マームとジプシーを主宰する
藤田貴大さんに会ったのは2011年の春。
芸術評論誌『ユリイカ』の山本編集長が
「ぜひ『cocoon』をマームとジプシーで舞台化するべきだ!」
ということで引き合わせて下さったのでした。
当時、私はマームとジプシーの舞台を観たことがなく、
youtubeの映像や公式ホームページの雰囲気から
勝手に若い女性が主宰だと思っていたので、
藤田さんに会ってびっくりしてしまい、
あまり話ははずまなかった記憶があります‥‥
しかし、『cocoon』は新しい時代のための物語で、
若い作り手にまかせたいと思っていたので、
彼に舞台化をお願いすることになりました。
(編集注:藤田さんは当時26歳でした。)



舞台化の約束をしてから
毎回マームとジプシーの公演に足を運びました。
最初は独特の「リフレイン」表現にとまどったりしましたが、
観るものの記憶をゆさぶるような舞台に
いつしか引き込まれていったのでした。

2012年の夏、
「マームと誰かさん」という舞台シリーズで、
マームとジプシーと今日マチ子の
コラボレーションに挑戦しました。
『cocoon』舞台化へ向けての具体的な第一歩です。
ひとつの舞台作品をつくりながらお互いの表現を知ろう、
という目的がありましたが、
マンガと演劇、まったくちがうジャンルです。
どうしたらいいのかわからない‥‥
とりあえず、同じ風景をみてみたら
違いも共通点も明らかになるかもしれない。
ということで
多摩川を二子玉川から羽田まで歩いてみることにしました。
4月の終わりでした。
私は人見知りなので、このときでも、
藤田さんとはほとんど話さなかった気がします。
黙々と歩きました。



2012年7月末。
「マームと誰かさん」の舞台が完成しました。
多摩川を歩いた1日から、
私がイラストをいくつか描きおこし、
役者さんがその動きを真似してみたり。
高校時代のことをみんなで思い出してみたり、
藤田さんが書いたテキストから想像して絵を描いたり。
誰がつくったわけでもない、
たわいもない会話の積み重ねのようなところから
約1時間の作品ができあがりました。
小さいギャラリーでの上演でしたが、
イラストの投影や役者さんの動きをマンガから展開したりと、
マンガと演劇のジャンルを超えて、
舞台『cocoon』へ向けた共作の
確かな手応えを感じた作品でした。




今日マチ子さんと
「マームとジプシー」の劇作家・藤田貴大さんが
一緒につくった最初の作品である「マームと誰かさん」。

藤田さんと3人の「誰かさん」が
共に舞台をつくりあげる企画で、
2012年5〜7月のうち3日間ずつ公演されました。
藤田さんのパートナーは月ごとに変わり、
5月は音楽家の大谷能生さん、
6月は演劇家の飴屋法水さん、
そして、7月はマンガ家の今日マチ子さんでした。

そのときに描かれた絵の一部が、
こちらです。





多摩川を歩いたときの風景や
女子校の一場面などを
下描きなしで思いつくままに描いたそうです。
今日さんのブログ「今日マチ子のセンネン画報」に
「マームと誰かさんメモ」として
これらの原画はすべて公開されていますので、
ぜひ、ご覧ください。

「マームと誰かさん」では、
2人の役者が演じる舞台上に
ストーリーに合わせて
これらの絵が投影されていました。



                    撮影:飯田浩一

わたしは今まで
あまり演劇を観たことがなく、
その世界のハードルの高さも感じていたのですが、
この「マームと誰かさん」を観て、
その表現や、生の演技にとても衝撃をうけました。
その感覚を何度も味わいたくて、
「マームとジプシー」の公演があると
かけつけるようになりました。

(おおたか)