同じじゃないから、愛がある。

糸井重里と古賀史健の「手で書くこと」についての対談

ほぼ日刊イトイ新聞

糸井重里は、昨年の夏から
ある万年筆を使い始めました。
ふつうの万年筆とはちょっと違う、
ノック式の「キャップレス万年筆」です。
すると、使い始めて間もなく、
「書くおもしろさみたいなものを
急に思い出した」といいます。

糸井がキャップレス万年筆を使う
きっかけをつくったのは、
『嫌われる勇気』などの著書で知られる
ライターの古賀史健さんです。
古賀さんも、この万年筆と出合ったことで
「手で書くこと」の大切さについて
あらためて考えたのだそうです。

パソコンを使って文章を「書く」ことを
仕事にしているふたりが
万年筆を使いながら感じている
「手で書くおもしろさ」って、
どんなものなのでしょう。
万年筆を入り口に、
メモ、漢字、マンガ、書、文章、手帳‥‥と
さまざまな角度から語られた
「手で書くこと」についての対談をお届けします。
古賀史健さんプロフィール

古賀史健(こが・ふみたけ)

ライター、株式会社バトンズ代表。
1973年、福岡県生まれ。
出版社勤務を経て、1998年フリーランスに。
著書に『嫌われる勇気』
『幸せになる勇気』(共著・岸見一郎)、
『20歳の自分に受けさせたい文章講義』、
インタビュー集に『16歳の教科書』シリーズ
などがある。

第4回
「叩く」じゃ、できない。

糸井
書くことってさ‥‥
いまさらだけど、やっぱり思うのは、
「書く」ことって
「線を引く行為」なんですよね。
古賀
そうですね。
糸井
たとえば、木や石を「叩く」という行為から、
「書く」ことは、できないんです。
あえて言うなら、
石に刻む篆刻(てんこく)は
あるかもしれないけど。
古賀
ああ、篆刻。
糸井
でも、いまは
なんでもタイピングになっちゃった。
たとえば、「あいうえお」にしても、
キーボードを叩いて
A-I-U-E-O って書くわけでしょう。
「かきくけこ」だったら、
K-A-K-I‥‥って叩くわけだよね。
「叩く」で文字を生み出すというのは、
「書く」こととは
ぜんぜん違う行為なんじゃないか、って。
古賀
違いますよね。
糸井
そもそも、象形文字をなぞることで
コミュニケーションのツールを
つくってきたのに、
「叩く」で、ぜんぶを
済ませちゃうというのはどうなんだろう。
‥‥って、タイピングをはじめる前に
自分が思った疑問を、
いまごろになって、また思うわけです。
古賀
よくわかります。
いま、ライターさんの中でも、
取材中にパソコンでメモをとる人が
多くなってきたなと思うんですよ。
糸井
いますねぇ。
古賀
でも、ぼく、個人的には
それじゃ、わからないんじゃないかな、
という気がするんですよね。
手書きとは、自由度がぜんぜん違いますから。
糸井
そうだね。
古賀
線を引っ張ったり、
矢印を引いたり、下線を引いたり‥‥。
手で書くときって、
文字を書くだけじゃないところで
メモをとったり、アイディアをふくらませたり
するわけですよね。
糸井
うん。
たとえば、キーボードを叩くだけでは、
こういうものはつくれないんですよね。
「古賀さんは、だいたい
このあたりにいますよ」とか。
古賀
できないですね。
糸井
古賀さんが言ってる
手書きのメモって、
こういうことを含むわけですよね。
古賀
はい、そうです。
たとえば‥‥
ぼく、字が汚いので、
お見せしづらいんですけど‥‥。
糸井
(笑)
古賀
これ、「ほぼ日の学校」のイベント
橋本治さんがお話されたときのノートなんですが。
糸井
ああ、12月のときのですね。
古賀
ここで、矢印を引っ張ったりしています。
糸井
うん。こういう自由な矢印は、
タイピングじゃ出てこないね。
古賀
それから‥‥
「書いて、考える」ということについて
このふたつを並べて考えてみたら
おもしろいかも、と思ったんですが。
糸井
おお。
古賀
ひとつは、
糸井さんが岩田(聡)さんから
パソコンを薦められたときに、
岩田さんから教えてもらったという
ツリー型のツールの話です。
たしか、こういう図をつかって
どんどん枝分かれさせて考えていくと
思考をまとめられるというものでしたよね。
糸井
そうそう。
岩田さんが教えてくれたのは、
なにかを考えるときに、
「男がいる、女がいる」というときには
ここで分けられますよね、と。

「男の中でも老人がいる、若い人がいる」というと
こうやって分けられる。

さらに
「老人の中でも病気の人がいる、健康な人がいる」
みたいに、分けていく。

なにか、ものを考えるときに、
このツールを使って考えていくことで、
「若くて健康な人がこうである」みたいなことが
言えますよ、ということなんだけど。
古賀
ええ。
それで、そのときの話が、糸井さんには
「まったく響かなかった」と
おっしゃっていましたよね。
ぼく、その話がすごく印象的だったんです。
糸井
響かなかったですね。
おもしろくないなと思ったんです。
岩田さんは熱心に教えてくれたんだけど、
ぼくは「うーん、こうじゃないんだよね」って、
ずっと言ってた。
「たとえば何かのコピーを考えるときには、
その考え方だけではダメだと思うんだよ」って。
古賀
はい。それで‥‥
こっちが、もうひとつのほうです。
このメモは、ツリーハウスの企画を考えるときに
糸井さんが書かれたものですよね。
今日の話で使えるかなと思って、持ってきました。
糸井
ああー。
これは、まさしく、ぼくですね。
古賀
こういう、考えの広がりのつくりかたとかは、
やっぱり手書きじゃないと、と思ったんです。
見ていて、よろこびの成分があるし、
おもしろいんですよね。
糸井
そうだね。
古賀
あと、糸井さんが昔、
矢野顕子さんといっしょに曲をつくるときに
FAXで歌詞のやり取りをしていらして、
そのときも歌詞のまわりに
絵とかを描いていらっしゃいましたよね。
糸井
ああ、描いていましたねえ。
古賀
それもやっぱり、
キーボードを叩くだけじゃ
できないことだなぁと。
糸井
うん。
そのFAXに描いた絵も、
歌詞自体には関係ないことかもしれない。
でも、そばに絵が置いてあることで、
関係ないなと思いながらも、
どこかでちゃんと見えているんです。
それが、歌詞とか歌に
影響してくることだってあるからね。
古賀
そうですね。
糸井
なんだろう‥‥。
たとえていうと、
花火の仕掛けみたいなものかもしれない。
古賀
花火‥‥ですか。
糸井
花火って、大玉の中に小玉が入っていて、
火薬の玉と玉がお互いに干渉しあって、
ひとつの花火が上がるわけですよね。
古賀
ああ。
糸井
そういう意味では、ぼくの脳みその中も、
手書きのメモに近いかもしれない。
なにかのそばに、なにかを寄せて考える、
ということを、絶えずやっているから。
だから、ぼくがツリーハウスのことを
考えるときにやっていたのは、
岩田さんが言ってた「分けていく」考え方よりも
「そばに置いていく」考え方なんですね。

(つづきます)

2018-05-31-THU

ほぼ日の
キャップレス万年筆を
作りました!

ほぼ日のキャップレス万年筆 ¥21,600(税込)

ほぼ日20周年を記念し、
パイロットのノック式万年筆
「キャップレス」をベースにした
「ほぼ日のキャップレス万年筆」を
300本限定で作りました。

キャップレス、つまり
キャップのない万年筆。
ワンタッチで使える気軽さと
なめらかな書き味を兼ね備えた
ノック式の万年筆です。

マットブラックの落ち着いたボディに、
シルバーのクリップを組み合わせた
オリジナル仕様。
重さは30gで、安定感のある使い心地です。
ペン先には18金を使用しており、
字幅は手帳や手紙を書くときに使いやすい
「細字」を採用しています。
ブラックのカートリッジインキが
1本ついています。

この対談で語られたキーワードでもある、
「同じじゃないから、愛がある」
ということを大切にしたい、という思いから、
万年筆の軸部分に、
あることばを入れることにしました。
それは同時に、ほぼ日の創刊当初からある
スローガンでもあります。

「Only is not lonely」

ひとりであるということは、
孤独を意味しない。

この万年筆から生み出されるものは、
あなたにしか書けない、
あなただけのことばであり、文字である。

「書く」ことがうれしくなることばとともに、
長く、大切に、使っていただけますように。

この万年筆の販売は終了いたしました。