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ホテルの最上階で行われた
糸井重里とギー・ラリベルテとの対談は、
糸井とジル・サンクロワの
モントリオールでの対談がそうであったように、
短いあいだに深いところまで下りて
大切なことばを交わし合う
たいへん濃密なものとなりました。
終わりの握手を交わしたあと、
ふたりは、子どもみたいな笑顔で並び、
カメラにおさまりました。
これもまた、ジル・サンクロワのときと
まったく同じ光景です。
おもしろかったなー、と、
高い場所から下りていくエレベーターの中で
糸井重里がつぶやきました。
そう、ほんとうにおもしろかった。
その日の夜、ギー・ラリベルテは、
舞浜の常設シアターで開催されている
シルク・ドゥ・ソレイユの常設ショー、
『ZED』を観劇する予定になっていました。
そして、ショーのあとは、
『ZED』に出演するアーティストたちのまえで
ちょっとしたスピーチをする、とのこと。
取材を終えて、糸井重里はいつもどおり
おつかれーと手を振って
あっさり帰ってしまったのですが、
私たち取材チームはスタッフの方にお願いして、
ギーがスピーチをするという『ZED』の舞台裏に
潜り込ませてもらうことになりました。
そのスピーチは、
オープン直前に最終チェックを行う
「ライオンズ・デン」のときのような
厳しいものではなく、
かなりフレンドリーなものになるだろうと
スタッフの方はおっしゃってました。
しばらく前にギーは宇宙旅行から
帰ってきたばかりでしたから、
その成功をお祝いする意味も込められた
ハッピーなイベントになるだろうとも。
──終演後、
『ZED』に出演するアーティストや
裏方を務めるスタッフがせいぞろいする舞台裏に、
ギー・ラリベルテが現れました。
サプライズ気味に掲げられた
「おかえり、ギー!」という横断幕に
おおいに照れたギーは、
マイクも照明もないトレーニングルームの中央で、
しばらく、スピーチしました。
誤解をおそれず言えば、
それはまったく上手なスピーチでは
ありませんでした。
私たちは、勝手に予想していました。
こういった場所でこそ、
25年前からこの魅力的な集団を率いてきた
偉大な男のカリスマ性が発揮されるのではないかと。
国籍も年齢もキャリアもバラバラな一同の心を、
瞬時にわしづかみにしてある方向へと向かわせる
強力な天性が表れるのではないか、と。
しかし、
(英語をちゃんと理解できない
私たちにもはっきりそうわかるほど)
そのスピーチは平凡なものでした。
本人は少々照れていて、
もごもごと聞き取りづらく、
ときおり笑いが起こる程度の愉快さで、
お世辞にもコンパクトとはいえない。
スピーチは、後半、なし崩し的に
質疑応答のようなものに移っていったのですが、
たいへん失礼ながら、
それはもう、見事にぐだぐだしたものでした。
まるで、金曜日の夜の会社の飲み会で、
中堅社員が先輩に意見を求めるような‥‥。
しかし、だからこそ、
私たちはそこにリアリティーを感じました。
そこには、まちがいなく深い関係があり、
主従関係のようなものとは真逆の、
同じ目標に向かってともに歩いていく
ひとつの組織の姿がありました。
畏怖でなく、盲信でなく、
建前でなく、威圧でなく、
当たり前の現実的な信頼と、
そして確固たる自信と。
中締めの挨拶や
形骸化した余興があるわけでもなく。
場はやがてほどけて
個々がギーをゆるやかに囲んで
記念撮影などがはじまります。
感じることは、
シルク・ドゥ・ソレイユは、
強烈なリーダーに率いられた
天才集団などではないということです。
ギー・ラリベルテは、
シルク・ドゥ・ソレイユという
極めて魅力的なパズルを完成させるために
なくてはならない重要なピースですが、
パズルが完成したとたん、
そのピースは絵に溶けていきます。
調べても調べても、
そこに超越やからくりはない。
だからこそ、シルク・ドゥ・ソレイユは
私たちに勇気を与えてくれるのかもしれません。
しばらく終わりそうにない
ゆるやかな談笑の輪。
私たちはお礼を言って
シアターをあとにしたのでした。
(連載は、今回で終了です
最後まで読んでいただき、
ありがとうございました) |
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2010-01-28-THU
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