第1回 かたちをつくらないデザイナー

山崎 もともとぼくは
「公園って、管理はされていても、
 誰かが運営している感じがないのは
 どうしてなんだろう」
と思っていたんです。
美術館や博物館は、学芸員の人たちが
いろいろやっている感じがあるけれど、
公園にはそういう印象がありません。
調べてみたら、今まではただ公園というハコを
つくっていただけだったんですね。
ですから、あるときから、
「公園にも『運営』していくという
 発想が必要なんじゃないか」
と考えるようになりました。

そんなときにちょうど、
そういう工夫をしている公園が
アメリカにあると聞いて、2003年頃に
いくつかの公園の運営の実例
「パークマネジメント」を見てきたんです。


糸井 へえぇ。
山崎 訪れたなかで、サンフランシスコの
「クリッシーフィールド」という国立公園の
ディレクターと仲良くなりました。
そこは、もともと軍用地だった場所を
公園にしたところなんですが、
運営を民間のNPOに委託しているんです。
国から費用もでていますが、
基本的にはそのNPOが市民から寄付をつのって
公園の運営資金にあてています。

寄付で運営資金をつのるといっても、
その集め方がおもしろいんです。
彼らはただ寄付をつのるではなく、
公園の中にショップをつくるのです。
そこで、自然の写真集とか、
エコなライフスタイルの本とか、
オーガニック素材を使ったジャムやパスタソース、
寒くなったときに羽織る服、
公園で読んだら気持ち良さそうな文庫本など、
来園者が好きそうな商品を
ずらっとお店にならべているんです。
そして、店の目立つ位置に
「あなたがここで買い物することは
 公園のマネジメントをより良くします」
という案内書きがあるんですよ。
糸井 なるほどねぇ。おもしろいな。
山崎 そこでの買い物は、
知らないどこかの企業を儲けさせるのではなく
公園が良くなることにつかわれますよ、
ということが、はっきり表示されているんです。
ホームページを見ると、
ひとつの買い物で
ショップにいくらお金が入って、
そのうちどれだけのお金が
公園のためにつかわれるかも
明らかにされています。
その公園自体の収支も、
もちろん明記されています。

そして公園のカフェに行くと、
壁に子供たちの写真がいっぱいあって、
「ここでお茶を飲むことは、
 子供たちのとびきりの笑顔を生み出すような
 各種プログラムに役立ちます」
というようなことが書いてあるんですね。
‥‥ま、日本人の目でみると
「そこまでいいことばかりを言いますか」と
思うところもあるんですけど。


糸井 はははは。
山崎 でも、そうするとやっぱり
そこでお金を払うことが非常に気持ちいいんです。
「本屋さんやお店で同じモノを買うんだったら、
 公園で買ったほうがいいな」
と思わせるだけの理由が確かにある。
「支払ったお金の何割かは
 この公園がたのしくなるために
 使われているんだろうなあ」
と、想像力をはたらかせながら
買い物をできるのは、
やっぱり、うれしいことなんですよね。
糸井 それは、その公園がとても
上手にやってるんでしょうね。
「みんなのためにお金をつかう」
ということに対する研究が
アメリカではしっかりされてきている気がします。
山崎 ええ、そう思います。
「ほしいものを買うんだったら、
 みんながうれしくなるかたちで
 買いませんか?」
と提案するやりかたなので。
糸井 なるほどなあ‥‥。
そのアメリカ的なやりかたとは
ちょっと違うのですが、
ぼくらはいま、気仙沼の方々に
編み物をやってもらおうとしているんです。
気仙沼ニッティング」という名前の、
手編みの会社をつくっていこうとしています。
山崎 はい、はい。
糸井 でも、手編みって、今までのやり方だと
あんまりちゃんとした仕事にはならないんです。
つまり、手がかかるから、
編む人へのギャラが安くなっちゃう。
アイルランドに手編みのセーターで有名な
アラン島という島があって、
ぼくはそこにも行ってきたんですけど、
一着つくるのに60時間ぐらいかかる
手編みのニットセーターが、
2万円で売っているんですよ。
山崎 それはちょっと‥‥。
糸井 毛糸代もかかってるのに、
ものすごくバランスが悪いんです。
どうしてそんなことになっているかと思うと
「消費者にとっては安いほうがいいに決まってる」
という法則に合わせて、
経済が発展してしまっているからでしょう。
「安いほうがいいんだから、
 機械編みでどんどんつくったほうがいい」
という考えで、
機械が仕事を取ったんですね。
そして編み物ぜんたいが、
機械編みでつくったときの値段になり、
労力に見合わないものになってしまっている。
山崎 なるほど。そうですね。
糸井 手編みのものがほしい人たちは、います。
なぜなら、やっぱりいいものだから。
山崎 ええ。いるでしょうね。
糸井 でも、買う人たちは、
安く買えている状態は失いたくない。
ですから、そのバランスの悪さを
どう解決していくかが
この会社のひとつの軸になります。
買う人もうれしいし、
編んでいる人たちもうれしい、
そういう仕組みにしたいと思っています。
山崎 うん、いいですねえ。
そのあたりの考え方は
ぼくらがやりたいこととも近いです。
(つづきます。)
2013-01-11-FRI