The last piece.  ギー・ラリベルテ  シルク・ドゥ・ソレイユという パズルを埋める最後のピース
3 最上階

日曜日の昼過ぎ。
私たちはギー・ラリベルテが滞在する
ホテルのロビーに集まりました。

特別な機会ということもあって、
取材チームのあいだには、
いつもにはない緊張感が漂っていました。

シルク・ドゥ・ソレイユの取材を通して知った、
彼にまつわるさまざまなエピソードから、
私たちは、ギー・ラリベルテを、
「ふつうじゃない人」として
勝手にイメージしていたからだと思います。

ケベックの火ふき男、ギー・ラリベルテ。
シルク・ドゥ・ソレイユの創設者にして、
いまなお4000人のスタッフを導く、ギー・ラリベルテ。
クオリティー不足と判断したら開幕直前のショーを
ためらいなくストップさせる、ギー・ラリベルテ。
ネクタイが嫌いで、取材に来た記者の
ネクタイをちょん切ったといわれる、ギー・ラリベルテ。
いつも世界中を飛び回っていて
決まったオフィスさえ持たない、ギー・ラリベルテ。
世界で7人目の宇宙旅行者、ギー・ラリベルテ。

やっぱり、ちょっとふつうじゃないでしょう?

期待半分、心配半分という感じで
微妙にふわふわする私たちのなかで、
唯一、まったくいつもどおりだったのが
取材する当人、糸井重里でした。

もともと、
どんなややこしそうな取材のときでも
気負ったり緊張したりということが
まったくない糸井ですが、
このときは、周囲が浮き足立っていたものですから、
とりわけその平常ぶりが目立ちました。

質問事項を考えるでもなく、
取材時間を確認するでもなく、
ときどき、「緊張してるの?」などと言って
そわそわしている私たちをからかう糸井は
まったくいつもどおりのテンションです。

約束の時間の少し前に、
ギー・ラリベルテ専属のスタッフらしき方が現れ、
私たちはエレベーターに乗り込みました。

へぇ、と驚いたのは、
エレベーターのなかに、
スイートルームのある最上階の
ボタンがなかったことです。
いっしょに乗り込んだホテルの方が、
鍵をつかってパネルを開け、
操作するんですよ。
そういうことって、常識なのかな?

雰囲気たっぷりの廊下を通り、
重厚感のある自動扉が開くと、
室内はとても明るく、
広いリビングのロビーにその人が座っていました。
──ギー・ラリベルテ。
彼は、自分に向けられたビデオカメラに向かって
しゃべっている最中でした。
なにか、別の取材を受けているのでしょう。

天井が高く、
突き当たりの壁はほぼ一面が窓になっています。
ここは高いビルのてっぺんですから、
窓の向こうにセットみたいな青空が
ずっと続いているのは当然といえば当然なのですが、
やはり、ちょっとふつうではない景色を
見ているという違和感があります。

私たちに気づいたギー・ラリベルテは
取材していたカメラマンを遠ざけ、
立ち上がって、満面の笑顔で手招きしました。
「‥‥『どうぞこちらへ。座ってください』」と、
ぼくらに同行した通訳の方がささやきました。

糸井重里がいざなわれた方へ進み、
いつものように「はじめまして」と
日本語で言いながら握手を交わします。

(つづく)

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2010-01-19-TUE

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
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