シルク・ドゥ・ソレイユからの招待状(2) 水の中から見えたもの。 〜「オー」のスイマーへの取材〜

糸井 「オー」の水槽のガラスの厚さ、
見たことあります?
河邊 いえ、見てないです。
糸井 ここのバックステージを
見たことないんだったら、ぜひ
見せてもらったらいいですよ。
水槽のガラスは、すごく分厚いの。
基準値は、もっと薄くていいらしいんだけど。
北尾 誰かが置いていた照明の熱で
ガラスが少し
溶けちゃったところがあるんだって。
河邊 そうなの?
糸井 だから、厚くしといてよかったですよ。
莫大な費用がかかってもね。
河邊 いや、バックステージのことだけじゃなくて、
「オー」の、我々スイマーは
水中ばかりにいるから
ステージの上のほうで
どんなことが行われているかは
あまり知らないんですよ。
エアのアクロバットの人が
どうやって上がっていって
裏方の人が何をつけてどう操作して
全体がどうなってるか、知らないんです。
だから、ここ最近、
「パフォーマーはショーを見ていいよ」
という機会ができたんです。
そのかわり、みんなの前で
感想を話さなくちゃいけないから
私はやってないんですけども(笑)。
糸井 はははは。
河邊 反対に、ほかのアクロバットの人は
水中を見たことがないんですよ。
それで、ショーを観て
すっごい感激したんですって(笑)。
北尾 あの感想はおもしろかったな。
そのうち私たちも正面から見たいです。
糸井 見たほうがいいんじゃないですか。
そこにいないのは自分だけですよ(笑)。
「オー」はね‥‥、
すばらしいですよ。
北尾 ははは、ほんとに。
糸井 シルク・ドゥ・ソレイユの
常設のショーを
僕らは今回の取材で、はじめて見たんです。
いいって聞いてたからいいんだろうとは
思ってましたけど、昨日観て、
今日こうやってお話を聞いて‥‥
いや、これは惚れますね。
もちろんまだすべてについて
どうとは言えないんですけどね。
シルク・ドゥ・ソレイユ以外のショーに
入ることは考えますか?
河邊 考えてないです。
自分では、シンクロができるショーは
世界でここがいちばんだと思っています。
年齢的なものもあるし、
この次の人生があるとしたら、
ショーとは違う方向で行けるようにと、
考えてます。
糸井 どういうレベルで最高峰なんですか?
河邊 たとえばショーの内容にしても
音楽と舞台がすごくマッチしてるし、
ライティングひとつにしても
水をこれだけきれいに見せられるんだ、
という驚きがあります。
こんなにお客さんを魅了できるのは、
ちょっと天狗になってますけど(笑)、
それは、ほんとに
ショーを作ってくれた人の
おかげだと思うんですよ。
ディレクターも、サポートの人たちも
会社もみんな含めた
シルク・ドゥ・ソレイユ全体が
つくりあげたショーだと思うんです。
糸井 うん、うん。
河邊 こんなショーをほかで観たことはありませんし、
6年間もやって、
まだ好きでいられるということは
自分のことながら、
「すごいショーだと自分が思ってるんだな」
と、驚くことがあります。
北尾 すごいことがひとつじゃない、
それらが奇跡的に調和してる、ってことが
すごいんです。
すべてのバランスが整ったショーです。
糸井 ショーのステージに立つということは
ボディも含めて
全部を賭けなきゃなんないものですよね。
そういう実感のある仕事って
そんなにたくさんないと思うんですが。
河邊 そこは本当に恵まれてるな、と思います。
たとえばシンクロの競技の経験だけだったら、
そんな感じを受けないで
シンクロを終えただろうと思います。
競技としての、競うための
シンクロナイズドスイミングとしか
思えなかったんじゃないでしょうか。
北尾 ほんと、そうですね。
河邊 そうだったはずなのに、いま、私は
シンクロを通して
こんなに楽しませてもらってるんです。
しかも、仕事として、お金を稼いでいる。
すごくラッキーだったと思います。
私なんか別に
背が高いわけでもすごいスタイルがいいわけでも、
ショー向きかっていったらそうじゃないのに、
それなのにチャンスを与えてもらって‥‥。
‥‥これはたぶん、オマケかな?
シンクロ競技をやって大変だったことへの、
オマケなんじゃないでしょうか。

(続きます)




メイクは自分でやります。

このページのいちばん上の写真は、
北尾さんがショーに出るための
メイクをしているところです。
シルク・ドゥ・ソレイユのパフォーマーは、
自分で舞台用のメイクをします。
ちょうど、日本の歌舞伎役者さんたちのようですね。

パフォーマーがシルク・ドゥ・ソレイユに入って
キャスティングが決まったら、
たくさんのメニューが待ち受けています。
そのなかのひとつがメイクのトレーニングです。


世界中から人が集まるため、
それぞれ顔立ちがちがいますから、
(例えば、自分の眉をそのままいかす人と
 ファンデーションで眉を塗りつぶして
 別の場所に描く人とがいます)
ひとりひとりのメイクレシピが緻密に作成されます。
このメイクを自分でしあげるのは、
最初はなんと2時間くらいかかるんですって。

北尾さんは
「私は遅くって〜」
と嘆いていらっしゃいました。
一方、河邊さんはさすが6年半のキャリア、
30分くらいで完璧にできるそうです。
たしかに、目のまわりの線を
クルッと描くことひとつをとってみても、
たいへんむずかしいですね。
自分がやると思うと、絶対別の化粧になりそうです。

おでこのタトゥーは、北尾さんはスタンプを使って、
河邊さんはきれいに手で描いていました。



メイクがしあがって、
本番前のおふたりです。
今日のショーもがんばってくださいね!

ちなみに、このメイクを落とすときには、
オリーブオイルを使う人が多いそうです。

(スガノ)

シルク・ドゥ・ソレイユ シアター東京の
トライアウト公演は
こちらのサイト
チケットが販売されています。

2008-05-13-TUE



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Photos: Tomasz Rossa, Veronique Vial Costumes: Dominique Lemieux