シルク・ドゥ・ソレイユからの招待状(2) 水の中から見えたもの。 〜「オー」のスイマーへの取材〜

糸井 モントリオールでくらいついていく毎日を終えて
ラスベガスに来て、ずっとショーをやっている。
気が緩んだりすることはないんですか?
河邊 あります、長くやっている私は特に(笑)。
糸井 それは、あって普通だと思うんです。
人ってそういうことがあるもんだという
その仕組みが、シルク・ドゥ・ソレイユでは
できている気がするんですよ。
北尾 でも、ミーティングで、
「ショーの最中は、気、抜かないで」って
みんなでよく言ってるんです。
楽しんでもいいけれども
やることはしっかりやろう、と
話し合ってます。
‥‥英語だからよくわからないけど(笑)。
糸井 「オー」に出演していくうちに
技術は上がっていくものなんですか?
河邊 上がる?
糸井 もしかして、ここでは
「上がる」「下がる」って言い方が変なのかな?
北尾 「変わる」って感じかな。
私の考えでは、技術は上がらないと
思うんです。
糸井 技術は上がらない。
河邊 ショーは毎日、ある程度は進行も同じ、
振りも毎日ほぼ一緒ですから、
自分が経歴と違うことをやらない限りは
技術は上がらないと思います。
ただ、アーティスティックな面や見せ方など、
そういう能力は上がっていくと思います。
糸井 技術よりも芸術面が。
河邊 ショーの中で何が必要かというと、
そっちのほうだと思うんです。
糸井 昨日「オー」を観させていただいたときに、
まずはシンクロを観ている目のまま、
観客席に座ったわけです。
北尾 はい、はい。
糸井 シンクロの試合に比べると、
揃い方が最初は緩かったりするわけですが
決めるところでは
ピシャッといくんですよね。
これは、毎日やってることの
すごみだなと思いました。
あんまりピタピタそろってたら
かえってだめなんじゃないかとも思えたし。
河邊 もちろん合わせなくちゃいけないところも
ありますが、
このショーのおもしろいところは、
もっとほかのところにあると思います。
シンクロのパフォーマーといっても、
指ひとつひとつが違います。
競技だったら、そのあたりが揃っていないと
すべてポイントに
反映されてしまうんですけれども。
糸井 うん、うん。
河邊 でも、この舞台はそうじゃなくて、
ひとりひとりが表現を担っているんです。
表現というのは、指ひとつでもできる。
手の指と一緒で、足の指も使える。
足だっていろんな動きができるんですよ。
北尾 シンクロでは、足を高くするときに
「いかに高いか」を問われるんですけど、
シルク・ドゥ・ソレイユは、例えば
足首以上は出しちゃいけないよ、と
言われたりします。
糸井 競技では避けなければいけなかったことでも
「こんな可能性があるんだ」というふうに
なっていくわけですね。
河邊 違う世界です。まったく。
北尾 それがすごくおもしろい。
糸井 それはうれしいですか?
河邊 うれしかったのが半分で、
あとの半分は、ショックを受けました。
自分は何をしてきたのかと。
決まった形しか知らなかったから、
いろんなものが出てくる「箱」を
自分は持ってないんですよ。
ワーッと、混乱しました。
糸井 シンクロの「高いほうがいい」みたいな価値観で
やりこんでいけば、
受験勉強と同じことで、高さなら高さが
天井知らずで求められるに決まってますよね。
それを懸命にやっていた人が
そうじゃないと知ったらショックでしょう。
北尾 きっと「点数の表現」をショーでやっても
おもしろくないんだと思います。
みんなが「あれは高いね」と
言っているばかりになったとしたら。
河邊 そうそう。
糸井 トップの選手を上から集めても、
ここでは「だからどうしたの?」ということに
なっちゃうんですね。
北尾 ここではみんな、技術を見てるんじゃないんです。
高さを出せない場合には
低い位置でどういう表現をすればいいのか、
ということのほうが大切です。
最初の頃は、そこがわからなくて
怖がりながら周りを見てました。
キョロキョロしましたよね?
ここに来たときは。
河邊 うん、うん(笑)。
糸井 ‥‥やっぱり、楽しそうに話しますね(笑)。


(続きます)




ラスベガスでは
シルク・ドゥ・ソレイユの
5つのショーが見られます。

今回私たちが取材したラスベガスでは、
「オー」のほかに
「ミステール」「ズーマニティ」「カー」「ラブ」
のショーを観ることができます。
ラスベガスの空港には、
5つのショーの看板が並んで
掲げられている場所があります。

それぞれ、専用シアターで行なわれる
常設ショーばかりですが、
ショーは同じ場所で行われているわけではありません。
「ミステール」はトレジャー・アイランド、
「オー」はベラージオ、
「カー」はMGMグランド・ホテル&カジノ、
「ラブ」はザ・ミラージュ、
「ズーマニティ」は
ニューヨーク・ニューヨーク・ホテル&カジノで
それぞれ公演が行なわれています。
そうなんです、劇場があるのは
すべてホテルの中なんですよ。

どれも人気の高いショーなので、
予約を取るのがたいへんかもしれませんが、
ラスベガスに何泊かして
全部観てみるのもいい! と思います。

いまは、カジノを目的にやって来る人より、
シルク・ドゥ・ソレイユをはじめとする
ショーを観覧するために
訪れる人のほうが多くなったという声も聞かれます。
ラスベガスは「カジノの街」から「ショーの街」へ
変貌を遂げつつあるのかもしれません。

(スガノ)
シルク・ドゥ・ソレイユ シアター東京の
トライアウト公演は
こちらのサイト
チケットが販売されています。

2008-05-09-FRI



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Photos: Tomasz Rossa, Veronique Vial Costumes: Dominique Lemieux