キャスティングの よろこびを。  映画と演劇、現場のお話。
第6回 「腕」だけの役者はいらない?

糸井 杉野さんのなかで、
うれしかったキャスティングって
具体的に憶えてるのってありますか。
杉野 うれしかったキャスティング‥‥。
『硫黄島からの手紙』をやらせてもらったときかな。
あのときは名だたる方々に
みんなオーディションを受けていただいたんです。

糸井 クリント・イーストウッド監督の。
そうか、オーディションなんだ。
二宮和也くんもオーディションで?
杉野 そうでした。
糸井 そういう場合はまず、
オーディションを受ける人を
キャスティングするんですか。
杉野 そうですね、そういうことです。
あと、このあいだまでやらせてもらっていた、
『ノルウェイの森』
あれも監督が外国のかたなので、
ぜんぶオーディションだったんです。
受かった方と握手をして、
「よかったね」「この作品一緒にできるね」
といううれしさがありました。
糸井 うん、うれしいですね。
杉野 オーディションじゃない場合ですと、
『ヤッターマン』のときの、
ドロンジョ、深田恭子さん。
糸井 はい、深田さん。
杉野 狙って、お願いして、台本を渡して、
どうかなぁ、断られるかなぁ‥‥
というのがあって、
深田さんから
「こういう役をやりたかったんです」
って言ってもらえたときは、
うれしかったですね。
糸井 あれは杉野さんだったんですか。
杉野 みんなでアイデアを出して、
交渉したのはぼくでした。
糸井 それはうれしいだろうなぁ‥‥。

北村さんにうかがいたいんですが、
劇団の場合は配役だけじゃなくて、
裏方さんのキャスティングもするんですか?
北村 いや、だいたいの劇団では、
裏方さんのキャスティングもなにもないですよ。
スタッフも含めて劇団だから。
糸井 決まってる。
北村 劇団のスタッフは基本的にずーっと固定。
家族ですよね。
糸井 じゃあ、キャスティングが必要になるのは、
プロデュース公演のときに?
(プロデュース公演とは、劇団ではなく、
 プロデューサーの企画で、作家、演出家、
 役者、スタッフを集めて上演する演劇のこと)
北村 そうです、そうです。
糸井 その場合プロデューサーは
どこまでキャスティングをするんですか?
裏方さんもぜんぶ?
北村 ぜんぶですね。
演出部から、照明から、ぜんぶ。
今回はこの照明家でいこうとか、
今回はこの音響さんでいこうとか。

糸井 新しいスタッフにお願いするときは、
たのしいでしょう。
北村 ま、そうですね、おもしろいです。
「うわ、二度といらない!」
って思う人もいたりしますけど。
一同 (笑)
糸井 あの(笑)、そういうミスは、
なんでそうなるんですか?
舞台を観て選んでるわけですよね?
北村 いや、あのね、
表現されてる舞台の上のものは
すっごくいいなぁと思うんですけど、
その人の考え方とか‥‥。
糸井 ああ〜、舞台はいいけど人が悪い。
北村 悪いというか、合わない。
糸井 そういう例は大いにある。
北村 大いにある。
糸井 うわあ(笑)、おもしろい。
それって役者でもおんなじじゃないですか?

北村 同じです。
すっごくいい芝居をやるんだけど、
「もう日常お付き合いしたくないわ」
って人だっていっぱいいるわけですよ。
でも、それを超えて演技がよければ、
人格についてはこらえることもありますね。
糸井 その役者の周りはたいへんそう(笑)。
逆に、演技はもうひとつなんだけど、
すごく周りをラクにしてくれる役者さんも?
北村 います、います。
「いてくれるだけで、ほっとするわぁ」
っていう役者さんの場合は、
これ(腕をパーンと叩く)はイマイチだけど、
まあ‥‥いいか!って。
一同 (笑)
北村 そこにいるだけで
カンパニーがすごく明るくなるような人は、
やっぱり入れたいですよね。
糸井 ぼくの印象だと、
今はどんな場所でもそういう人が
より必要な時代になっている気がします。
北村 あ、そうですか。
糸井 つまり、「腕」に自信のある人を集めて
その「腕」をぜんぶ合算しても、
数字通りの足し算にはならないんですよ。
北村 ならない、ならないですね。
糸井 「腕」じゃなくて、
「まとまりをつくる人」が
多すぎるくらいのほうが
総合得点としては高くなるんです。
北村 はい、はい。
糸井 いわばぼくは、
「ほぼ日」のプロデューサーじゃないですか。
その立場から考えると、
「力のある人は、
 ひとりもキャスティングしなくていい」
と思うときさえあります。
北村 ひとりもいらない。
糸井 よくあるじゃないですか。
「120点をとりたいです!」とか、
「200点が目標です!」とか。
そんなの、ありっこないわけで。
北村 (笑)
糸井 いちばんいいのは、当然100点なんです。
100点以上を出したら、
ぼくはバッテンだと思ってるんですよ。
北村 無理がでてくる。
糸井 絶対にきしむから。
体をこわして120点出すくらいだったら、
五体満足で100点とるのがいちばんの理想なんです。
北村 なるほど。
糸井 昔だったら、
「追い落としてでも!」
みたいな人がよしとされてましたよね。
でも今は、
そいつがいるだけで
ほかの10人を疲れさせちゃうとしたら‥‥。
北村 使いたくないですねえ、それは。
糸井 切磋琢磨してよくなるっていう信仰があったけど、
あれは部分的にウソだと、
ぼくにはわかるんですよ。
効率のことだけをいえば、
他人の足を引っ張ったほうがいいんです。
サインを盗んだほうが盗塁しやすいんですよ。
「自分が足を速くする」よりもね。
切磋琢磨というものの中には、
そうやって全体の水準を下げてしまう危険が
かならず含まれているんです。
北村 うーん。
糸井 でもまぁ、芝居という場所で
競争がまったくなくなっちゃったら、
それはそれで退屈なのかもしれませんよね。
観る側からすれば、スターはみたいので。
北村 そうですね。
ですからやっぱり、バランスなんですよ。
  (つづきます)
2010-03-17-WED

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