『ちきゅうちゃん。』のこと、『ミッケ!』のこと、「子どもの仕事」をやめないこと。
糸井重里の文章に
キューライスさんが絵を描いてくれた
創作絵本『ちきゅうちゃん。』が
3月20日、
いよいよ小学館から発売になります!
先日、小学館の書店向けイベントで、
絵本の発売を記念して
糸井が、トークショーを行いました。
30年ぶりの絵本となる
『ちきゅうちゃん。』のこぼれ話から、
同じく小学館で長く続けている
『ミッケ!』にたいする思いまで。
そして最後に‥‥糸井重里は、
なぜ「子どもの仕事」を続けているのか?
前・後編でお届けします。
お相手は、小学館の田中明子さんと
喜入今日子さんです。
前編 うちにもそういうの来ないかな。
後編 おじさんとして、ちょっと味方になってみたい。
後編 おじさんとして、ちょっと味方になってみたい。
写真
糸井
絵本の『ちきゅうちゃん。』は
そうやってつくっていったんですけど、
最後にズルをしました(笑)。



絵本なのに、
文字しかないページをつくったんです。
田中
つくりましたね!
糸井
たった1行の文字しかないページ。



ここは、絵がないほうがいいかなと。
これがやりたくて、
この仕事をしたのかもしれないです。
写真
田中
つまり、このフレーズが浮かんで?
糸井
うれしくなっちゃったんです。



人が人に何をしてやれるんだろうって
いうことは、今まさしく、
時代のテーマでもあると思うんですよ。
田中
ええ。
糸井
そのときに、
「好きでいればいいんじゃない?」って
言われたときの安心感。



子どもが、この言葉を言われたときの
ドンとくる気持ちみたいなもの。
田中
なるほど。
糸井
日本のあちこちで
この絵本の読み聞かせをしているときに、
子どもたちが
このページにたどり着いたときのことを
想像すると、
愉快犯のような気持ちに、なれるんです、
田中
わたしも、最初テキストを拝見したとき、
この一言が胸にじわーっと広がって。



これはもう、愛の絵本だって思いました。
糸井
そのページのあとに、
また、クッと日常の何でもないところに、
戻されちゃうんですけどね。



ぼく、その最後の絵も大好きなんです。
田中
はい。
糸井
キューライスさんが、
みごとに描いてくれたんですけど。



おもしろいバランスでできた絵本、
という気がしますね。
写真
田中
ちなみに、この『ちきゅうちゃん』のことを
すこし説明しますと、
ほぼ日のアースボール」という商品から生まれた
キャラクターなんですよね。
糸井
はい。アースボールは
ビニールボールの地球儀なんですけど、
アプリをかざしてみると、
世界のいろんな情報が出てくるという、
ちょっとおもしろいものなんです。
田中
ええ。
糸井
これもやっぱり
お父さんやお母さんが「気まぐれ」で、
ヒョイと買ってくるものとして、
「家に、自分を広げてくれものが来る」
ということをやりたいなと思って、
つくった商品なんです。
田中
なるほど。



ちなみにですが、4月24日には
糸井さんが日本語訳をされた
チャレンジミッケ!⑩
 まほうと ふしぎの くに

も出版されますね。
糸井
今回は傑作ですよね、ほんとうに。



立体に見えるけど平面だったり、
平面に見えるけど立体だったり。
見つける、という要素だけじゃないんです。
オマケが、デカいんですよ。
喜入
うれしいです。
写真
糸井
『ミッケ!』のシリーズは、
怖いものと、それからクレイジーなもの、
そのふたつが隠れていて、
ただ明るく楽しいだけじゃないところが、
隠れた特徴だと思うんですよね。
喜入
そうかもしれないです。



ちょっと不気味な世界だったり、
リアルなものだったり。
糸井
ディズニーの世界なんかにも共通するけど、
明るい夢の国ってだけじゃないので、
何度でも見たくなる「深さ」が、
『ミッケ!』には、あるんだと思うんです。



そこが、この作者の個性なんだろうなあ。
喜入
なるほど。
糸井
でも、それこそが王道だとも思います。



影の部分の表現を子どもに見せてやるのは、
すごくいいことだと思うので。
だって、昔話だって怖いじゃないですか。
喜入
そうですね。
糸井
作者のウォルター・ウィックさんは、
そのことを、ちゃんと受け継いでいると思う。



ぼく、『ミッケ!』と似たような絵本を
何度か見たことありますが、
どれも、なんだか「明るいだけ」なんですよ。
喜入
ああ。
糸井
光と影でいうと、光の部分だけで作れちゃう。
でも、やっぱり影の濃さが光を出すので。



ウォルターさんの作るものには、
やむにやまれぬ影のようなものが入っていて、
だから続くんだろうなと思います。
写真
喜入
なるほど。
糸井
子どもも、それを感じているんじゃないかな。
田中
最後に、お聞きしたいことがあります。



『ちきゅうちゃん。』もそうですし、
『ミッケ!』も
『小学一年生』の詩もそうなのですが、
どうして糸井さんは
「子どもに関わるお仕事」を
ずっとやり続けてらっしゃるんですか。
糸井
ああ、すごく本質的な質問ですね。



あの‥‥ぼくね、子どもが
「天真爛漫で、自由で、
 のびのびしているもの」だとは、
思えないんですよ。
田中
ああ。
糸井
ぼく自身は、
子どものころのほうが自由じゃなかったし、
不安がありました。



「そっちに行っちゃいけないよ」とか
「これをしちゃいけない」とか
「そういうことを考えるもんじゃない」
みたいなことが絶えずあったし、
ひとりじゃ生きていけないという立場も、
自分でよくわかっていたんです。
田中
はい。
糸井
そういう子ども時代って、
楽しかったこともいっぱいあるんだけど、
夜、独りになったときには、
すごくさみしい、つらいものだっていう、
そういうイメージがあるんです。



だから、大人になってからも、ぼくは、
「子どもっていうのは
 じつは
 あんがいさみしくてつらいものなんだ」
という認識があるんですね。
写真
田中
なるほど。
糸井
子どもの相手をする大人が
必要なんじゃないかなっていうことは、
つねづね考えていたんです。
田中
なるほど。
糸井
おじさんとして、
ちょっと味方になってみたいといいますか。



マンガ家の気持ちに
すこし、似ているかもしれないですね。
田中
切ないんですね、子どもが。
糸井
うん。子どもは、切ない。



だから、現実にはドラえもんはいないけど、
藤子先生がドラえもんを描いたら、
癒やされるじゃないですか。
こう‥‥慰撫されるって言いますか。
田中
はい。
糸井
だから、子どもって
すこしよけいに「表現」で慰撫してあげて
やっとバランスが取れるものなのかなあと。



子どもの仕事を続けているのは、
自分もその役目を引き受けたいなあ、って、
そんな感じじゃないでしょうか。
田中
わかりました。
今日はありがとうございました。
糸井
ありがとうございました。
写真
(終わり)
2019-03-20-WED
『ちきゅうちゃん。』
写真
文/糸井重里 絵/キューライス

出版社:小学館

本体価格1100円+税
3月20日より全国書店等で発売中です。
Amazonでのお求めは、こちらからどうぞ。
詳しくはこちらもご覧ください。
『チャレンジミッケ!⑩

まほうと ふしぎの くに』
写真
ウォルター・ウィック/作 糸井重里/訳

出版社:小学館

本体価格1500円+税
4月24日ごろ発売予定
これまでの『チャレンジミッケ!』とはちょっと違い、
"鏡"や"錯視トリック"を使った不可思議でマジカルな
世界が広がります。