糸井 | 長いことキャスティングの専門職が存在しなくて、 ところが明らかにいまでは、 ぼくも含めたしろうとでも、 「専門の人がそれは必要だろう」と想像できる 大仕事になったのは どのくらいが境になるんですかね。 |
北村 | 肩書きはキャスティングプロデューサー? キャスティングディレクター? どっちなんでしょうね? |
杉野 | うーん、あとからできたものなので。 |
北村 | ハリウッド映画は、 キャスティングプロデューサーって出てますよね。 |
杉野 | そうですね、 キャスティングディレクターって出るときもあるし。 日本ではたぶん、その人が 自分で言ってるんじゃないでしょうか。 その概念があんまりカチッと決まってないので。 |
北村 | ハリウッドでも そんなに古くからある肩書きじゃないですよね。 |
杉野 | だと思います。 |
北村 | ね。 昔からだったわけじゃない。 だから、ハリウッドでそれが出てきて、 日本でもそういう形っていうのは、 いつごろからなんだろう‥‥。 |
糸井 | ハリウッドのをみて、 「いいな」って思ったのかしら。 |
北村 | 「それはラク」って(笑)。 |
杉野 | まぁ、ラクに思えますよ。 |
北村 | 分業化するわけですからね。 |
杉野 | そうですね。 |
北村 | 演劇なんかはアナログな世界ですから、 そんな人は入ってくる余地がないっていうか(笑)。 キャスティングプロデューサーが入るくらいの 規模はそうそうないんです。 |
糸井 | ああー。 |
北村 | すっごい大きな興業になると 必要だったりするかもしれないけど、 そうじゃない限りは、あくまでもキャスティングは プロデューサーマターですから。 |
糸井 | うんうん。 |
北村 | 出演者はもちろん、演出家も含めて スタッフをキャスティングするのは、 プロデューサーの仕事なんです。 |
糸井 | そうか。 |
北村 | 「あの役者のほうがいい」 そんなことを言う演出家は、 降ろしゃあいいんです。 |
一同 | (笑) |
糸井 | 演劇のプロデューサーっていうのは、 文字通り「制作者」なんですね。 |
北村 | 興行の責任者です。 キャスティングは基本的に プロデューサーマターの仕事。 ですからこう、それぞれに、 監督は監督、キャスティングはキャスティングと、 分業化がいちばん進んでいるのは 映画なんですよね? 規模が違いますもん。 |
杉野 | そうですね。 そういう意味では。 |
糸井 | ──ちなみに杉野さんは、 自分からキャスティングの仕事をしよう って思ったんじゃないんですか。 |
杉野 | ちがいます、流れで(笑)。 |
糸井 | そうか(笑)、 いまの話でわかった気がした。 |
杉野 | 最初からそういうポジションが あったわけではないので。 |
糸井 | つまり、 「おまえ頼むわ」の繰り返しですね。 |
杉野 | そう、そうです。 まさにその通り。 |
糸井 | なっるほどねー(笑)。 |
杉野 | なんとなく形ができて、 映画のクレジットにキャスティングっていう人が 出るようになってきたっていう感じですかね。 |
北村 | うん。 |
糸井 | 「おまえ頼むわ」の前は、 プロデューサーが自分でやってたんですね、 キャスティングを。 |
北村 | そうですよ。 これがいちばんたのしい仕事じゃないですか。 |
糸井 | ああー。 |
北村 | プロデューサーにしてみたら、 キャスティングを考えるほど たのしい仕事はないですよ。 それが実現するかしないかは別にして(笑)。 |
糸井 | 夢ですもんね。 |
北村 | 「こうしようか、ああしようか」って。 ──だから、わたしなんか、 映画のキャスティングがすごくうらやましい。 |
糸井 | お。杉野さん、 うらやましがられてどうですか? |
杉野 | そんなことはないと思う(笑)。 舞台のかたや、テレビ、映画と 俳優さんの取り合いになったりするわけですし。 |
北村 | ほんと、取り合いですよね。 |
杉野 | 俳優はこれだけしかいない中で 「どうやって」っていうことになるので、 それがなかなか‥‥。 |
糸井 | ぼくにはわかります。 想像しただけでイヤですよね。 |
北村 | そう? |
糸井 | うん。 北村さんは夢のような時間だとおっしゃるけど、 その言い方は言い方としてわかるけど、 日本に何人役者がいるんですか?って言ったら、 人が求めてる役者は、 そんなに大勢はいないですよね。 |
北村 | まあ、取り合いはありますけど‥‥。 でもね、わたしが映画をうらやましく思うのは、 キャスティングの幅が演劇よりずっと広いでしょう? |
糸井 | そうですか。 |
北村 | だって映像って、 それを切り取る編集作業しだいで、 猫や犬でも芝居がうまく見えるんですよ。 |
一同 | (笑) |
北村 | 編集の妙でね。 何も演技をしてなくても。 ということは、いわゆる基本的な演技の力を そんなに持ってない人でも、 「この人いい」って魅力を感じたら 抜てきする枠が、映画にはある。 テレビもそうですよ。 |
糸井 | 力強く言ってますねぇ(笑)、 まあ、その通りなんでしょうけど。 |
杉野 | ははは。 |
北村 | それがすっごいうらやましいの。 「あの人いい!」と思っても、 蚊の鳴くような声だったら無理なんですよ。 基本の力を持ってる人じゃなかったら、 やっぱり舞台にはキャスティングできない。 だから「映画のキャスティングしてみたい」 ってときどき思ったりするんです。 |
糸井 | 蚊の鳴くような声。 舞台では、えらいことになりますね。 |
北村 | 蚊の鳴くような声が悪いんじゃなくてね。 適した場所があるという話です。 とにかく、大きなちがいですよ。 |
杉野 | そうですね、 舞台と映画では、 たしかにその差があるかもしれません。 |
北村 | ねぇ。 |
(つづきます) |
2010-03-11-THU