第1回 かたちをつくらないデザイナー

山崎 いまうちの事務所がやっていることのひとつに
おじさんのコミュニティをつくる
仕事があるんです。
糸井 おじさんのコミュニティをつくる仕事(笑)。
山崎 はい(笑)。
大阪府の府営公園をつくる仕事を
しているのですが、
公園の整備や管理をする人々として、
「パークレンジャー」というボランティアを
養成しているんです。

そのボランティアに応募してこられる方の多くが
定年退職された男性なので、
結果的におじさんのコミュニティをつくっている、
ということではあるのですが。
糸井 へぇー。
山崎 応募してきてくれたおじさんたちが
1年がかりの養成講座を受けて、
公園づくりの技能を身につけていきます。
1期につき、だいたい30人くらいのチームで、
みんなで竹を切ったり植物について学んだりしながら、
公園の整備の具体的な方法を学びます。
そして、講座が終わったあとは、
実際にその公園のパークレンジャーとして
活動していただきます。
いま受講しているのが4期生。
すでに受講し終えた1期生、2期生、3期生は
もう公園の中に入って、
どんどん竹を切ったり道をつくったりしています。
これを毎年つづけて、
パークレンジャーを200名まで
増やしていきましょう、
というプロジェクトなんですよ。


糸井 おもしろいですね。
山崎 公園の整備や運営は
コミュニティをつくることと組み合わせると、
うまくいくんじゃないかな、
という考えからはじまったことなんですが。
糸井 コミュニティと組み合わせる‥‥というと?
山崎 その公園の最初の計画は、
敷地ぜんぶを
はじめから整備しようというものでした。
でも、ぜんぶを整備したあとで
公園を維持しようとすると
相当なお金がかかります。
たとえば最初の整備に
10億円ぐらいかかる規模の公園であれば
維持費が10年分で2億円くらいかかります。
つまり、全部で12億必要です。
糸井 ええ。
山崎 でも、最初から整備しておくのは
敷地の2割だけにしたらどうでしょう。
そのかわり、養成講座で
毎年パークレンジャーを育てていき、
のこりの敷地は、そのパークレンジャーたちが
少しずつ整備していく。
そんなやりかたをすることにしたんです。

それだと、先ほどの計算でいえば
最初の整備に2億円、
維持費のところは
レンジャーを育てていく費用が入るので、
すこし多くなって、10年で3億円。
でも、全部で5億円です。
お金をかけずに公園整備ができて、
さらに、10年後に
「公園にようこそ!」と言ってくれる
200人のチームができていることになるわけで。


糸井 ほおー! なるほど。
いいですねえ。
最初の「2割だけの整備」というのは
いったいどんなことをやっておいたんですか?
山崎 公園の入り口部分や
「パークセンター」と呼ばれる
核となる施設だけを整備して、
残りは森のまま残し、
道だけつくっておくようにしました。
あとは、森の中にトイレつきの
のこぎりなどの道具が置いてある小屋を
ぽつぽつと建てておく。
それだけです。
糸井 うん、うん。
山崎 公園をどんなふうに整備していくかも
パークレンジャーの人たちと
相談しながら決めています。
「公園でなにをしたいですか」と聞いて
たとえばみんなの意見が
「森の音楽会をしたい!」とまとまれば、
「じゃあそれができるように、
 林床を整備してください」
とお願いしてその人たちがやる。
そんな流れで、整備をおこなっています。
糸井 そのおじさんたちは、
自分でお金を払って参加してるんですか?
山崎 いえ、その公園に来るための交通費や
保険代は自費ですけど、
講習自体は無料です。
とはいえちゃんとした整備ですから、
大変な部分はけっこうあります。
でも、そういった公園のつくりかたを
粋に感じてくれて、
「ま、やったろうやないか」という
大阪のおっちゃんたちが集まってくれています。
みんなものすごく元気で、チームの結束力も強くって。
お互いに意見を言い合いながら、
どんどん整備してくれているんです。
糸井 みんな、たのしいんですよね。
山崎 それもあると思います。
地域の役に立つ仕事でもありますし。
糸井 これは違う話になりますけど、
秋に、東京で
「目黒のさんま祭」というイベントが
毎年行われているんですよ。
気仙沼から大量のさんまを運んできて、
目黒の公園でとにかく焼いて、焼いて、
来てくれた人にタダでさんまを振る舞う、
というお祭りイベントなんですけど、
そのお祭りには、気仙沼から
さんまを焼きに来る人たちがいるんです。
山崎 へええー。
糸井 その人たちは0泊3日の旅で、
深夜バスで来て深夜バスで帰ります。
山崎 0泊3日!
糸井 そう。すごい弾丸ツアーで、
煙のなかでさんまを焼いて、
大変な思いをして帰っていくんです。
でも、その気仙沼から
さんまを焼くためにやってくる人たちは、
じつは3000円を「払って」参加しているんです。
その内訳はバス代とTシャツ代らしいんですけど、
お客さんにはタダで振る舞って、
大変な思いをするほうが3000円払うという
不思議なイベント(笑)。
ぼくも「焼き」の手伝いに行ったんですが、
当然、参加費の3000円を払いました。
山崎 はあー、すごい。
みんな払ってやってるんですね!
糸井 でも、お金を払ってみんなのために
大変な思いをしながらさんまを焼くことが、
なんだか、うれしいんですよ。
山崎 ええ、ええ。わかります。
いろんな場所で価値観の転換って
起きているんですよね。
糸井 こんなことを聞くのもなんですけど、
たとえばさきほどの公園の計画のようなものって、
どうやって山崎さんたちの収入になるんですか?
企画を出すことですか?
山崎 ぼくらのやっている仕事は、基本的に
企画を出したあとで実行をしますので
その「実行すること」に対して
お金をもらっています。
糸井 ああ、なるほど。
山崎 さきほどの公園の話だと、
「公園をつくる」ということの実行が
ぼくらの収入です。
「2億円で最初の整備をして
 残りはちょっとずつ整備していきます」
というなかの、
「ちょっとずつ整備する」費用の中に、
ぼくらの働く分が入っています。

もうすこしお金のことを言うと、
じつはこの公園づくりについて、
大阪府はお金を出していないんですよ。
府がお金を出しているのは土地だけで、
公園をつくる費用は
「大輪会(だいりんかい)」という
関西の企業グループから支援をもらっています。

その企業グループが、
「なにか企業として社会貢献をしたいんだけど、
 いまは何をするといいんだろう」
と考えていたとき、
その公園の計画について橋下知事が
「予算はゼロ!」
と言いきったところだったんです。
そこで、この『予算はゼロ!』と言われた公園を
企業グループの支援でつくることになりました。
ぜんぶをお金で、というわけではなく、
一部はショベルカーなどのモノを提供していただいたり、
支援しやすい方法で支援してもらっています。


糸井 そういうことを全部マネージメントするって、
相当大変でしょうね。
山崎 それはもう、成り行きだからなんとかなっている
というのが正直なところです。
公園計画でも、さきほどお話ししたように
「知事が変わって、予算がゼロになったので
 発注できません」
となってしまうことだってあります。
でも、「やりましょう」と
手をあげてくれるところが出て、救われました。
ぼくらの仕事は、あとで語ると、
最初からうまくマネージメントしているように
見えちゃうんですが、
はじめから完璧な計画があるというよりは、
やっていく中で困った事態が起きてしまって、
なんとかしようととにかく動いていたら、
いい決着点が見つかって救われた、
そんなことが多いですね。
糸井 でも、その、
「動きながら考える」やりかただからこそ、
できてきたことも多いんでしょうね。
山崎 そうですね。そうだと思います。
(つづきます。)
2013-01-14-MON