シルク・ドゥ・ソレイユからの招待状(2) 水の中から見えたもの。 〜「オー」のスイマーへの取材〜

糸井 「オー」に入ってから
どのくらい経つんですか?
河邊 私は6年半です。
北尾 私は1年と4か月。
糸井 6年半やってる河邊さんは、
最初の頃に比べて
いろんなことが違ってきたりしますか?
河邊 基本的には変わらないですけど‥‥
でも、考え方は
1年目、2年目、3年目越すごとに、
すっごい変わって来ます。
最初はショーが好きで、
すごく好きで好きで好きでした。
でも3年目、4年目になると、
そのうち、飽きも入ってきます。
糸井 そうでしょうね。
河邊 環境も見えてきます。
でも、その中でどうやっていくかを
身につけて、そのあとにだんだん、
「ああ、すっごい好きだ!」ってことが
わかるときが来るんです。
このショーが、自分には必要だということが
リアルにわかるんです。
糸井 ああ、それはすごいね。
河邊 でもそれは、私の気持ちの変化なだけであって、
ショーの中でのパフォーマンスは、
「長くやっていれば
 いろんなハプニングを知っている」
というぐらいで、特には変わんないです。
北尾 そうですね(笑)、
あり得ないハプニングというものが
ありますから。
河邊 しかも、いっぱいあります。
それを経験した数が多いという、
ただそれだけで。
糸井 でも、それは財産ですよね。
河邊 そうなんでしょうね。
だから、ハプニングが起こったときも
落ち着いていられます(笑)。
北尾さんも、1年経つだけで
けっこうあると思うんですが‥‥
北尾 けっこう見てますよ。
「みんな、どうするだろう」って、
目だけキョロキョロさせて(笑)。
糸井 1年経ったら、ひと通りは
だいたい経験するんですか。
北尾 「save the show」といって、
「こういうときはこうしましょう」という
パターンがあるんですが、
ときどき「ないパターン」が来るんです。
そういうときは、
「あ、みんな、どうするかな」
とか思いながら、適当に(笑)、しています。
河邊 キャリアが長いと
それを知っているというくらいで、
あとは、新鮮な人のほうが
技術も高いし、見習うことはすごくあります。
北尾 思い出させる、というか?
河邊 本当にそう。
いろんな意味で慣れてきてしまっているから、
新しい人たちにすごいエナジーを
もらいます。
そして、いまの自分のこういう時期が
必要だということもよくわかるんです。
糸井 真の意味でのプロになっていく、
という道ですね。
嫌になるくらいで辞めたら、
やっぱりアマチュアですもんね。
‥‥そういう言い方は、変だけどさ。
河邊 そうです。
好きな食べ物を
毎日食べなさいって言われたら
それはほんとに
好きでいられるかっていったら、わからない。
糸井 しかも2回ずつでしょ。
河邊 そうなんです。
だからすごくね、北尾さんが入ってきたことは、
私にとってみたら、よかった。
いいエネルギーもらっています。
糸井 先輩がいるのもよかったね。
北尾 そうそうそう!
本当によかった。
糸井 そういうことは、絶対、
入れる人、つまりキャスティングする側も
考えてるんじゃないですかね。
河邊 ‥‥考えてると思う。
糸井 河邊さんにはこういう刺激を、
北尾さんには先輩を、と。
北尾 どこまでやってるのかな?
河邊 少なくとも、さっきも言いましたが、
性格は絶対に見てると思います。
糸井 裏でどんなミーティングをしてるんだろうね?
僕は会社の社長をしているけど、
もしも僕だったら
「あの子を入れると、あの子もよくなるな」
みたいなことはしたいし、
それがうまくいったら本当にうれしいと
思うんです。おふたりをキャストした人は、
いまのお話を聞いて、
もう、泣いちゃうぐらいうれしいと思いますよ。
河邊 言ってみようかな(笑)。
そうか‥‥そっか‥‥。

(続きます)




舞台がプールということは‥‥。

何度も言ってますが、
「オー」の舞台は巨大なプールになってるんです。
それって、やっぱりたいへんなことなんですよ。
なにしろ、ずっと水があるわけですからね。

出演者の服は当然、毎回、濡れるし、
セットや大道具も水上や水中に設置されるし、
やっぱり、危険なことだって起こりうるし‥‥。

たとえば、舞台袖に回ってみると、
こんな人たちがいたりします。


そうです。「オー」のステージには
つねにダイバーが待機しています。
彼らは客席からはまったく見えません。
文字通りの黒子として、
スイマーたちをフォローしたり、
セットを速やかに移動させたり、
トラブルに対処したりする人たちです。
舞台には出なくとも、
つねに舞台袖に待機している
「オー」に欠かせない人たちなんです。

もうひとつ、
「舞台がプールってたいへん!」
ということがわかりやすい写真を
お目にかけましょう。




こちら、ずばり、乾燥室です!
「オー」の衣装は、当然、毎回ずぶ濡れ。
けど、ショーは、1日2回、
しかも連日のように催されるのです。
もちろん、衣装は1枚じゃありませんけど、
細かい細工がほどこされた
特別なあつらえのものばかりですから、
何十枚もあるわけではありません。
その衣装が乾かなかったらたいへんです!

そこで、「オー」のシアターには
巨大な乾燥室が完備されているのです。
「ここは世界最大の乾燥室さ!」と
スタッフの方はおっしゃってました。

たしかに‥‥そうかも‥‥。
いや、「ほぼ日」のフロアーが
巨大なプールでなくてよかったです。

(永田)

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2008-05-12-MON



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Photos: Tomasz Rossa, Veronique Vial Costumes: Dominique Lemieux