糸井 | よく、記者会見で役者さんが、 「前々からやってみたかった役なんです」 とかって言ってるじゃないですか。 けっこう本気でうれしそうに言ってますよね。 役をもっていった人がいなかったら、 ああはならないわけですよ。 つまり、キャスティングした人がいないと 役者さんはあんなによろこべない。 |
杉野 | ありがたいことです。 「この役をお願いします」っていうのは、 なかなかたのしいところではあります。 |
北村 | うん、たのしい。 |
杉野 | 受けてくれるかくれないかは別として。 |
糸井 | ああー、そうか。 「いやです」と言われることも。 |
杉野 | もちろん。 |
北村 | もちろんですよ。 |
糸井 | どっちが多いですか? |
杉野 | どっちかなあ‥‥。 五分五分よりも ちょっと分が悪いくらいですかねぇ。 |
糸井 | あ、けっこう断られるものなんだ。 それは単純に、 スケジュールの都合って場合も? |
杉野 | ありますあります。 もう別な仕事が入ってたとか。 |
糸井 | スケジュールじゃない理由で断られることも? |
杉野 | もちろんあります。 |
糸井 | そういう場合は、 「よくよく考えたんですけど」 っていう理由の部分を 教えてもらえるものなんですか。 |
杉野 | そうですね。まあ、場合にもよりますけど。 |
糸井 | それは「なるほど」って思えることですか。 |
杉野 | いや、それは‥‥。 |
北村 | 「なるほど」とは思わないでしょう。 |
杉野 | 「どうして?」って思います。 |
糸井 | 「やればいいのに」って(笑)。 |
北村 | そうそう、「やればいいのに!」。 |
杉野 | はい。 |
糸井 | そうなると、口説きますか。 |
杉野 | そうですね、口説くことも。 |
糸井 | そこは勝負ですよね。 断るほうにも、 断る自信があったりしますから。 |
杉野 | はい。 |
糸井 | ちなみにぼく自身は、 いろんなご依頼をお断りすることを わりときちんとできるタイプなんです。 |
杉野 | そうですか。 |
糸井 | やりたいけど断ることさえありますからね。 生半可に引き受けると、 やっぱりいいことはないから。 「わかってください」っていうのを ちゃんと言える自信があるんです。 |
北村 | 誠意を持って。 |
糸井 | うん。 声をかけてもらえるのは もちろんうれしいし ありがたいとは思うんですけど、 なんて言うんでしょう‥‥ 「土下座して頼んできた」 みたいなことを引き受けて、 うまくいったためしがないんですよ、ぼくは。 |
北村 | ああー。 |
糸井 | うちの同居人(樋口可南子さん)が、 仕事をしない人じゃないですか。 |
北村 | ええ。 ほんとにねぇ〜。 |
一同 | (笑) |
糸井 | あの人の仕事のしなささって、 ちょっとすごみさえあって。 |
北村 | うーん。 |
糸井 | 本気で考えてるんですよ、やっぱり。 ぼくはあの人のことを、 「50ccのツーサイクルエンジン」 って言ってるんですけど ほんとにキャパがないんです。 「それやったら他のことぜんぶできません」 っていう細さなんです。 |
北村 | なるほど。 |
糸井 | その人が断るっていうのは本気だから、 しょうがないなぁって。 |
北村 | うーん。 |
糸井 | あそこまで細い人はでも、 あんまりいないような気がする。 人がどう見てるかは知らないけど、 あの細さは並みじゃないですね。 |
北村 | でも、その細いところに はまるものがあれば、 やるっていうことでしょ? |
糸井 | そうです、そうなんです。 「1個しかできないんだから大事にやんなきゃ」 っていうのがあるんです。 |
北村 | 「やらない」が前提じゃないですよね? |
糸井 | そうなんです。 だから、キャスティングをする側からしたら そういう人を口説くのって たいへんなことだろうと思いますよ。 ぼくが言うのもへんな話ですけど。 |
杉野 | いえ、わかります。 |
糸井 | 断るのも、あれは逆に大仕事ですから。 |
北村 | わかるんですよ。 誠意がちゃんとあるから。 でも、断られたらやっぱり、 「んもう!」と思っちゃいますよ。 |
一同 | (笑) |
北村 | それだけの誠意があるのなら、 もうちょっと考えてほしいな、と。 |
糸井 | なるほどねぇ。 |
杉野 | それは、立場のちがい。 |
糸井 | うん。 そこは永遠ですね。 |
北村 | 永遠にやっぱりそこは。 |
糸井 | 永遠ですよねえ。 |
北村 | お断りされる理由もよくわかるし、 まぁ、そうかと納得もできるんです。 「でも、やっとけばいいんじゃないの?」 これが本音ですよ。 |
糸井 | そうかぁ。 |
北村 | ‥‥そう思うのって、わたしだけ? (杉野さんに)でも、思いますよね? |
糸井 | 思うでしょう。 そう思わなかったら、だって。 |
北村 | オファーしないもん。 |
糸井 | ですよね。 |
北村 | そこまでの気持ちがこっちにあるから、 オファーをするんです。 |
(つづきます) |
2010-03-16-TUE