日何時から講演するのかとかね。
何にもしないで帰っちゃうの。
糸井 どっちがいい?っていう選択は一番リッチですよね、
きっと。
内田 そうですよね。
そういうの見て、やっぱり、ほら。
糸井 違いますよね。
内田 日本流を期待してるから
不慣れな土地で泣き喚くわけですよ。
明日何時にどこ行きゃいいんだ、とか。
朝一番の講演だから会場を前に見ておきたいとか、
いろいろ言おうと思ってたことがあったのに
誰もいなくて心細くなって。
いくら電話かけてもね、着くのが土日で、
大体月曜日からっていうのが多いじゃない。
で、全然ケアしてくれないでしょ。
こりゃ酷いやつに呼ばれたなと思ったら、
そうじゃなかった。

中国人の先生に招待された時は
中国人の先生は日本人的にくっついてくれるわけ。
だから、その時に質問したらそうなんだよと。
中国とか日本の文化は、密着型で、
リスペクト(respect)してるというのを
常に脇くっついていることで
表現しなきゃいけないんだけれど
個人主義の国では、他人は
いつもコンペティターであるから、
緊張感が生じるんだって。
独りになってるということが
一番、リラックスできる状態なんだっていうから、
日本人なんかそんなことしたら
寂しくてたまんないって言ったわけで…。
糸井 それはモンゴリアンの特徴なんですかね、
もしかしたら。
その究極はエスキモーですよね、
奥さんをどうぞっていう。
内田 ああ、そうかもしれない。
こういうのが失敗の例ですけども。
他にも数え切れないほど
カルチャーギャップの違いでおこる失敗
っていうのがあって。

2000-08-31-THU

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