糸井 | 杉野さんのなかで、 うれしかったキャスティングって 具体的に憶えてるのってありますか。 |
杉野 | うれしかったキャスティング‥‥。 『硫黄島からの手紙』をやらせてもらったときかな。 あのときは名だたる方々に みんなオーディションを受けていただいたんです。 |
糸井 | クリント・イーストウッド監督の。 そうか、オーディションなんだ。 二宮和也くんもオーディションで? |
杉野 | そうでした。 |
糸井 | そういう場合はまず、 オーディションを受ける人を キャスティングするんですか。 |
杉野 | そうですね、そういうことです。 あと、このあいだまでやらせてもらっていた、 『ノルウェイの森』。 あれも監督が外国のかたなので、 ぜんぶオーディションだったんです。 受かった方と握手をして、 「よかったね」「この作品一緒にできるね」 といううれしさがありました。 |
糸井 | うん、うれしいですね。 |
杉野 | オーディションじゃない場合ですと、 『ヤッターマン』のときの、 ドロンジョ、深田恭子さん。 |
糸井 | はい、深田さん。 |
杉野 | 狙って、お願いして、台本を渡して、 どうかなぁ、断られるかなぁ‥‥ というのがあって、 深田さんから 「こういう役をやりたかったんです」 って言ってもらえたときは、 うれしかったですね。 |
糸井 | あれは杉野さんだったんですか。 |
杉野 | みんなでアイデアを出して、 交渉したのはぼくでした。 |
糸井 | それはうれしいだろうなぁ‥‥。 北村さんにうかがいたいんですが、 劇団の場合は配役だけじゃなくて、 裏方さんのキャスティングもするんですか? |
北村 | いや、だいたいの劇団では、 裏方さんのキャスティングもなにもないですよ。 スタッフも含めて劇団だから。 |
糸井 | 決まってる。 |
北村 | 劇団のスタッフは基本的にずーっと固定。 家族ですよね。 |
糸井 | じゃあ、キャスティングが必要になるのは、 プロデュース公演のときに? (プロデュース公演とは、劇団ではなく、 プロデューサーの企画で、作家、演出家、 役者、スタッフを集めて上演する演劇のこと) |
北村 | そうです、そうです。 |
糸井 | その場合プロデューサーは どこまでキャスティングをするんですか? 裏方さんもぜんぶ? |
北村 | ぜんぶですね。 演出部から、照明から、ぜんぶ。 今回はこの照明家でいこうとか、 今回はこの音響さんでいこうとか。 |
糸井 | 新しいスタッフにお願いするときは、 たのしいでしょう。 |
北村 | ま、そうですね、おもしろいです。 「うわ、二度といらない!」 って思う人もいたりしますけど。 |
一同 | (笑) |
糸井 | あの(笑)、そういうミスは、 なんでそうなるんですか? 舞台を観て選んでるわけですよね? |
北村 | いや、あのね、 表現されてる舞台の上のものは すっごくいいなぁと思うんですけど、 その人の考え方とか‥‥。 |
糸井 | ああ〜、舞台はいいけど人が悪い。 |
北村 | 悪いというか、合わない。 |
糸井 | そういう例は大いにある。 |
北村 | 大いにある。 |
糸井 | うわあ(笑)、おもしろい。 それって役者でもおんなじじゃないですか? |
北村 | 同じです。 すっごくいい芝居をやるんだけど、 「もう日常お付き合いしたくないわ」 って人だっていっぱいいるわけですよ。 でも、それを超えて演技がよければ、 人格についてはこらえることもありますね。 |
糸井 | その役者の周りはたいへんそう(笑)。 逆に、演技はもうひとつなんだけど、 すごく周りをラクにしてくれる役者さんも? |
北村 | います、います。 「いてくれるだけで、ほっとするわぁ」 っていう役者さんの場合は、 これ(腕をパーンと叩く)はイマイチだけど、 まあ‥‥いいか!って。 |
一同 | (笑) |
北村 | そこにいるだけで カンパニーがすごく明るくなるような人は、 やっぱり入れたいですよね。 |
糸井 | ぼくの印象だと、 今はどんな場所でもそういう人が より必要な時代になっている気がします。 |
北村 | あ、そうですか。 |
糸井 | つまり、「腕」に自信のある人を集めて その「腕」をぜんぶ合算しても、 数字通りの足し算にはならないんですよ。 |
北村 | ならない、ならないですね。 |
糸井 | 「腕」じゃなくて、 「まとまりをつくる人」が 多すぎるくらいのほうが 総合得点としては高くなるんです。 |
北村 | はい、はい。 |
糸井 | いわばぼくは、 「ほぼ日」のプロデューサーじゃないですか。 その立場から考えると、 「力のある人は、 ひとりもキャスティングしなくていい」 と思うときさえあります。 |
北村 | ひとりもいらない。 |
糸井 | よくあるじゃないですか。 「120点をとりたいです!」とか、 「200点が目標です!」とか。 そんなの、ありっこないわけで。 |
北村 | (笑) |
糸井 | いちばんいいのは、当然100点なんです。 100点以上を出したら、 ぼくはバッテンだと思ってるんですよ。 |
北村 | 無理がでてくる。 |
糸井 | 絶対にきしむから。 体をこわして120点出すくらいだったら、 五体満足で100点とるのがいちばんの理想なんです。 |
北村 | なるほど。 |
糸井 | 昔だったら、 「追い落としてでも!」 みたいな人がよしとされてましたよね。 でも今は、 そいつがいるだけで ほかの10人を疲れさせちゃうとしたら‥‥。 |
北村 | 使いたくないですねえ、それは。 |
糸井 | 切磋琢磨してよくなるっていう信仰があったけど、 あれは部分的にウソだと、 ぼくにはわかるんですよ。 効率のことだけをいえば、 他人の足を引っ張ったほうがいいんです。 サインを盗んだほうが盗塁しやすいんですよ。 「自分が足を速くする」よりもね。 切磋琢磨というものの中には、 そうやって全体の水準を下げてしまう危険が かならず含まれているんです。 |
北村 | うーん。 |
糸井 | でもまぁ、芝居という場所で 競争がまったくなくなっちゃったら、 それはそれで退屈なのかもしれませんよね。 観る側からすれば、スターはみたいので。 |
北村 | そうですね。 ですからやっぱり、バランスなんですよ。 |
(つづきます) |
2010-03-17-WED