キャスティングの よろこびを。  映画と演劇、現場のお話。
第4回 キャスティングは、将棋。

糸井 キャスティングっていうことに
人々の興味が「きてるな」っていう
実感はありますか。
北村 きてるんですか?
杉野 うーん、あんまり意識したことは‥‥。
糸井 いまはネットのせいで、
原作物についてみんながものすごく語り合ったり
ケンカしたりするじゃないですか。
たのしんでますよね、みんな。
でも、現場にとっては、
やりにくい時代になったなあと(笑)。
杉野 ああ‥‥はい。
糸井 みんなが、「あの配役はないと思う」とか、
「おれならこうする」とか。
あれは現場の人の目にも入るだろうから、
ずいぶんやりづらいでしょうねぇ。
そういうのは見ないようにしてますか?

杉野 ぼくは見ないですね。
あまり興味がない。
北村 それはどうやって見るんですか?
糸井 ネットですよ、ネット。
北村 ネットの何したら出てくるの?
わたしそれ見たことない。
糸井 いっぱい出てきますよ。
典型的な例でいうと、
おなじみのミステリーシリーズとかね。
たとえば金田一耕助って役は
石坂浩二さんがやったり、
古谷一行さんがやったりするじゃないですか。
それについて自分の意見を。
北村 言ってるんだ。
糸井 いちばんみんながたのしんでると思ったのは、
あれですよ。
京極夏彦作品の映画化ですよ。
北村 あ、はいはい、京極堂ね。
うちの堤もやらせていただきました。
(北村さんのシス・カンパニーは、
 堤真一さんが所属する芸能プロでもあります)
糸井 だから、なんだろう、
お客さんが楽屋と客席を行ったり来たりしながら、
たのしむ時代なんでしょうね。
キャスティングっていうことを、
すごくたのしんでると思う。
でも、その分だけハードルも上がります。
杉野 そうですね、
バッシングみたいなのもありますし。
北村 書いてるんだ、そういうの。
杉野 「この役者じゃない」とか。
北村 ちょっとそれ‥‥冗談じゃないよお?!
一同 (笑)
糸井 いやいや、現場の人たちにすれば、
ほんとにそれは冗談じゃないですよね(笑)。
北村 そんなの‥‥ほっといてよ!(笑)。
糸井 ちょっと、話題を変えましょうか(笑)。
まあ、それはそれとして、
杉野さんの場合、
最大人数でどのくらいまで
キャスティングできるもんなんですか?
いままでの経験でいうと。
杉野 ええと‥‥
このあいだやったのは、
主演のかたをキャストナンバー1番とすると、
200番くらいはありましたかね。

糸井 200(笑)。
北村 映画は多いですもんねぇ。
糸井 その200を杉野さんは
ぜんぶ知ってるわけですよね。
「この人はこの役」っていうのを。
杉野 ええ、それは。
糸井 はぁ〜、恐ろしいですね。
で、初期のころは200番だった人が、
ある日とつぜん12番に、みたいなことも?
杉野 もちろん、あるかもしれないです。
糸井 でも、上のほうで動くのはもっと難しい。
杉野 難しいです。
糸井 上のほうはつっかえてますよね。
組み合わせの問題もあるし。
北村 そう、組み合わせ。
主役がこの人だったら、
その隣の人はこの人のほうがいい、とか。
こっちが決まんなきゃこっちを決められないとか。

糸井 なるほど、ゲームですね。
将棋に近いものがありますよ。
杉野 あ−、将棋。
それはあるかもしれないです。
糸井 演劇の場合、200はないですよね。
北村 ないない(笑)、それはないです。
というかですね、
劇団の座長さんと外部の役者さんが仲良くて、
「今度うちの芝居に出てよ」
っていう感じで1回の公演をおつくりになる。
ふつうはそういうもんなんです。
プロデューサーを通してどうこうっていうのは、
もうほとんどなくて、仲良く飲み屋で(笑)。
糸井 「頼むよ」。
北村 っていう小さな世界なんです、演劇は。
糸井 とはいっても北村さんがプロデュースするのは
小さくはないお芝居ですから、
それなりの手続きはあるでしょう。
北村 そうですね、ほとんどは
事務所を通してお願いしています。
糸井 その「手続き」がいい感じで決まって、
そこに、いい脚本もあったりしたら、
俳優も監督もしあわせですよね。
杉野 しあわせだと思います。
北村 ねぇ。
糸井 それは「うれしい」って言うだろうなぁ。
杉野さんなんかは、
それをいつも狙ってるわけですね。
杉野 まあ、いい作品をつくりたいという思いで
すべてのことを、
その‥‥がまんするっていう。

一同 (笑)
杉野 つらいことしかないですから。
糸井 出ましたね(笑)。
やっぱりそうですか。
いや、わかりますよ、
それは「さぞかし」と思うなぁ。
北村 ほんと?
糸井 北村さんはそうじゃないですか。
北村 わたし、ぜんぜんつらくないですけど。
(杉野さんに)そんなに、つらい?
杉野 うーん‥‥。
ぼくのポジションと
北村さんのポジションでいちばん違うのは、
ぼくは最終決定権者になれない
ことだと思うんですよ。
糸井 あ、そうか。
杉野 北村さんは北村さんがオーケーなら、
すべてオーケーっていうことですよね。
ぼくはプロデューサーと監督が
オーケーしないとゴーはできないんです。
そのジレンマはどうしてもありますね。
糸井 北村さんの場合は、
プロデューサーとして言ってる部分が
キャスティングの仕事に混じるんだ。
杉野 ぼくのようなキャスティングディレクターに
最終決定権はないんです。
糸井 こんなに謙虚な杉野さんですけどね、
いままでされてきた仕事はすごいんですよ。
それはほんとうに。
北村 はい、もちろん存じ上げております。
杉野 いや、そんな。
糸井 それでも、キャスティングをする人が
決定権を持つことは考えにくい‥‥。
なるほど、リスクはやっぱり
プロデューサーが負いますからね。
杉野 リスクを負う方が最終権者ですから。
糸井 決定権を持ってる人は
たのしいかわりに頭も痛いんですけどね。
北村 そう、責任が。
糸井 最後に夜逃げするのも
やっぱりプロデューサーですよ。

北村 そうそう。
糸井 決定権っていう巨大なおもちゃみたいなものは、
やっぱり危険物ですねぇ。
  (つづきます)
2010-03-15-MON

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