同じじゃないから、
愛がある。
- 古賀
- 最近、5年手帳を書くようになって、
将来、読み返すときが来るのが
すごくたのしみなんですけど。
- 糸井
- たのしみですね。
- 古賀
- あれはたぶん、パソコンでやってしまったら、
ぜんぜんおもしろくないんですよね。
- 糸井
- おもしろくないですよ。
- 古賀
- 自分で書くいろんな文章って、
第一の読者は自分だと思ってるんですよ、ぼくは。
- 糸井
- そうだと思う。
- 古賀
- 手書きで書いた字のほうが、
あとで読んだときの自分が、うれしいんですよね。
それはぼくにとって、
ほぼ日手帳が続く理由でもあります。
5年手帳がおもしろいのは、
読み返したときに
未来の自分が絶対にうれしいだろうなって
想像できるからなんですよね。
- 糸井
- このあいだ書いた
「雪と桜とブイヨンと」っていう文章のタイトルも、
これを見たときに、ぜんぶ思い出せるように
と思ってつけたんです。
- 古賀
- ああ、そうだったんですね。
- 糸井
- だからこれは、
5年手帳をつけていたせいで、
うまれたフレーズです。
「この景色、いいでしょう」というものを
見せたかったんじゃなくて、
あとで、自分が見たときのことを
考えながら書いた。
それは、未来の自分への手紙とも言えるね。
- 古賀
- そう思います。
- 糸井
- 5年手帳はね、ぼくをまた変えましたよ。
なにを食べたかだけでも、
あとで見ると、絶対おもしろいと思う。
- 古賀
- おもしろいですね。
- 糸井
- 「俺は4種類のものしか食べてない」って
気づいたりとかね。
いると思うよ、そういう人。
- 古賀
- (笑)
- ーー
- それこそ、タイピングで
4種類の食べ物を書いていっても、
ただの単語の羅列にしか見えないでしょうけど、
一冊の手帳の中に
手書きで文字を書いていくと、
その「積み重なっていってる感じ」が表す
「まるごと感」みたいなものが、出てきますね。
- 糸井
- そうだね。
たとえば概念として
「2」という数字はゆるぎないですよね。
だから「2ってなあに?」というとき、
みんなが共通の認識を持っているし、
「2」っていうもの自体がここになくても
存在はゆるぎないんですよ。
- 古賀
- はい。
- 糸井
- それから、たとえば
「いまから、10ケタの数字を渡しますよ」
っていうときは、
誰もが、それをもらうことができるし、
何度でも、同じ数字を再現できます。
つまり、それは
「同じものがある」ということです。
- 古賀
- ええ。
- 糸井
- じゃあ「手書きの2」はどうか。
もう、違うんですよね。
- 古賀
- そうか。ひとつひとつ、違いますね。
- 糸井
- 「りんごの2」と「みかんの2」が違うように、
同じ概念にしかすぎないものを
違って見せちゃう、ブレさせちゃう
という効果が、手書きにはあるんですよ。
- 古賀
- うん、うん。
- 糸井
- 「タイピングの2」だったら、
共通のフォントを使って、
みんなに配ることができる。
ポケモンの新しいキャラもみんなに配れるし、
「わぁ、もらった」ってみんなも言う。
でも、もし
「おじさんがポケモンを描いて渡すからね」
って言ったら、
「これは違うよ」って言われるでしょう。
- 古賀
- 「こんなのピカチュウじゃないよ」って(笑)。
- 糸井
- うん、なるかもね(笑)。
つまり、手書きでは、
ひとつずつが違うんだよ。
「ぜんぶが違う」というところに
現実があって、
それが愛の理由なんだよ。
- 古賀
- ああ。
- 糸井
- お、いまのところは
エコーをかけて言いたいね。
愛の理由なんだよ、理由なんだよ、なんだよ‥‥
- 古賀
- (笑)
- 糸井
- つまり、歳も背丈も服装も
同じような男の子がいたら
概念としては「同じ4歳児の男の子」なんだけど、
うちの子と隣の子は違う。
双子だって、そっくりでも違う。
ぜんぶ違うというところに
愛情の原因があるんだよ。
それは、とんでもなく大事なことなんだよね。
- 古賀
- はぁー、そのとおりですね。
- 糸井
- でも、人はね、
同じものがあるということを信じて、
デジタル社会を生きてるんですよ。
同じだったら、愛はないですよ。
「また買えばいいじゃない」になっちゃう。
もちろん、
「また買えばいいじゃない」というものが
いっぱいあることも、
人の豊かさを満たしてくれるから、
いいんですけどね。
- 古賀
- うん。
- 糸井
- そうやって考えると、
「ほぼ日」は案外
「同じがない」というところに、
息をしている会社なのかもしれないよ。
- 古賀
- ああ、そうかもしれない。
「同じものがない」ということが、
価値になるというのは、いいですね。
- 糸井
- 昨日のわたしと
5年後のわたしが違うっていうのもさ、
なんか、いいじゃない?
記号としては同じ「糸井重里」なんだけど、
「この5年で、ぼくはずいぶん変わったんだ」
「もうむかしのぼくじゃないよ」って
言えるからね。
- 古賀
- いいですね。
- 糸井
- 複製してしまえば、見た目はそっくりだし、
情報としても同じなんだけど、
「ぼくの手書きのが1枚あるよ」って言ったら、
「コピーより、手書きのほうがほしい」
という人は、いるよね。
- 古賀
- それは、ひとつの価値になりますもんね。
- 糸井
- 同じものに満たされてるという幻想に、
ぼくらは生きている。
それは、頭の中につくった概念でしかない。
そのことを忘れずにいようよ、
ということかな。
- 古賀
- うん、そうですね。
(つづきます)
2018-06-04-MON