糸井 | キャスティングっていうことに 人々の興味が「きてるな」っていう 実感はありますか。 |
北村 | きてるんですか? |
杉野 | うーん、あんまり意識したことは‥‥。 |
糸井 | いまはネットのせいで、 原作物についてみんながものすごく語り合ったり ケンカしたりするじゃないですか。 たのしんでますよね、みんな。 でも、現場にとっては、 やりにくい時代になったなあと(笑)。 |
杉野 | ああ‥‥はい。 |
糸井 | みんなが、「あの配役はないと思う」とか、 「おれならこうする」とか。 あれは現場の人の目にも入るだろうから、 ずいぶんやりづらいでしょうねぇ。 そういうのは見ないようにしてますか? |
杉野 | ぼくは見ないですね。 あまり興味がない。 |
北村 | それはどうやって見るんですか? |
糸井 | ネットですよ、ネット。 |
北村 | ネットの何したら出てくるの? わたしそれ見たことない。 |
糸井 | いっぱい出てきますよ。 典型的な例でいうと、 おなじみのミステリーシリーズとかね。 たとえば金田一耕助って役は 石坂浩二さんがやったり、 古谷一行さんがやったりするじゃないですか。 それについて自分の意見を。 |
北村 | 言ってるんだ。 |
糸井 | いちばんみんながたのしんでると思ったのは、 あれですよ。 京極夏彦作品の映画化ですよ。 |
北村 | あ、はいはい、京極堂ね。 うちの堤もやらせていただきました。 (北村さんのシス・カンパニーは、 堤真一さんが所属する芸能プロでもあります) |
糸井 | だから、なんだろう、 お客さんが楽屋と客席を行ったり来たりしながら、 たのしむ時代なんでしょうね。 キャスティングっていうことを、 すごくたのしんでると思う。 でも、その分だけハードルも上がります。 |
杉野 | そうですね、 バッシングみたいなのもありますし。 |
北村 | 書いてるんだ、そういうの。 |
杉野 | 「この役者じゃない」とか。 |
北村 | ちょっとそれ‥‥冗談じゃないよお?! |
一同 | (笑) |
糸井 | いやいや、現場の人たちにすれば、 ほんとにそれは冗談じゃないですよね(笑)。 |
北村 | そんなの‥‥ほっといてよ!(笑)。 |
糸井 | ちょっと、話題を変えましょうか(笑)。 まあ、それはそれとして、 杉野さんの場合、 最大人数でどのくらいまで キャスティングできるもんなんですか? いままでの経験でいうと。 |
杉野 | ええと‥‥ このあいだやったのは、 主演のかたをキャストナンバー1番とすると、 200番くらいはありましたかね。 |
糸井 | 200(笑)。 |
北村 | 映画は多いですもんねぇ。 |
糸井 | その200を杉野さんは ぜんぶ知ってるわけですよね。 「この人はこの役」っていうのを。 |
杉野 | ええ、それは。 |
糸井 | はぁ〜、恐ろしいですね。 で、初期のころは200番だった人が、 ある日とつぜん12番に、みたいなことも? |
杉野 | もちろん、あるかもしれないです。 |
糸井 | でも、上のほうで動くのはもっと難しい。 |
杉野 | 難しいです。 |
糸井 | 上のほうはつっかえてますよね。 組み合わせの問題もあるし。 |
北村 | そう、組み合わせ。 主役がこの人だったら、 その隣の人はこの人のほうがいい、とか。 こっちが決まんなきゃこっちを決められないとか。 |
糸井 | なるほど、ゲームですね。 将棋に近いものがありますよ。 |
杉野 | あ−、将棋。 それはあるかもしれないです。 |
糸井 | 演劇の場合、200はないですよね。 |
北村 | ないない(笑)、それはないです。 というかですね、 劇団の座長さんと外部の役者さんが仲良くて、 「今度うちの芝居に出てよ」 っていう感じで1回の公演をおつくりになる。 ふつうはそういうもんなんです。 プロデューサーを通してどうこうっていうのは、 もうほとんどなくて、仲良く飲み屋で(笑)。 |
糸井 | 「頼むよ」。 |
北村 | っていう小さな世界なんです、演劇は。 |
糸井 | とはいっても北村さんがプロデュースするのは 小さくはないお芝居ですから、 それなりの手続きはあるでしょう。 |
北村 | そうですね、ほとんどは 事務所を通してお願いしています。 |
糸井 | その「手続き」がいい感じで決まって、 そこに、いい脚本もあったりしたら、 俳優も監督もしあわせですよね。 |
杉野 | しあわせだと思います。 |
北村 | ねぇ。 |
糸井 | それは「うれしい」って言うだろうなぁ。 杉野さんなんかは、 それをいつも狙ってるわけですね。 |
杉野 | まあ、いい作品をつくりたいという思いで すべてのことを、 その‥‥がまんするっていう。 |
一同 | (笑) |
杉野 | つらいことしかないですから。 |
糸井 | 出ましたね(笑)。 やっぱりそうですか。 いや、わかりますよ、 それは「さぞかし」と思うなぁ。 |
北村 | ほんと? |
糸井 | 北村さんはそうじゃないですか。 |
北村 | わたし、ぜんぜんつらくないですけど。 (杉野さんに)そんなに、つらい? |
杉野 | うーん‥‥。 ぼくのポジションと 北村さんのポジションでいちばん違うのは、 ぼくは最終決定権者になれない ことだと思うんですよ。 |
糸井 | あ、そうか。 |
杉野 | 北村さんは北村さんがオーケーなら、 すべてオーケーっていうことですよね。 ぼくはプロデューサーと監督が オーケーしないとゴーはできないんです。 そのジレンマはどうしてもありますね。 |
糸井 | 北村さんの場合は、 プロデューサーとして言ってる部分が キャスティングの仕事に混じるんだ。 |
杉野 | ぼくのようなキャスティングディレクターに 最終決定権はないんです。 |
糸井 | こんなに謙虚な杉野さんですけどね、 いままでされてきた仕事はすごいんですよ。 それはほんとうに。 |
北村 | はい、もちろん存じ上げております。 |
杉野 | いや、そんな。 |
糸井 | それでも、キャスティングをする人が 決定権を持つことは考えにくい‥‥。 なるほど、リスクはやっぱり プロデューサーが負いますからね。 |
杉野 | リスクを負う方が最終権者ですから。 |
糸井 | 決定権を持ってる人は たのしいかわりに頭も痛いんですけどね。 |
北村 | そう、責任が。 |
糸井 | 最後に夜逃げするのも やっぱりプロデューサーですよ。 |
北村 | そうそう。 |
糸井 | 決定権っていう巨大なおもちゃみたいなものは、 やっぱり危険物ですねぇ。 |
(つづきます) |
2010-03-15-MON