脳から出てきた
「一番しぼり」。
- 糸井
- こっちの万年筆はね、
吉本隆明さんの形見なんですよ。
- 古賀
- あっ、そうなんですか。
- 糸井
- 吉本さんのところで、
「なんか形見もらおうかな」って言ったら、
「なんでも持っていっていいよ」って言われて。
- 古賀
- (笑)
- 糸井
- 万年筆が何本か挿してあったのを、
1本もらったんです。
これが、癖のあるペン先でね(笑)。
- 古賀
- (笑)
- 糸井
- だから中学生のときに思った、
万年筆が大人のシンボルだっていう考えは
いまでも、残っている部分があるんでしょうね。
持ち歩いてますよね、古賀さんも。
- 古賀
- 持ち歩いてます。
黒のほかに、赤も持っています。
- 糸井
- ぼくも、いま持っている
キャップレス万年筆は、4本になりましたね。
手帳に挿して持っているこれと、
家に置いてある5年手帳用の、
もっとペン先が細いものと。
それから赤が2本と、もう1本は遊軍。
- 古賀
- ぼくも、いま5本ぐらいありますね。
机の上が汚いので、手を伸ばせば
どれかにあたる状態です(笑)。
- 糸井
- (笑)
- 古賀
- さきほど、ぼくはたくさん書いているって
言っていただいたんですけど、
実はというか、当然、
ぼく、原稿はパソコンで書いているんですね。
- 糸井
- そうですよね。
- 古賀
- だから、手書きをするのは、
取材中や打ち合わせ中にメモをとるとき、
というのが多いんです。
それから、原稿をどういうふうに
書こうかなって考えながら、
自分用の設計図をつくるために
手で書くことも多いと思います。
- 糸井
- うん。
- 古賀
- で、そういうときって、
3色ボールペンとかのほうが、
機能的には絶対いいんですよ。
大事なところを赤で書いたりできますし。
- 糸井
- そうだね。
- 古賀
- それこそ、パイロットが出している
フリクションという
消せるボールペンがあって、
それをここ数年、ずっと使っていたんです。
でも、消せるという前提で書いたものって、
鉛筆もぼくにとっては近いんですけど、
ちょっと雑になるんですよ。
言葉の選び方とかが。
- 糸井
- なるほど。
- 古賀
- いちばん典型的なのは、
消す前提で書くときって、
漢字を調べないんです。
- 糸井
- ああ。
- 古賀
- あとで清書するときに、
調べて書けばいいやって思うから。
不確かなまま漢字を書いたり、
ひらがなで書いちゃったり。
でも、万年筆を使うようになってから、
ちゃんと辞書を引くようになった(笑)。
- 糸井
- それはいい(笑)。
- 古賀
- 辞書を引きながら書いていると、
その漢字の用例も目に入るから、
「あ、この言葉から
こういうふうに広げられるな」っていう
発見もあるし、たまに
「これはぜんぜん思い違いだったな」って
言葉もあったりします。
- 糸井
- 広がっていくんだね。
- 古賀
- はい。
万年筆を使うようになって、
書くことが丁寧になってきた実感が
確実にありますね。
- 糸井
- だから万年筆って、
覚え書きとかメモとかっていう、
「脳から一番しぼり」で出てきたものを、
ちょっと丁寧に書いてるってことですよね。
- 古賀
- あ、そうですね。
- 糸井
- うん。その感覚かもしれないなぁ。
「一番しぼり」だ。
- 古賀
- 一番しぼり(笑)。
(つづきます)
2018-05-30-WED