その1 ラオスはずいぶん、変わりました。
2015-10-28-WED

その2 切羽詰まったなかの、楽しさ。
2015-10-29-THU

その3 原点は家族や親しい人のためにする仕事。
2015-10-30-FRI

その1
ラオスはずいぶん、変わりました。

お久しぶりですね。
2011年の秋に、こちらで、私の仕事、
ラオスの村でしている、少数民族のクロタイ族、
レンテン族、カム族のひとたちとの布づくりを
紹介してくださってから、
もう4年がたつんですね。

私、インターネット上で
自分から発信するということをしないので、
何か私のことや村の仕事のことを知ろうとするかたは、
みなさん「布のきもち。」 を読んでくださっているようで、
ほんとうに助かってます。

私が最初に、ラオス北部の
ルアンナムターの村に行ったのが1999年ですから、
今、それから17年目。
実際に仕事をスタートさせてからは、
16年目になります。
村の変化ですか?
それはやっぱり、いろいろ、たくさんあります。
環境も、人も。


▲レンテン族の人たちと一緒に。

最初のころは、いったいここは何時代なの?
っていうくらい、素朴でのどか、っていうのかな。
そんな村でした。
でも、そのころ、すでに変化は
始まりつつあったと思います。
4年前の「布のきもち。」のころは、
電気が通りはじめた程度だったんですけれど、
今や、もう、かなりの人たちがスマホを持ってます。
数年のあいだに、
電話やインターネットが入ってきて、
もう、激変、ですね。
便利さ、というものが村にやってきて、
お金がなかったら生活できない、
という状況になってしまったんです。

私の偏見かもしれないのですけれど、
素朴だった村が、
とにかく何とかしてお金を作らなければならない、
そんな状況に追い込まれているように見えます。
土地を売って手放していくから、
田んぼで作物をつくることもできない。
そうなるとさらに大変で、
子どもたちを何とか学校に行かせて、
就職させて、サラリーマンにさせて、
現金収入を得なければならない。
子どものいる親は、みんなかなり切実で、
そのことに必死なんですね。
サラリーマンにならない限り、
もう生きていけないと思っている人もいる。
16年前と、すごく変わってるんですよ。
そして、自然はどんどんなくなっていくんです。

前は、自給自足と物々交換で、
現金がなくても暮らせたけれど、
今、生活するにはどうしてもお金が要る。
現金がなくたって生きていける力というものを、
ある程度から上の世代の人は、
みんなまだ持ってるんだけれども、
それは、森があって、森に行けば動物が獲れるとか、
貴重な薬草が採れるとか、
暮しの背景に、とても豊かな自然がないと、
役には立たない知識や力なんですよね。
土地を売り、自然がなくなっていく今の状態では、
そんなものはもうあてにできない。
ほんとうは、本来の人として、
生きるためになによりも大切なことなのに。

家族を、生活を支えていくために、
より早く、より多く、
お金を得る方法を考えるようになると、
手仕事っていうのは、効率の悪い仕事ですよね。
少なくとも、もっと効率よくお金が得られるのなら、
手仕事なんて、やらない。当たり前ですよね。

今、大きな動きとしてあるのが、中国の影響です。
中国の資本が、ラオスの人たちから、広い土地を、
買うのではなく、借りて、
バナナプランテーションを作ってるんですよ。
それが、どんどん広がってるんです。

私のいるところって、
車で30分ぐらい行けば中国との国境なんです。
でも私が初めて行ったころは、
こんなに中国が近いのに、村の人たちの生活の習慣が
中国の人たちと全然違うんだっていうことに驚きました。
食べ物なんか、むしろベトナムっぽく感じたくらいでした。

ところが今、中国の人の関わりかたというのが、
もう凄まじいもので。
バナナプランテーションには、うちの村からも、
働きに行っている人がいます。
プランテーションの報酬は、バナナを出荷してから、
最後にまとめてドン、と支払われるんですけれど、
やっぱり出し方が違う。巨額なんですね。
私の仕事では、とてもそんなふうには出せません。

だから、みんな行きたいんですよ。
でもね、仕事はきついらしいし、農薬の影響なんかで、
具合が悪くなっちゃう人もいる。
でも収入はすごいから、
ちょっとぐらい体が壊れても行きますよ、みんな。

それでもやっぱり無理、という人が、
我慢して私のところにいる。
あと、お年寄りで、
今さらそんなところに行くのもめんどうだし、
新しいことを覚える気もないし、
まあユキコは、昔からつくってきたようなものを、
これいいね、なんて言ってくれるし、
そっちのほうが楽しいかな、っていうような人が、
まだ、残ってるような状況ですね。

人数ですか?
全部で、そうですね、
糸を作って下さってる人とかを入れると、
150人ぐらいはいるのかな。


▲機を織るセンさんと(撮影:鈴木晶子)

いっしょに仕事をしている村の人たちの意識も、
変わってきたと思います。
昔は、日本という、進んだ国──こういう言いかた、
私は好きじゃないんですけど──、
進んだ国との仕事をしているんだ、
っていうような感覚がありました。
でも今は、
「ユキコが好きだっていうから、
 つき合ってあげる」
みたいな感じなんですね。
「ユキコは昔っから
 同じようにこんな古くさいものが好きで、
 もう、しかたがないなぁ」って。

なんだかせつない話になってしまいましたね。
でも、そんな感じで、なんとか、いまも、続いてるんです。

(つづく)

2015-10-28-WED
岩立広子さんが応援する
谷由起子さんのラオスの布展を
TOBICHI2で開催します。


H.P.E.谷由起子 ラオスの布と手仕事展
2015年10月30日(金)~11月3日(火・祝)

ラオスのルアンナムターで、
少数民族のひとびとと一緒に
布をつくっている谷由起子さん。

ひと昔前までは電気もなく、
お金もたいして必要としていなかった、
クロタイ族、レンテン族、カム族のひとびとは、
衣食住のすべてを自給自足でまかなってきました。
なかでも「布」は、
桑や綿の種をまいて育てるところからはじまり、
蚕や綿から細い糸を紡ぎ、機で織り、
藍などの草や木の皮からつくった
染料で染めるところまでを、一貫して行っています。
もちろん、それを織り、刺繍をし、縫い、
暮らしに必要な「布製品」にすることも、
そのひとたちの手仕事です。
それは、作家がつくる作品でも、
職人がつくる工芸品でもありません。
家族や身近な親しい人のことを想って
「使うため」に、一心に作られているものです。

「ほぼ日」の「布のきもち。~ラオスの布」
谷さんにお話をうかがってから4年。
このたび、TOBICHI2で、
谷さんの企画とラオスのみなさんの技術を
組み合わせてつくられた布や服、小物たちを
展示販売することになりました。
ぜひ、足をお運びください。

公開座談会「手仕事には未来がある。」のご案内

岩立フォークテキスタイルミュージアムの岩立広子さんと
陶工の鈴木照雄さんのおふたりをお招きし、
谷由起子さんと、手仕事の現在と、
これからについてお話をいただきます。

お話をいただくみなさん
岩立広子さん
(岩立フォークテキスタイルミュージアム館長)
鈴木照雄さん(陶工。栗駒陣ヶ森窯)
谷由起子さん(H.P.E.主催)

日時:11月1日(日)14時~15時30分
場所:TOBICHI2の1階の展示スペース
東京都港区南青山4-28-26
募集定員:10名
参加方法:
11月1日(日)午前11時より、
TOBICHI2の1階のレジで、
整理券を先着順にお配りいたします。
定員の空き状況は
「いまのTOBICHI」ページでお知らせいたします。

※11月1日(日)は公開座談会のため、
13時~16時のあいだ、
TOBICHI2の1階の展示スペースではお買い物できません。
ご了承ください。

© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN