大丈夫な理科系の対談。

第8回 イヤじゃない? というひとこと

内田 第5世代コンピュータの研究のためにICOTは、
大勢研究者をアメリカやヨーロッパから招いて
一緒に仕事をしたんだけど、
そうすると日本の仕事の
スタイルの中に入れちゃうわけですよね。

最初は結果の平等に非常に不満を示すわけですよ。
俺は他の仲間よりもっとコントリビュートしたとかね。
日本にいる限り、いくら頑張ったって給料増えないし、
研究室長に昇格したりすれば別ですけど、
そんなこともない。

しかし、そうこうしているうちに
彼らの驚くことが起こるわけですよ。
そいつがたまたま失敗したり、
サボってたところを頼みもしないのに、
グループの中の誰かがやってくれて
カバーされてるわけですよね。
日本だったら、病気で休んだ人が出たら
誰かが代わりにやってくれて
仕事が遅れないようにするとかいうの
当たり前じゃないですか。
それにすごく驚くんですよね。
糸井 で、驚いた人は、
そっちがいいって言わないんですか。
内田 こっちの方がよくなっちゃうわけ。
糸井 でしょう。
だからやっぱり、
僕アイディアで勝ってるんだと思うんですよ。
内田 だから、長く居ると
だんだん日本人化しちゃうわけですよ。
でね、さらに日本文化に興味を持つようになって
それまでホテルに泊まってたのが、
畳の部屋の旅館に移りたいとかね、
言い出して、それから大変(笑)。
糸井 かえって面倒くさい(笑)。
内田 そう。
北海道で、外国人お断りなんていう
風呂屋があったりするでしょ。
あれやっちゃうわけですよ。
体中石鹸つけて湯船に入っちゃう。
その辺の旅館のおばさんなんて
英語できないですから、あわてふためいて
怒ってくるわけ、こっちに。
その度に平身低頭してね。

ICOT研究所は、三田国際ビルに入っていたから
その近くにあった春日旅館っていう所に
よく泊まるようになったんですけど。
あの辺バブルのときは建築ブームだったから、
土方のおっさん達も大勢泊まってたわけね。
その土方のおっさんたちのビヘイビアがひどいんで、
それに比べると外人は時々変なことはするけど、
非常に素直でよく言うこときくと。
で、土方のおっさん達と酒酌み交わして
大喜びするやつも出たりして。
それやっちゃいけないんだっていうと、
They're very kind.とか言ってね。
だからだんだん日本人化して、
パーティなんかやると歌、歌ったりしてね。
糸井 おそらく、イヤじゃない? って言う内田さんは、
嫌なところでは、動機を持てないから
勤めないですよね。
だから動機を求められるところに自然に
長い目で見たら動いてますよね、大勢の人々が。
で、結果的に一番いい方法が
見つかるんじゃないかっていう、
僕はオポチュニズムがあるんですよ。
内田 だから、外国人が日本人化するのと同じように
日本でもベンツとクライスラーがくっついたら
その会社の中の仕事のやり方が
厳しくなっちゃう
というようなことは起こると思うんですよ。
糸井 もっと起こりますよね。
内田 だって、その方が経済的に有利なんだから。
企業はホントに
お金いくら儲けたかが勝負なわけで、
そうすればやっぱり従業員にそういう風な
勤務体制とかモラルを強制しますよね。
それは厳しいけど、やんなきゃ負けるから、
背に腹は代えられないでやるんでしょうけど。
糸井 ですから、ネット型の、僕の考えてることって
ちょっとユートピア的過ぎるかも
しれないんですけども、
ベンツとクライスラーがくっついて、
言わば、現在において、
パーフェクトに見えるシステムができたときに、
そこじゃないものが、こっちのがいいだろ
羨ましいだろうっていう会社が
仮にあったとしますよね。
勝ってないんだけど、市場規模では。
で、ベンツはつぶそうとしてつぶせなかった、
それはあるお客さんのある部分に
訴えかけるものがあったっていうときに、
給料を比べたら小さい会社の方が良かった。
まあ、よくなくてもいいんだ。
そのどっちが楽しいだろうって比べる
きっかけひとつあるだけで、
ダイムラー・クライスラー・ベンツの人たちが、
俺ここ辞めるっていう人が、5人いたら、
ダイムラー・クライスラー・ベンツの人は、
いけねって思いますよね。
内田 うん。
糸井 つまり、生産効率っていう意味でも
下がっちゃうし、ビジネスでも、
ソフト供給する人が動いちゃったら
どうしようもないわけです。
で、前半の話でとってもよく分かったけど、
本当に素晴らしいソフトを供給する人の数って
本当に少ないから、そういう人ほど敏感で、
動くんですよ、きっと。平気で。
そうやって僕は、
その国際社会のバランスっていうのが
見えないように、
蹉跌が磁石にサーっと集まるように
動いてくんじゃないかな。
だから、このやり方いかん、
って言ってる時にそうじゃないやり方を、
全く違う方法で考えるみたいなことを
多発させるような力が、
本当は今のインターネットに
あると思ってるんですよ。
内田 日本人が自分のアイデンティティの
良さにも悪さにもよく気が付いていたら、
そのサーッと動く時に、
もう少しお利口に行動できたんじゃないか
というケースが起こるんじゃないかと。
糸井 そうですね。
内田 非常に心配なわけで、
アメリカ流の悪いところばかりとるとね、
ロシアみたいにマフィアの国に
なっちゃうじゃないですか。
まあ、彼らは共産主義が当たり前で、
それが世界唯一のパターンだったわけだから。
そこにポッと新しい資本主義というのが入って
ノールールになっちゃった。
糸井 そうですね。
ロシア見事にそうですね。
内田 免疫ないところに病原菌が来ちゃった
みたいなもんですよね。
日本人もそういうところあるから心配ですよね。
もうちょっと、大局的に見て、何が起こっているのか
さっき、糸井さんが言われたような、
ダイムラー・クライスラー・ベンツみたいに
なるのはいいけど、
アメリカン・スタンダードの中でも、
何でもありで、泥棒すれすれというようなところまで
行っちゃいけないとか、
考えながらやりたいですよね。

日本が貧しかったときは
結果の平等でよかったんだけれども
少し豊かになったら
談合体質にが強くなって、
ともかくもう既得権化してね、
非常に固い社会になっちゃった。
故に、技術競争で負けちゃって
会社が沢山つぶれるという状況になってる。

じゃあ、社会の仕組みとか生活のルールを
アメリカ型に変えて行こうというんだろうけど、
個人の生活や会社の仕組みとか、
いろいろあるわけですから、
どれを切り替えて
どれを切り替えないのか、
よく考えないといけないですよね。

日本は、そういうの、
あまりやったことがない。でも、
それは切り替えうるわけですよ、ルールをね。
そういうときにどうやって
ルールを切り換えればいいか
考えようじゃないかとか、
フランスなんかでは
すごくやってるわけですよね。
糸井 あそこはまた、階層がきれいに分けられるから、
逆に実験しやすいっていうところも
あるんでしょうけどね。
余ったインテリの数が多いから。
内田 その通りですね。
すごく中央集権的な政府の強い国でありながら、
個人がしっかり主張する国でもあるわけですね。
で、行き過ぎちゃった部分もあって。
例えば人を雇って、首にすると、
その後、何年間も給料の7〜8割を
払い続けなくちゃいけないなんて
極端なルールをつくっちゃう。
糸井 ルールで守るべきルールで縛ったものって、
絶対に「イヤじゃない?」っていう一言に
転覆されるわけですよ、やっぱり。
その、転覆されるっていうか、
遵法闘争されちゃったり、
サボタージュされちゃったりすると、
生産性も落ちますよね、経済構造としてはもう。

フランスの話詳しくないけど、僕。
前からいた外国人と生粋のフランス人と
最近入った外国人の割合が
本当に三分の一ずつになってるんですって。
あれってものすごいんだって。
全部が珍しいことになっちゃったらしいんですよ。
半分半分とかと違って、三分の一ずつってね、
混沌どころじゃなくって、
渦巻きの中に毎日居るみたいらしい。

で、面白いという意味では
こんなに面白いことはないんだけど、疲れるって。
選択しちゃったんだよねそこを。
で、まあ、またこんなとこ居られないやっ、
て思ったら出るし。
変わっていくんだろうし、
長ーい歴史のレンジで言うとね。

だから3年でコンピューターが
ころころ変わるみたいなレベルで
人間の社会システムも
そういう風に見えてますけど、
超長い歴史で考えたら、
そんなに変わっちゃいないって
思う方がいいんだと思ってるんですよ。
内田 だから、遊牧民族だと
選んだリーダーの資質でもって
群れ全体が死んだりするわけだけれども、
そういうことも無かったから。
それでも、日本海という海があったおかげで、
全くインベードされず、
インベードされそうになったら神風が吹いて、
船が沈没して助かるし。
占領してくれたのがソビエトじゃなくて
アメリカで、そこに派遣されたのが
アメリカの理想主義者たちだったから。
糸井 運ですよね。
内田 貧富の差が無い、
前より公平な社会になって、
却って良くなっちゃった。
そんなことだから、
自分のアイデンティティを守ることの大切さを
学ばないで来た。
例えば韓国においては、
日本語教育を強制されたわけで、
あんなことでもやられれば、
もっと日本語大事にしようって思ったんだろうけど
そんなこともなかったから、
どんどん外来語も入れちゃうし。
そういう時代というか、IT革命の時代は
日本民族にとって大切な曲がり角だから。
やはり、いいリーダというか、政治家が欲しい。
糸井 ちょうど、このシリーズみたいに、
ポンペイの歴史の専門の先生とお話してたら、
政治っていうのはやっぱり、
政治的に一番難しい状況でないと、
政治家は育たないっていうんですよ。
内田 ああ、なるほどね。
糸井 これは、もうなるほどって。
内田 ああ、言えますね。
糸井 だから、日本はしょうがないって言うんです、
政治が下手なのは。
下手だしダメなのは、外圧があって、
内部にまた奴隷がいてっていう場所だから、
ローマの政治っていうのは進歩した。
今の日本では、次のステップではきっと
ありうると思ってるんですよ。
リスクを含んだチャンスの連続みたいなものを、
しかけられますし、その実際あちこちで
たくさん聞いてますよね。
外国勢が入ってきたおかげでこうなったって。
政治家がついにできるんだけども、
それがいいことかどうか知りませんけどね。
まあ、その都度の政治しか
今は選択しきれないんで、
しょうがねえよっていうのが。
内田 とりあえず、行き当たりバッタリで、
アメリカと日本を足して
2で割ったようになるのか、
また途中で回帰してね。
もうちょっと違ったものになるのか。
でも、今度は和を以って尊しとなすんじゃ
ないと思うんですよね。
糸井 じゃないですね。
無理ですよね。
内田 談合やって既得権を分かち合う
体質なんかは消えるでしょうね。
従来だったら官僚は官僚としての
既得権を守ろうとしてますけど、
それも変わるでしょう。
北海道での飲み食いを四国につけ回すという、
すごいスーパープレーができたわけですよね。
そんなことができる国はなかなか無いですよね。
糸井 そういう調節技巧ありますよね(笑)。
内田 すごいメカニズムですよ、それ。
アメリカなんかだったら仕事の上の関係なんて
ほとんどその日限りみたいなもんですからね。
糸井 おそらく、そのアメリカン・スタンダードの
源になってるのは、やっぱり数がどれだけ売れるか、
何人の人が集まるかの、また数量のものなんで、
数量っていうものに裏切られるのが
次の歴史の転換じゃないかと思っていて。
今は、とにかく数量だってところで。
流されているようで、
実際には誰見てたって、
生活見てると数量の一番高いところに
どどどどっと行ってる人なんて
ひとりもいないわけですよ。

で、ま、1000万人がレコード買ったとしたって、
1000万人しか買ってないとも
言えるわけですよね。
その意味では、数量の次に来るのは
何なんだろうっていうのが、
さっきの研究者のプライドですかって
言ったような、アートの部分とか、
もうそれしかないでしょうというところを
どれだけ一人ずつが面白がれるかなと
思ってるんですよ。

そのためには、他人のそれしかないものを
どれだけ認められるかっていうことが重要になる。
そうすると一番重要なのは、
次は、たくさんの異文化ですね。
国内の異文化と接触するためには
たくさんの交流ですよね。
そうするとインターネットじゃないって、
また戻るんですよ。

このネットが入ったことで
できたことっていうのが、ものすごいものだって。
人間を変えるとは言わないけれども、
人間の生きる仕組みを変えるだろうなとは思いますね。
コマースじゃないんだよっていうのが
一番言いたいことなんですけどね。

内田俊一さんへの激励や感想などは、
メールの表題に「内田俊一さんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。


2000-09-12-TUE

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