大丈夫な理科系の対談。

第10回 育てたものじゃないと、うまくいかない?

(註:この対談は2000年7月に収録)

糸井 おととい、邱永漢さんにまた会ってて、
邱永漢さんって起業が大好きなんですね。
で、なんか考えちゃ会社にして、
いろんなこと知ってるわけですよ。
彼がよく言うのは
ビジネスホテルを発明したのは俺だ、とか、
いっぱいあるんですよ。それこそ。

そんなにいっぱい作って、
本人はずっと監督してるわけでもなければ
社長やってるわけでもないんですよ。
中華料理屋にしてもそう。
次の誰かがやってるんですよ。
それって、邱さんはひょっとしたら
何百と会社を作っていることになる。

で、どうやって自分が抜けたあとの
トップを決めてるんですか、って
すごいシンプルな質問したら、うれしそうに、
買ったものはだめなんですよって言ったんですよ。
つまり、自分が抜けたあと任せる人をどっかから、
そういう職種の人から買ってきて
そこのポストに入れたらだめなんですって。
運転手だったやつでもいいんだって。
10年かかるんだって。
内田 育てるわけですか。
糸井 で、育てたものじゃないと、
うまくいかないんですって。
渡せないんだって。
それはねー、僕は、歴史の知恵というか。
福嶋 それ、でも会社の数だけやってるんですね。
糸井 そう。それはね、恐ろしいと思いましたね。
つまり今は起業ブームだから、
マーケティング会社の人がルールを熟知してるから
って入れてるわけですよ。
つまり、野球チームで言えば、
大リーグをずっと観察してきたスポーツ記者を
いっぱい入れてるみたいなもんですよね。

果たしてそれで全部の会社を、
ま、トップか副社長にして、
運営していくとどうなるかというと、
おそらくなんですけど、
おんなじ種類の人たちの戦争、
コンペティションですね。
これはダンピング競争になるのが
目に見えてるんですよ。
内田 なるほど。
糸井 そんときに、いや、それがわかるまでには
時間がかかった。邱さん76歳ですけど、
76歳の邱さんが10年かかるっていうんで、
で、どんな人でも自分のそばにいて育てた人に
任せたらだいたいは大丈夫。
あとはもうアイディアがそんなに要るわけじゃない。
内田 うん、何を取るのでしょうね。
糸井 びっくりしたんですけど、
僕はもっと聞きたいんですけど、
本当に難しいことだって言ってましたね。
内田 アメリカ的だとね、ヘッドハンティングしますね。
糸井 そうです、そうです。買い物だっていうんです。
それでね、既製服はだめだっていったんですよ。
内田 それがだめだっていったら、
アメリカは全部だめになっちゃう。
糸井 そうなんです。
福嶋 生え抜きってことですか。
糸井 生え抜きってことに近いだろうし、
単純に短い時間の中で僕が考えたのは、
買ったのは全部おんなじ工場で作られていると
いうことがひとつだな、とまず思いました。
もうひとつは、呼んできたときに、
高いギャランティしないとだめですね。
つまり、プライド料を、
例えば2000万円なら2000万円だしたら
そこから下がるってことは許せないんですね。

ところがずっと一緒に居て、
単に運転手してた人が社長になったときには、
最初から知ってるわけで、
100円を稼ぐことのすごさっていうのを
わかってるから、
2千万円でひきこまなくても、
500万円ではじめて、
おっと400万円になっちまったぜ、
っていうときに耐えられるらしいんです。

だから、商いのレンジっていうのも
彼ぐらいのほんとの仙人みたいなベテランになると、
そのレベルがあるみたいなんですよね。
これはね、きっとまたアメリカ人はそれを解析して、
その勉強をするんだと思いますけどね。
内田 アメリカ流でいえば、ま、買ってはくるんだけど、
買ってきた人間に全力を尽くさせる方法が
コンペティションなわけ。
糸井 ということですね。
内田 いつでもそれに代えられる人を脇に置いといて、
脅しかけてるような。
糸井 はい。それが耐えられないっていうのは
僕ら日本人はすぐに思うけど、
アメリカ人はみんながそうだから我慢してますね。
でも爆発しますよね。
内田 それにね。早く、短期にね、
貯めるものを貯めてリタイアしちゃいたい、
って彼らの夢ですね。
65歳まで働きたいなんてやつは日本人ぐらいで。
糸井 おもしろいのは、そのリタイアの結果は
まだ出てなくて、ヤッピー世代の次の世代ですよね。
早く貯めて、早い話が外からまた買った
CEOみたいなものを入れて、
自分が株主になってリタイアして、
「じゃぁ何する?」っていうときの夢が、
あんまり無いんですよ。
つまりヨットであったり、車であったり、
女であったり、家であったり。
あ、またおんなじと思いますね。あと麻薬ですよね。
内田 ま、もう一回会社作るとかね。
糸井 ああ、それは繰り返してる人はいっぱいいますね。
だから本当にリタイアしてるという人はいないし、
つまり、「ほんとに欲しいものって何?」
っていう質問に対して
アメリカは答え出せない。

競争だから競争だ。
おもしろいぞ、勝つのは。
っていう教育まではできるんだけど、
幸福感について、クリントン見てても
よくわかるけどわかんないですよね。
権力までしかわからない。
でも権力の外側っていうのも、
宗教って曖昧な垣根があるから、
ごまかしちゃうじゃないですか。
ごまかしちゃうおかげでかえって見えなくなるものが
あるんだと思うんですよ。

日本人はね、そういう意味ではね、
ご隠居さんとか、けっこうその、
ジャンルが多いんですよ。
小商いとかね。アパート経営とか。
職人としての腕を見せるだとか。
ちょっと大事にされたり。
さっき内田さんおっしゃった、
日本の文化みたいなところに、
実は意外に小さなシステムがいっぱいあって、
それが何かなーっていうのは
僕は落語なんですけど、実は。
落語の世界がユートピアだと思ってんですよ(笑)。
内田 アメリカ人だとね、
ウィークエンドファーマーとかね。
糸井 ああ、また戻ってますね(笑)。牧場とね。
内田 そうですね。
福嶋 イギリス人は、ガーデニング。
内田 イギリスに行くとね、
大学の先生で、都会と田舎に家2軒持っている人
いるんですよね。
街ん中にフラットっていうのを持ってて、
それから週末に帰るために、
車で1時間から2時間の田舎に、
きったない農家かなんか買ってるわけね。
日本もね、金持つと何やるかっていう
典型ってあって、
自分の親も見事にそれにはまってましたね。
糸井 家ですかね。
内田 いや、まずですね。女を作る、店をもたせる、
糸井 それパターンですからね。
内田 まさにパターンですね。
それからね、自分が死ぬ時の準備として、
葬式やるには家は狭いとかって、
裏に家建てるんですね。
10畳を3つつなげた部屋を作って、それから
そのときに来た人にお茶出すために
脇に台所がないと、とかいいながら
台所やトイレを作ったりしましたね。
糸井 迎賓館ですね。
内田 その家で親父の葬式やったんだけど、
そのあとが困りましたね。
使い勝手が悪くて、他に使いようが無い。
広いし寒いし。
そのつぎはお墓ですよね。
糸井 そうですね。パターンですね、全部ね。
内田 お墓の方は生きてるうちにね、
ちゃんと坊主に高い金出して、戒名もらって。
糸井 高い戒名買うんだ。
内田 自分だけじゃなくて、私の母親の戒名もらって、
石碑をりっぱに立てて、石に刻んだ文字は
朱色に塗っておく。
糸井 ええ、セッティングして、そこまで。
内田 そこまでやると後はやることが無くなっちゃう。
糸井 そこで適度に女がもめたりしてくれると、
もうちょっと膨らみができるんですけどね。
内田 もめるんですけど、解決できちゃう?
糸井 いや、金が余計にかかるだけだから、
数量でまたカバーできちゃう。
内田 もともとケチでしょ。金貯めるくらいだから。
どんな時でも、ちゃんと計算はしてるんですね。
このくらいなら、出してもいいかなと。

明治の頃は、そういうのが男の甲斐性とか
言っていたんだと思うんですよね。
うちの親父は、明治の思想を受け継いだ人
だったから、そういう行動は、
非常にティピカルな感じがしてね。
糸井 ティピカルですね。
内田 日本の田舎に育つと、その地域、よく言う
村(ムラ)から外へ、発想が展開しないわけで
家業を盛り立て、子孫に財産を残すという点では
一所懸命やる。

でも、邱永漢さんみたいなグローバルな視野に立って、
外国のベンチャーに投資するなんて
外向きの発想は出ないんですよね。

日本の国の政治は、村の政治をそのまま
持ってきたというはやはり当たってる。
インターネットの時代になってもまだ、
日本人の考え方の元は、村のモデルが中心にある。

その村の中で、それなりに工夫を凝らして
金儲けして、村長さんになるためにがんばる
なんてことをやる。
糸井 すごいゲームなわけですね。
生きがいであったりして。


2000-11-18-SAT

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