「こんにちは。滝川クリステルです。」滝川クリステルさんがいま、一番気になる仕事。

ようこそ、滝川クリステルさん!
雑誌「GOETHE」の企画で、
滝川さんと糸井重里の対談が実現しました。
これまでにたくさんの著名人と会って
第一線の仕事を見てきた滝川さんが、
「いま、一番気になる仕事」として、
糸井重里をインタビューしてくださいました。
フリーアナウンサーとしての活動のほか、
動物愛護活動にも力を入れている滝川さんと、
仕事や動物の話を中心に盛り上がりました。
対談の最後に「イメージが変わりました」と
糸井が語ったふたりの初対面、どうぞおつき合いください。
※「GOETHE」2017年6月号に掲載された対談を、
ほぼ日編集バージョンでお届けします。

滝川クリステルさんプロフィール

1977年フランス生まれ。
東京オリンピック・パラリンピック
競技大会組織委員会 顧問。
WWFジャパン 顧問。
フランスの芸術文化勲章シュバリエを受章。
ローランギャロス日本親善大使
一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル代表。

無力感と戦っている

滝川
今日はぜひ「ドコノコ」の話も
聞かせていただきたいんです。
犬が大好きだっていうところから始まったんですか。
糸井
そうですね、好きだから。
6月5日からスタートだから、
だいたい1年ぐらい前から始まりました。
滝川
ユーザーの方の反応はいかがですか。
糸井
いい感じですね。
もう単純に、喜ばれている感じが強いです。
たとえば、タクシーを待っている時に近づいてきた人が、
「ドコノコ、ありがとうございます!」って。
青山では、ぼくがビラをまいたりして頑張ったから、
青山周辺の「ドコノコ」人口は、
ちょっと余計に多いような気がします。
滝川
糸井さんがビラを配られたんですか。
街頭で配ったわけではないですよね。
糸井
それは効率が悪いんで(笑)。
たとえば、近所の薬剤薬局では、
自分ちの犬や猫の写真をみんなが持ち寄って、
窓口に貼って置いているんですよ。
あそこに置けばいいやって、ビラを持って行ったら、
喜んで持って行ってもらえたんです。
ドコノコをやっているおかげで、
地方でも声を掛けていただくようになりました。
滝川
えーっ、本当ですか。
糸井
いろんな見方があるでしょうけど、
ぼくを、「ドコノコをやってる人」という
認識でいてくれてるのは、なんだか嬉しいですよね。
滝川
ほわっと、穏やかな気持ちになりますね。
「ドコノコ」は、迷子のコたちを探す
アプリにもなっていますよね。
実際に、見つかっている例もあるんでしょうか。
糸井
はい、見つかっていますね。
犬でいうと、芝浦で迷子になったコを探しに、
たくさんの人が連絡を取り合って、見つけた。
犬や猫って、住んでいるエリアを中心に動きますから。
「ドコノコ」ができるまでは、
ぼくのTwitterで、
「うちのコが迷子になったのでリツイートしてください」
と頼まれて手伝うことがよくありました。
ぼくは、けっこう長いこと、
迷子犬の一覧表をつくって管理していたんですよ。
滝川
そこまでされていたんですか。
糸井
このコは見つかったから
表から消さなくちゃ、とか。
じつは、ものすごく大変でした。
滝川
気になって仕方ないですもんね。
でも‥‥。
糸井
そう、できないことをやっているのは、
みんなが苦しいなと思ったんです。
やっぱり近所で探したほうがいいし、
野良犬、野良猫も含めて、
そのコのことを見ていてくれる人が増えれば、
すべて解決することだなと思いました。
滝川
いいですね。
糸井
近所からの視線がちゃんとあって、
いぬねこが元気でいられるためには
どうしたらいいかなと考えて、
やっと思いついたのが住民登録でした。
住民登録したらもう、
家族の名前がハッキリとあって
無責任なこともできません。
だから「ドコノコ」は最初、
「KAZOKU」っていう名前で進めていたんです。
人間の子どもには、みんな戸籍がありますよね。
戸籍があるかないかというのは、
その人の幸せを決める大きな要素だと思ったんです。
だから、動物たちにも戸籍があればいいなと思って。
滝川
ちゃんと、身近に感じられるようになりますしね。
糸井
おなじ野良猫でも、
「ドコノコ」で見たコについては、
「シッシッ!」って邪険にするよりは、
「おっ、元気?」って親しみを持ちたい。
滝川
「ドコノコ」に出てたよねって。
糸井
そうそうそう。
滝川
でも、迷子探しのアプリについては、
ほかの可能性も考えられますよね。
たとえば、本当に迷子に関して特化するとか。
糸井
うーん‥‥。
これがちょっと難しくて、
当事者は、迷子について1日中考えていますよね。
でも、当事者から離れていくごとに、
迷子のことを考える時間が少なくなるんです。
滝川
それはそうですね。
糸井
当事者から離れている人ほど、
考える時間が少ないということについて、
ちょっとした罪悪感が残るんですね。
かわいそうに‥‥、なのに探してあげられない。
じゃあどうなるかっていうと、
大きな声を出したくなるんです。
滝川
大きな声?
糸井
つまり、「大変だ! 大変だ!」と言っていると、
罪悪感が減るんですよ。
だから、東京でいなくなった犬や猫のことを、
仮に島根県で「大変だ、大変だ」って言うと、
なんかいいことをしたような気がするんです。
でも、その声がワーッと騒がしくなるほど、
かえって、アピール度が減るんですよ。
本気で探すのは、いつになるんだろうって。
滝川
そういう風潮があるんですか?
糸井
本当に近くにいる人が探すことを
真剣にやれるようにしないといけないなと
どこかのタイミングで思ったのがきっかけです。
参考までに調べてみると、
迷子について専門にツイートしている人もいて、
そのアカウントを見るだけで、
迷子の情報は山ほどあるんですね。
でも、どのコについて
考えればいいのかもわからなくなっちゃう。
滝川
たくさんの情報をパッケージして小さくして、
整理をされたかったということですね。
糸井
そうですね。
だから、地図に振り分けることが必要だなと思って、
ドコノコのやり方にたどり着きました。
これがまた万全かというと、そんなこともなくて。
一番いいのは捨てないことだし、
迷子にしないことですけどね。
滝川
今はこれだけ技術を駆使できる時代なので、
迷子犬や保護犬のことも
アプリで身近にならないかなって、
私も、いつも考えています。
たとえば自宅の近くのシェルターで
新しい飼い主の募集がはじまったら、
登録している人に通知が来たりとか。
糸井
それはたぶん、シェルターというか、
里親募集をしているところでは
毎日のようにお知らせをしていますよね。
滝川
そうですね。
でも、マッチングが必要ですよね。
糸井
そこはけっこう手仕事になっていて、
こういう条件の人には、
こういう子がいいんじゃないかって、
やり取りをしているんですよね。
滝川
そうですよね。
そのコの情報をアップしようとしても、
出し方が得意じゃない方もいらっしゃるので、
やっぱりギャップが出てきそうです。
糸井
ミグノン(ランコントレ・ミグノン)が
多くの人に知られていったプロセスは、
情報発信に力を入れたことだと思います。
あと、世の中でいう商品価値の
順列みたいなものを壊せたことも、
ぼくらが見ている限り、すごい功績だと思っています。
滝川
順列ですか。
糸井
つまり、これまで多くの人々に
価値があると思われていたのは、
純血種で、血統書を持っていて、子犬で、
というのが一番なんですね。
雑種で、老犬で、ケガをしているなんて最悪です。
この順番が、みんな無意識にありました。
たとえば、里親募集をした時に、
欠点がなさそうなものから引き取られていたのを、
ミグノンは、価値をひっくり返しちゃった。
欠点みたいな個性を、おもしろがるようになりました。
ボランティアの人たちも呆れるような子が、
だんだんと人気が出てくるわけです。
滝川
本当にやり方次第で、身近になるんですね。
そのアイデアを持っている人がいないと、
もちろん、何も生まれないわけですよね。
アイデアを持って参画してくれる人が、
増えてくれるといいんですけどね。
糸井
世話をする人のアルバイトの
フォーメーションを考えたりするのも、
結構めんどくさいわけです。
それぞれに仕事を持っている人が、
どの手伝いをいつ確実にしてくれるかを、
ちゃんとマネジメントすることは、
マネジメント側の知識も、また必要になる。
滝川
そうですね、はい。
糸井
ピーター・ドラッカーの著作集にある、
『非営利組織の経営』あたりが
ヒントになると思うんですよね。
ボランティアのことになると、
マネジメントとは関係なく、
「私が頑張ります」みたいになるのが
もったいないですよね。
滝川
非営利の経営に対しては、
日本でも興味を持っている人が
統計的に見ると、まだまだ少なくて。
でも、最近はちょっと、
認知されてきている感じはありませんか?
糸井
自分が変わった、ということはよくわかるんです。
ぼくは犬を飼っていて、
町で猫を見かけると、犬が猫に対して怒っているんです。
「猫、この野郎!」って吠えているわけです。
そうすると、ぼくは家族の犬が
怒っているものに対して、犬に同化するんですね。
ぼくも、「猫、この野郎!」っていう気持ちに‥‥。
滝川
同化されているんですか?
おもしろいですね。
糸井
ちょっとね、犬の気持ちになるわけです。
でもそれは、猫の立場を
全然知らなかったということなんですよ。
周りに猫好きが増えて、猫のことをだんだん知ると、
「猫、この野郎!」と言っているおまえが悪いぞ、と。
今だったら、猫のブロマイドとかほしくなったり。
昔のぼくにとって、猫は見えない存在でした。
ぼくの中でも、そんなふうに変われた。
滝川
ブイヨンちゃんを通して。
糸井
そうですね。
滝川
ほぼ日さんでやっている企画ものって、
皆さんに喜んでもらえることって、
どういったことをイメージされているんでしょうか。
糸井
やっぱり、笑顔かな。
誰かの助けになろうと思っても、
そんなに大きな力は持っていないから。
法律でこうしなさいというのが一番強いとしたら、
個人でやることってやっぱり、
どんどん、どんどん、小さくなっていって、
ある種の無力感に必ず陥るんですよ。
だから、喜んでくれる人が、
ちょっとずつ増えていくつもりでやったほうが、
何をするにもいいかなって。
たとえば、喜んでくれる人が100人増えたら、
また違うものが生まれてくるかもしれないし。
もっと言ってしまえば、
1人が賛成ってニコニコしてくれたら、勝ち。
99人がこっちを向いてくれなくても、
1人がこっちを向いてくれたことを、
ちゃんと喜んだほうがいいような気がするんですよ。
滝川
それは、ご自身の性格なんでしょうか。
糸井
心の中では、いつも無力だって思っています。
ぼくは、気仙沼によく通っていたけれど、
帰りの新幹線で、無力感で泣きたくなるんです。
でも、気仙沼に行ったときに、
その感じを出していたんじゃダメなんで。
ちょっとでもできてることを、
とにかく見るというふうにしていました。
練習をして、そうなっていったみたい。
滝川
私はすごく欲張りなので、
自分で自分の首を絞めているところがあって、
常に無力感との戦いです。
財団を立ち上げたことで、
できることは増えている気はしますけど、
なかなか満足できていません。
動物のことは放っておけない問題だから、
余計こうなっちゃうと思うんですけど。
糸井
知れば知るほど悲しいことも増えるけれど、
逆にいえば、こうしたらいいんじゃないかっていう
アイデアも出やすくなります。
知ることで、自分の力を削ぐようなことに
なっちゃいけないと思うんですよ。
感情に流されないようにすることが
知性なのかなって思うようにしていますけど、
これはね、訓練がいりますよ。
滝川
ああ、訓練ですね。
私も10年経ちますけど、
まだまだダメですね‥‥。
糸井
ずっと、つきまとうんじゃない?
滝川
そうかもしれません。
もう、一度知ってしまった問題なので。
知っちゃったことで行動を起こして、
チームができて、いろんなことができあがって、
素晴らしいものも得られてはいます。
それはそれで、プラスとして見るように、
訓練することが必要ですよね。
糸井
ありがとうっていう気分とか、
進んでいることに拍手ができなくなったら、
やっている人が悲しい顔を見ることになっちゃうから。
感情のままにはできませんね。
滝川
そうですね。
糸井
滝川さんとこういう話ができるとは思わなかったから、
とてもよかったですよ。
滝川
本当にいろんなところで、
糸井さんのお話を拝見させていただいて、
いつかお話できればと思っていたんですよ。

(つづきます)
2017-06-22-THU