第1回 しくみの先祖は歌舞伎。 |
本日の更新 |
第2回 猫や犬でも名役者に見える? |
2010-03-11-THU |
第3回 糸井重里が役者になれない理由。 |
2010-03-12-FRI |
第4回 キャスティングは、将棋。 |
2010-03-15-MON |
第5回 口説く、断られる。 |
2010-03-16-TUE |
第6回 「腕」だけの役者はいらない? |
2010-03-17-WED |
第7回 3年前からキャスティング。 |
2010-03-18-THU |
第8回 キャスティングのよろこびを。 |
2010-03-19-FRI |
糸井 | もともとは、うちの社内で 「杉野さんのキャスティングという仕事は、 なんだかすごくおもしろそう」 っていう声が出てきたのが始まりなんです。 で、ぼくも、そりゃあそうだなぁと思って。 |
杉野 | ありがとうございます。 |
糸井 | ただそうはいっても、 キャスティングのおもしろさを伝える方法には ちょっと自信がなかったんです。 くわしいことは知らないですから。 じゃあ「芝居」っていう大きな枠で、 映画だけじゃなく演劇のお話もうかがおうと。 そこからいろいろ派生するような形で 「キャスティング」についてのお話を していけたらいいなと思って、 今度は北村さんに「助けてください」って お願いしたわけです。 |
北村 | よろしくお願いします。 わたしに出る幕あるの? という感じですが。 |
糸井 | いやいやいや。 あの、さっそく訊いてしまいますけど、 昔からそういう専門の仕事っていうのは あったんですか。 映画のキャスティングっていう。 |
杉野 | 映画は‥‥専門では、 たぶんなかったのではないかと。 ぼくが映画やらせていただくようになって 25年になりますけど、 助監督の見習いで入ったころは、 そういう専門職はなかったと思うんですね。 たぶん、プロデューサーのかたとか、 アシスタントプロデューサーのかたが やってらっしゃったんじゃないかと。 |
糸井 | ほう、そうですか。 監督はあんまり キャストの希望を言わないんですか? |
杉野 | いや、監督の希望は大きいです、 映画の場合は。 とくにぼくが映画の世界に入ったころは、 監督至上主義でした。 |
糸井 | 監督至上主義。 |
杉野 | 監督が「カラスが白い」って言えば、 そうですねっていう(笑)。 |
糸井 | はい。はい(笑)。 |
杉野 | そういう世界だったと思います。 |
糸井 | キャスティングっていうのが まだ専門職じゃなかったころは、 まず前提として監督の希望があったんですね。 「こんな人と組みたい」っていう。 |
杉野 | ぼくが入ったころはそうです。 まずは監督から。 |
糸井 | そうか、そうか。 じゃあ、当然キャスティングの専門職なんかは‥‥ |
杉野 | 必要ないです。 |
糸井 | そうでしたか‥‥。 劇団の場合はどうなんでしょう? |
北村 | 基本的には「劇団」ですから、 一座ごとにキャストを決めるだけの話です。 |
糸井 | ああ、なるほど。 |
北村 | 最近でも多いのは、 劇団がゲストを呼ぶっていうやりかたが‥‥ |
糸井 | ありますね、その場合は? |
北村 | 最初から、あてがき(演じる役者を想定し、 その個性にあわせて脚本を書くこと) が多いんですよ、劇団の場合は。 「あの人が来るからこういう役を書いておこう」と。 |
糸井 | じゃあ、どちらにしても、 キャスティング専門の人は 長いあいだ必要なかったと言えるんですか? |
北村 | 必要‥‥なかったんでしょうねぇ。 |
杉野 | ‥‥なかったんでしょう。 |
糸井 | そうかあ(笑)。 |
北村 | 先ほど杉野さんから 昔は監督が決めていたお話をうかがいましたけど、 もっとさかのぼると 「役者ありき」なんですよね。 |
杉野 | ああー、はい。 |
糸井 | 役者ありき。 |
北村 | 基本的に映画もそうですけど、 もともと歌舞伎の人たちを引っ張ってきて、 映画をつくったわけじゃないですか。 |
糸井 | うん。 |
北村 | だから映画界の最初は、 歌舞伎のやり方っていうのを けっこう踏襲してるわけですよ。 |
糸井 | そうか! |
北村 | 「付き人」とか、 そういうやり方も含めて、 映画界は歌舞伎のそれをまねて やってきてる部分があるんです。 だから、役者優先。 役者ありきなんですよ、 歌舞伎界とおなじで。 |
糸井 | そうか。 映画が歌舞伎のまねをして、 そのあとはテレビですもんね。 |
北村 | そう。 |
糸井 | 先祖は歌舞伎ですね。 |
杉野 | なるほど。 |
北村 | 役者は歌舞伎にしかいなかったから。 映画つくるっていっても、 ぜんぶ歌舞伎の人を引っ張ってきたわけですよ。 長谷川一夫にしろ、市川雷蔵にしろね。 |
糸井 | そうだ、そうだわ。 |
北村 | で、まずは役者ありきで、 企画を考えたりっていうことなんでしょうね。 |
糸井 | キャスティングなんて概念はないですね。 |
北村 | ないです。 |
糸井 | 「オレこそがやるんだ」 とかって役者が言ったら、もう。 |
北村 | もう決まりでしょう。 |
糸井 | 譲るしかないみたいな(笑)。 |
杉野 | そうですよね。 |
糸井 | はぁー。 そういえば専属契約とか、 映画会社で役者を縛ってましたもんね。 |
北村 | そうです。 |
糸井 | 日活の人は、東映には出ないとか。 あれもいつの間にか、もうないですよね。 |
杉野 | ないですね。 |
糸井 | そうかそうか。 キャスティングがいらないどころか、 いても、口をはさめっこないですね。 |
北村 | ないですよねぇ。 |
糸井 | 役者ありき。 じゃあ役者が監督を決めたりする場合だって いっぱいあったでしょう。 |
北村 | 指名するとかね。 いまだにありますよ、ね?(杉野さんに) |
杉野 | いまは‥‥そうですね、 なんというか‥‥(笑)。 |
北村 | 力関係ですもん、この業界も。 「この人使うだけですごい」 っていう役者になると、 そりゃ当然、力がものをいいます。 |
糸井 | そうですか。 |
北村 | 逆に監督が「この人にしてくれ」 っていうことも含めて、ありますよ。 それがいい悪いじゃなくて、 現実そうだっていう。 |
糸井 | それこそ、ハリウッドだって おなじようなことは、あるわけですよね。 |
北村 | と思います。 |
糸井 | いやあ、そうですか。 いずれにせよずーっと長い期間、 キャスティングの専門職は‥‥ |
北村 | なかったんです。 |
杉野 | なかった。 |
(つづきます) |
2010-03-10-WED