同じじゃないから、愛がある。

糸井重里と古賀史健の「手で書くこと」についての対談

ほぼ日刊イトイ新聞

糸井重里は、昨年の夏から
ある万年筆を使い始めました。
ふつうの万年筆とはちょっと違う、
ノック式の「キャップレス万年筆」です。
すると、使い始めて間もなく、
「書くおもしろさみたいなものを
急に思い出した」といいます。

糸井がキャップレス万年筆を使う
きっかけをつくったのは、
『嫌われる勇気』などの著書で知られる
ライターの古賀史健さんです。
古賀さんも、この万年筆と出合ったことで
「手で書くこと」の大切さについて
あらためて考えたのだそうです。

パソコンを使って文章を「書く」ことを
仕事にしているふたりが
万年筆を使いながら感じている
「手で書くおもしろさ」って、
どんなものなのでしょう。
万年筆を入り口に、
メモ、漢字、マンガ、書、文章、手帳‥‥と
さまざまな角度から語られた
「手で書くこと」についての対談をお届けします。
古賀史健さんプロフィール

古賀史健(こが・ふみたけ)

ライター、株式会社バトンズ代表。
1973年、福岡県生まれ。
出版社勤務を経て、1998年フリーランスに。
著書に『嫌われる勇気』
『幸せになる勇気』(共著・岸見一郎)、
『20歳の自分に受けさせたい文章講義』、
インタビュー集に『16歳の教科書』シリーズ
などがある。

第1回
書くおもしろさを、
急に思い出した。

――
昨年の8月1日に、
古賀さんがブログで、
パイロットのキャップレス万年筆のことを
書いていらっしゃったんですよね。
古賀
はい、そうですね。
――
糸井も、古賀さんが使っているのを見て
すぐに使い始めて。
それから約半年が経ったのですが、
おふたりとも、いまもキャップレス万年筆を
ずっと使い続けていますよね。
糸井
うん、使ってる。
――
「考えて、表現する」ということを
ずっとしてきているおふたりが、
どうしてこの万年筆にたどり着いたのか。
そして、手書きよりも
パソコンやスマホで書くことが主になった時代に
なぜ万年筆を使って、手で書くのか。
そんなことを、お話いただければと思っています。
古賀
ぼくは、これまでずっと
3色ボールペンを使っていたんですが、
このキャップレスに出合ってから、
しっかり万年筆を使うようになりました。
糸井さんはどうでしたか。
糸井
万年筆については、
自分なりに歴史があるんです。
ぼくが小さいときは
「大人のシンボル」だったんですよね。
学生服の胸ポケットに
万年筆を挿しているのが、
中学に入った証拠みたいなものだった。
古賀
へぇー。
糸井
万年筆と、それから時計。
腕にはセイコー、あるいは
シチズンの時計がついていて、
胸にはパイロットかセーラー、
あるいはプラチナの万年筆が挿してあって。
万年筆と時計が
あのころの中学生のシンボルであり、
大人への一歩だったんですよね。
古賀
なるほど。
糸井
親も、小学生にランドセルを
買ってあげるのと同じように、
中学生には万年筆を
買ってあげるような感じだったなあ。
いまはもうないですよね、そういうの。
古賀
そうですね。
高校のときに、時計がかろうじて
あったぐらいでしたね。
糸井
なるほどね。
それで、そのころって
結局はシンボルなわけだから、
いわば、使わない刀を挿してる
武士みたいなものなんだよ。
古賀
(笑)
糸井
いや、いちおうは使うんだけど‥‥。
まわりの人たちに対して
「どうだ!」って
見せつけているだけ、みたいな。
古賀
ええ。
糸井
ですから、自分で買えるようになると、
買い直したりもするわけです。
たしか、パイロットのキャップレス万年筆は
わりと早めのころに登場して‥‥
あれは高校だったかな、中学だったかな。
ぼく、買ったんですよ。
――
初代キャップレスの発売は1963年なので、
糸井さんが15歳ぐらいのときですね。
糸井
ああ、そのぐらいだね。
そのときは
よかった、悪かったというよりも、
キャップレスという未来的な万年筆、
未来的なシンボルを手に入れたことが
うれしかったんですね。
古賀
ああ。
糸井
それで、はじめのうちは
まわりの友だちにアピールするための
シンボルとして持っていたんだけど、
だんだん大人になっていくと
必要なくなるわけですよね。
それよりも今度は、
どこのブランドのどんなものを
持っているのがカッコイイか、を
気にしだすわけで‥‥。
古賀
そうですね(笑)。
糸井
だから、大学を中退したあとに
万年筆を買ったときの気持ちは、
車を選ぶときの気持ちに似ているんですね。
だからね、舶来がいいの(笑)。
古賀
舶来が。
糸井
左ハンドルの車に乗りたい。
ブランドの万年筆を持ちたい。
そうやって、みんなだいたい
舶来を買うんですよ。
古賀
わかります。
糸井
当時、キャップレスと同じように、
未来を感じさせるシンボルだなと思った
アウロラエステルっていう万年筆があって、
今でもよく憶えていますね。
ちょっと細身の円筒状の万年筆で、
かっこいいなぁと思って飛びついた。
そのあとは落ち着いて、その都度
だいたいペリカン、パーカー、モンブランとか、
イタリアの手作りのものとか、買っていました。
もう完全にシンボルとして、ですね。
古賀
うん、うん。
糸井
でも結局、鳥が羽で
飾り立てるのと同じなんだよね。
書くという万年筆の機能は
もちろん知ってるんだけど、
実際に万年筆で書く場面って、そんなになくて。
ぼくがずっとやっていたのは、
鉛筆で書いているのと
変わらなかったんですよね。
‥‥なのにですよ、この歳になって。
古賀
ええ(笑)。
糸井
古賀さんが、このキャップレス万年筆を
見せてくれたときに、
「ああ、古賀さんみたいに
“たくさん書いてる人”が
この万年筆を使っているのか」って、
ものすごく興味が出たんです。
ぼくは古賀さんほど
たくさん書くわけじゃないけど、
使ってみたら、
書くおもしろさみたいなものを、
急に思い出したんですよ。
古賀
そうだったんですか。
糸井
‥‥というのも、いままで
どの筆記用具を使っていても、
思いどおりの字が書けていないような
気がしていたんですよね。
「もうちょっと、こうじゃない感じに
書きたいんだけどな」
って、思いながら書いていたんです。
だけどこれは、
書いた字がイヤじゃなかった。
古賀
うん。
糸井
いまでもその秘密はわかりません。
手帳を毎日ちゃんとつけるようになったのも、
この万年筆のおかげなんです。
古賀
糸井さんは、最近ずっとおっしゃってますよね。
「手帳はいいんだぞ」ということを。
糸井
うん。「手帳はいいんだぞ」(笑)。
古賀
(笑)
糸井
いや、ほんとに、いいんですよね。
急いで書きなぐるときと、
なるべく丁寧に書いておこうと思うときとで、
それぞれ違った味わいの
文字になって表れますし。
あと、万年筆のインクが乾くのを
待ってる時間もいいよね。
古賀
ああ、いいですね。待つ時間。
糸井
この万年筆を買う前は、
本にサインをするときとかにいいな、という
フェルトペン
買い貯めしていたんです。
でも、いまは、誰かにサインを頼まれたときも
この万年筆で書くようになってしまって。
古賀
たしかに、糸井さんの字って、
サインペンのイメージがありました。
糸井
そのサインペンで手書きした文字を
そのまま本のタイトルに
使ったときもありましたからね。
でも、この万年筆は、なんだろう‥‥
なんだかフィットしたんですよ。
引力で書けるんですよ。
古賀
ええ、わかります。引力で書ける。
糸井
ちょっとびっくりしたんですよね。
書くスイッチを入れたつもりもないのに、
ずーっと自然に文字が流れ出ていく感じ。
その流れるような感覚が、
自分に合っていたんでしょうね。

(つづきます)

2018-05-28-MON

ほぼ日の
キャップレス万年筆を
作りました!

ほぼ日のキャップレス万年筆 ¥21,600(税込)

ほぼ日20周年を記念し、
パイロットのノック式万年筆
「キャップレス」をベースにした
「ほぼ日のキャップレス万年筆」を
300本限定で作りました。

キャップレス、つまり
キャップのない万年筆。
ワンタッチで使える気軽さと
なめらかな書き味を兼ね備えた
ノック式の万年筆です。

マットブラックの落ち着いたボディに、
シルバーのクリップを組み合わせた
オリジナル仕様。
重さは30gで、安定感のある使い心地です。
ペン先には18金を使用しており、
字幅は手帳や手紙を書くときに使いやすい
「細字」を採用しています。
ブラックのカートリッジインキが
1本ついています。

この対談で語られたキーワードでもある、
「同じじゃないから、愛がある」
ということを大切にしたい、という思いから、
万年筆の軸部分に、
あることばを入れることにしました。
それは同時に、ほぼ日の創刊当初からある
スローガンでもあります。

「Only is not lonely」

ひとりであるということは、
孤独を意味しない。

この万年筆から生み出されるものは、
あなたにしか書けない、
あなただけのことばであり、文字である。

「書く」ことがうれしくなることばとともに、
長く、大切に、使っていただけますように。

この万年筆の販売は終了いたしました。