糸井 | あのですね、 ぼく自身の恥ずかしい話なんですけど。 何回か映画に写る役でお誘いを受けたときに ぼくはバカだから、 「おもしろそうだな」と思って、 「できるんじゃないか」と思って、 何度かのこのこ出かけて行ってるんです。 それで、いっつも、どん底までいっちゃう。 |
一同 | (笑) |
北村 | え? それは、できない? |
糸井 | できないんです。 その「できない」ってことについて、 ぼくは一生の課題として、 「いつかできるんじゃないか?」 と思ってるんです。 思ってるもんだから、誘われるとまた行く。 そしてそのつど、 まっくらやみになって帰ってくる。 |
一同 | (笑) |
糸井 | ですから、北村さん、杉野さん、 自慢じゃないですけど、 「2度目を頼んできた人」はいないんです。 |
北村 | ええー?(笑) |
杉野 | そうなんですか(笑)。 |
北村 | 自分の演技の望みが高すぎて そこに行けなかったっていうことじゃなくて? |
糸井 | そういうケースがあるということは、わかります。 でも、そんなことではないんです。 ぼくは、 「できない」んです。 |
北村 | そんな(笑)。 |
糸井 | なのに「今度こそできるんじゃないか?」と。 |
一同 | (笑) |
糸井 | この話はいろんな人にしてるんですけど、 いまだに自分最大の謎なんです。 かみさんなんかは 「なんで引き受けるの?」って。 |
一同 | (笑) |
北村 | 引き受けちゃう(笑)。 |
糸井 | だって「できたい」んです。 大好きなんです。 |
北村 | やりたいと思うんだ。 |
糸井 | 弾けないギターを持って バンドに入っちゃってるみたいな状態。 |
北村 | うん、それはひどい。 |
糸井 | 弾けっこないじゃないですか! |
一同 | (笑) |
杉野 | はははは。 |
糸井 | 「ほんとはコツがあるんだよな」とか。 「おれを見つけてくれる監督がいるんじゃないか」 とか、すぐに思っちゃう。 |
杉野 | ははは。 |
糸井 | いろんな監督にしゃべりましたもん、 そのことについて。 |
北村 | 見つけてもらえるかもしれないから(笑)。 |
糸井 | このまえ、西川美和監督に言ったら、 「うん、無理かもしれない‥‥」 |
北村 | 言われた? |
糸井 | きっぱり。 |
一同 | (笑) |
糸井 | やっぱりちゃんとしたことを言う監督ですから。 |
北村 | うん、美和さんはねぇ。 |
糸井 | とってもすっきりしました。 ただ、おれは美和さんに捨てられても‥‥。 |
北村 | やりたい。 |
糸井 | いや、「やります」とは、 いまは言えなくなりましたね。 死ぬまでにできるようになる可能性が ある条件の中でなら、あるかもしれない。 そう思っているだけです。 ──でも、さっきの北村さんの話でいうと、 舞台はぜったい、ないですね。 映像としてなら ギター弾いたふりくらいのことはできるから そこにいられるかもしれないけど、舞台は‥‥ |
北村 | ありえない。 |
糸井 | ありえないですね。 猫や犬のほうが、まだできると思う。 |
北村 | そんな(笑)。 |
糸井 | 映画のキャスティングをやってらっしゃる 杉野さんからしたら ほんとにできない人を連れて来るわけにはいかない っていうのは、思ってますよね? |
杉野 | まぁ、そうですね。 ほんとにできないと、 やっぱりしんどいと思いますけど。 |
北村 | うーん。 |
糸井 | いや、恐ろしいことですよ。 できないやつが現場に立つっていうのは。 みんなは笑ってるけどさ、 夢で見たことがあるんですよね。 大型トラックを運転してる夢を。 免許がないのに。 |
一同 | (笑) |
糸井 | まっくらやみの坂道をね。 |
北村 | おおー。 |
糸井 | 自分が大型トラックを運転‥‥。 |
杉野 | (笑)。 |
糸井 | それと、おんなじような気持ちになるんですよ。 |
北村 | 恐ろしいですよね。 |
杉野 | うーん。 |
北村 | ‥‥いや、でも、やっぱり撮り方だと思う。 ふつうに生きて、普通にしゃべってて、 それを切り取ればいいだけですから。 糸井さんがすっごい浮いてて おかしな人なら別ですけど、ふつうですよね? それを切り取る監督に、 まだ出会ってないんじゃないですか? |
糸井 | それはですね北村さん、 切り取ってくれる監督は、 自分も含めて、いないです。 |
一同 | (笑) |
糸井 | 突拍子もなくダメなんです。 その理由をほんとに知りたいわけで。 ‥‥あの、ごめんなさいね、 いまこんな話をついしてしまって。 ほんとはキャスティングの話を ちゃんとするべきなんですけど。 |
北村 | (笑)。 |
糸井 | なにか理由があるんですよ。 「文章書くのができません」 っていう人、いっぱいいるじゃないですか。 そんな人はいるはずがないんですよ。 文章を書けないなんて人が、いるわけない。 |
北村 | うんうん。 |
糸井 | だけど、書けないって言ってる人の文章みると、 ああ、書けないんだなぁ‥‥って。 |
杉野 | ああー。 |
北村 | はい、はい(笑)。 |
糸井 | 納得できないくらい書けない人はいますよ、 やっぱり。 |
北村 | そうかあ‥‥。 |
糸井 | それとおんなじようなことが、 演技をしようとする自分の中に たぶんあるんでしょうねぇ。 そういう「できる」「できない」があって、 ひとまず「できる」人の中での上手下手とか、 合ってる合ってないってところを見すえて、 キャスティングってことをやるわけですから。 ほんと、ねえ。 簡単な仕事じゃないと思いますよ、 キャスティングっていうのは。 |
(つづきます) |
2010-03-12-FRI