書くおもしろさを、
急に思い出した。
- 古賀
- はい、そうですね。
- ――
- 糸井も、古賀さんが使っているのを見て
すぐに使い始めて。
それから約半年が経ったのですが、
おふたりとも、いまもキャップレス万年筆を
ずっと使い続けていますよね。
- 糸井
- うん、使ってる。
- ――
- 「考えて、表現する」ということを
ずっとしてきているおふたりが、
どうしてこの万年筆にたどり着いたのか。
そして、手書きよりも
パソコンやスマホで書くことが主になった時代に
なぜ万年筆を使って、手で書くのか。
そんなことを、お話いただければと思っています。
- 古賀
- ぼくは、これまでずっと
3色ボールペンを使っていたんですが、
このキャップレスに出合ってから、
しっかり万年筆を使うようになりました。
糸井さんはどうでしたか。
- 糸井
- 万年筆については、
自分なりに歴史があるんです。
ぼくが小さいときは
「大人のシンボル」だったんですよね。
学生服の胸ポケットに
万年筆を挿しているのが、
中学に入った証拠みたいなものだった。
- 古賀
- へぇー。
- 糸井
- 万年筆と、それから時計。
腕にはセイコー、あるいは
シチズンの時計がついていて、
胸にはパイロットかセーラー、
あるいはプラチナの万年筆が挿してあって。
万年筆と時計が
あのころの中学生のシンボルであり、
大人への一歩だったんですよね。
- 古賀
- なるほど。
- 糸井
- 親も、小学生にランドセルを
買ってあげるのと同じように、
中学生には万年筆を
買ってあげるような感じだったなあ。
いまはもうないですよね、そういうの。
- 古賀
- そうですね。
高校のときに、時計がかろうじて
あったぐらいでしたね。
- 糸井
- なるほどね。
それで、そのころって
結局はシンボルなわけだから、
いわば、使わない刀を挿してる
武士みたいなものなんだよ。
- 古賀
- (笑)
- 糸井
- いや、いちおうは使うんだけど‥‥。
まわりの人たちに対して
「どうだ!」って
見せつけているだけ、みたいな。
- 古賀
- ええ。
- 糸井
- ですから、自分で買えるようになると、
買い直したりもするわけです。
たしか、パイロットのキャップレス万年筆は
わりと早めのころに登場して‥‥
あれは高校だったかな、中学だったかな。
ぼく、買ったんですよ。
- ――
- 初代キャップレスの発売は1963年なので、
糸井さんが15歳ぐらいのときですね。
- 糸井
- ああ、そのぐらいだね。
そのときは
よかった、悪かったというよりも、
キャップレスという未来的な万年筆、
未来的なシンボルを手に入れたことが
うれしかったんですね。
- 古賀
- ああ。
- 糸井
- それで、はじめのうちは
まわりの友だちにアピールするための
シンボルとして持っていたんだけど、
だんだん大人になっていくと
必要なくなるわけですよね。
それよりも今度は、
どこのブランドのどんなものを
持っているのがカッコイイか、を
気にしだすわけで‥‥。
- 古賀
- そうですね(笑)。
- 糸井
- だから、大学を中退したあとに
万年筆を買ったときの気持ちは、
車を選ぶときの気持ちに似ているんですね。
だからね、舶来がいいの(笑)。
- 古賀
- 舶来が。
- 糸井
- 左ハンドルの車に乗りたい。
ブランドの万年筆を持ちたい。
そうやって、みんなだいたい
舶来を買うんですよ。
- 古賀
- わかります。
- 糸井
- 当時、キャップレスと同じように、
未来を感じさせるシンボルだなと思った
アウロラエステルっていう万年筆があって、
今でもよく憶えていますね。
ちょっと細身の円筒状の万年筆で、
かっこいいなぁと思って飛びついた。
そのあとは落ち着いて、その都度
だいたいペリカン、パーカー、モンブランとか、
イタリアの手作りのものとか、買っていました。
もう完全にシンボルとして、ですね。
- 古賀
- うん、うん。
- 糸井
- でも結局、鳥が羽で
飾り立てるのと同じなんだよね。
書くという万年筆の機能は
もちろん知ってるんだけど、
実際に万年筆で書く場面って、そんなになくて。
ぼくがずっとやっていたのは、
鉛筆で書いているのと
変わらなかったんですよね。
‥‥なのにですよ、この歳になって。
- 古賀
- ええ(笑)。
- 糸井
- 古賀さんが、このキャップレス万年筆を
見せてくれたときに、
「ああ、古賀さんみたいに
“たくさん書いてる人”が
この万年筆を使っているのか」って、
ものすごく興味が出たんです。
ぼくは古賀さんほど
たくさん書くわけじゃないけど、
使ってみたら、
書くおもしろさみたいなものを、
急に思い出したんですよ。
- 古賀
- そうだったんですか。
- 糸井
- ‥‥というのも、いままで
どの筆記用具を使っていても、
思いどおりの字が書けていないような
気がしていたんですよね。
「もうちょっと、こうじゃない感じに
書きたいんだけどな」
って、思いながら書いていたんです。
だけどこれは、
書いた字がイヤじゃなかった。
- 古賀
- うん。
- 糸井
- いまでもその秘密はわかりません。
手帳を毎日ちゃんとつけるようになったのも、
この万年筆のおかげなんです。
- 古賀
- 糸井さんは、最近ずっとおっしゃってますよね。
「手帳はいいんだぞ」ということを。
- 糸井
- うん。「手帳はいいんだぞ」(笑)。
- 古賀
- (笑)
- 糸井
- いや、ほんとに、いいんですよね。
急いで書きなぐるときと、
なるべく丁寧に書いておこうと思うときとで、
それぞれ違った味わいの
文字になって表れますし。
あと、万年筆のインクが乾くのを
待ってる時間もいいよね。
- 古賀
- ああ、いいですね。待つ時間。
- 糸井
- この万年筆を買う前は、
本にサインをするときとかにいいな、という
フェルトペンを
買い貯めしていたんです。
でも、いまは、誰かにサインを頼まれたときも
この万年筆で書くようになってしまって。
- 古賀
- たしかに、糸井さんの字って、
サインペンのイメージがありました。
- 糸井
- そのサインペンで手書きした文字を
そのまま本のタイトルに
使ったときもありましたからね。
でも、この万年筆は、なんだろう‥‥
なんだかフィットしたんですよ。
引力で書けるんですよ。
- 古賀
- ええ、わかります。引力で書ける。
- 糸井
- ちょっとびっくりしたんですよね。
書くスイッチを入れたつもりもないのに、
ずーっと自然に文字が流れ出ていく感じ。
その流れるような感覚が、
自分に合っていたんでしょうね。
(つづきます)
2018-05-28-MON