シルク・ドゥ・ソレイユからの招待状(2) 水の中から見えたもの。 〜「オー」のスイマーへの取材〜

北尾 私がすごいなと思うのは、
たとえすごい実力を持ってる人でも、
ぜんぜん威張らないこと。
あまり経歴のない人が、
「ここがよくなかったよ」
と注意したとしても、
「わかった」
って、素直に聞いてくれる。
河邊 みんな、すごく素直です。
経歴がどうのこうのというより、
人間性でつきあってる感じがします。
糸井 それはキャストだけじゃなく、
スタッフも同じなんでしょうか。
河邊 あ、それはそうだと思います。
糸井 さっき、「オー」のバックステージを
案内してもらったんですが、
あらゆるスタッフがなかよくしてる感じが
伝わってくるんです。
河邊 そうですね、あんまりぎくしゃくしないです。
ぎくしゃくしてたら
楽しくショーができないから。
糸井 ほら‥‥いまも
どこかから笑い声が聞こえる。
河邊 あ(笑)。ほんとですね。
いつもこんな感じです。
糸井 テレビでシンクロチームの練習のようすを
観たことがありますが、
その印象とはぜんぜん違いますね。
北尾 私たちも、練習といえば
日本のシンクロしか知らなくて。
最初にここに入ったときには
びっくりしました。
糸井 びっくりしたのは、笑ってるから?
河邊 うん、そうです。
糸井 さっき練習を見せてもらいましたけど、
楽しそうでしたもんね。
河邊 今日は新しいメンバーが入ってきたので
そのパターンの練習をしていました。
今日はけっこうシリアスにやったほうですよ。
北尾 この前のミーティングで
ちょっと冗談が多すぎるってことになって、
今日は抑え気味でがんばりました(笑)。
糸井 本当に、ここは運動部の匂いがしないですね。
たとえば運動部のコーチだと
「現場では厳しくて、練習後は笑ってくれる」
というのがひとつのタイプとしてありますが、
ここではそんなことは
通用しないんじゃないでしょうか。
北尾 いろんな人たちが混ざってるからかな?
スポーツ系の人、シアターから来た人、
芸術方面から来た人、
いろんなミュージシャン‥‥
さまざまな分野からきたカラーが
混ざってるからかもしれません。
糸井 ああ、混ざるっていいですね。
河邊 そもそもシンクロの競技って、
得点を競うために戦ってるわけです。
北尾 スポーツだからね。
河邊 でも、ここは「戦ってる」というわけじゃない。
そこがいちばん大きいと思います。
糸井 つまり、競わなくっても、
「向上したい」という気持ちになれるんですね。
キャスティング前の基礎トレーニングで
おふたりともモントリオールに
いらっしゃったわけですから、
そっちの雰囲気もご存知でしょう。
河邊 私の中では、モントリオールって
全くもって違うものなんですよ。
というのも、
モントリオールのトレーニングキャンプは
いわゆる「次期候補の人」が集まって、
みんなそれぞれ練習を積んで
次のショーに行くわけです。
契約を取ってるわけじゃないけど、
オーディションではない。
だからなのか、なんだか
活気に満ちてるんですよ。
糸井 オーディションではないけど
選ばれるのを待つ‥‥複雑ですね。
北尾 でも、いつでも「見られている」という
感じはしました。
河邊 ほんとにショーに行けるのかどうかが
わからない状態で。
糸井 つらくはないんですか?
河邊 つらくはなかったです。
違う世界の違う国で、
なんだかもう「くらいついていく」毎日です。
全体にすごいパワーがあって、
その中に、楽しさがありました。
糸井 それは、経験しないとわかんないですねぇ。


(続きます)




「オー」の舞台はどうなってる?

「オー」の特長といえば、なんといっても
ステージ全体が巨大なプールになっていることです。
幻想的なコスチュームを身にまとったスイマーたちが
水中からいっせいに現れたり、
ものすごい高さから、屈強な男たちが
水しぶきを上げてつぎつぎに飛び込んだり‥‥。

さすが、この公演のためだけに
しつらえられた「常設シアター」。
仕掛けの規模が桁違いです。

そして、このステージのすごいところは、
巨大なプールとして機能するだけではなく、
状況に応じて「足場のあるふつうのステージ」に
さっと変化すること。

プールだとばかり思ってた場所を
人が、さぁーっと走って渡っていったときは、
「水の上を走った!」とびっくりしたものです。

さて、そのからくりはどうなっているのか?
じつは、このようになっているのです。


ほら、巨大なプール、ですよね?


徐々に、ステージがせり上がってきます。


わかります? このステージ、
小さな穴がたくさん空いているんです。
つまり、水を通しながら、せりあがってくるわけ。


あっという間にステージになっちゃいました。


驚いた糸井重里がうれしそうに寝ころんでますが、
あの、水は溜まってないとはいえ、
そこ、濡れてるんじゃ?

ちなみに、このステージのギミックは、
バックステージを取材したときに、
舞台担当の人が「見せてあげるよー」と言って
わざわざ私たちのためだけに
舞台を動かしてくださったのです。

なにしろ、シルク・ドゥ・ソレイユの人たちって、
来訪者に対してサービス精神が旺盛なのです。
カメラを向けると、とにかくニコニコしてくれるし。

いいですよねー、こういう雰囲気。
取材しながら、パワーをもらった気がしました。

(永田)
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2008-05-08-THU



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Photos: Tomasz Rossa, Veronique Vial Costumes: Dominique Lemieux