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イナカモン外伝、逆襲のサガ。
都会の正体とはなんだろう?

<医学は偉大だった!>

さて、狭いベッドで仰向けになり、
血圧など測りつつ、まずは点滴の注射。
「この辺にやりますね」
と、右腕の手首と肘のちょうど真ん中の
柔らかい部分をさすられる。
術後もつけっぱなしになるから、
関節の曲げ伸ばしをしない部分に刺すんだそうです。
しかも、一度針を刺し、針を抜くと皮膚に刺さって残るのは
柔らかくて細いチューブだけ。
もし何かの弾みで動いても、針がぐりぐりっとなって
『痛ぇ!』なんつー悲惨な状況も無いわけです。
「はい、ちくっとしますよ〜」
ぢくぅ・・。
ふむ、ちょっと痛いだけ。全然平気。
「我慢できましたねー。実は手術の中で、
これが一番痛いんですよ」
「ホントですか?」
「ホントホント。腰の麻酔はね、
 これよりも細くて短い針だから。
 で、腰の方が腕より感覚鈍いじゃない?」
言われてみれば、確かにそうかも。

さて、しばらくぼへーっとしていると、
隣の手術室から麻酔科の先生が登場。
あ、お若い男性だわ、なんてうつつをぬかす暇もなく、
「はい、丸くなってください」
と看護婦さんに、背中側の術着をずるっと剥がされて、
押さえ込まれる。
ベッドの上で横向きになって体育座り。
ダンゴムシごろごろ状態。
それを動かないようにと、
ぎゅうっと看護婦さんが上から横から押さえ込み。
むにっと押さえ込まれて、看護婦さんの胸とか腹とかが、
直接肩とかに当たりまくるわけですが、

男性でなくとも正直、
ごっつい気持ちが良かった。

ほとんど裸状態で、丸くなって、
人の体温に触れるわけでしょ。
これって胎児レベルの快感なのかなぁ、ってぐらい、
変な安心感に襲われました。
で、妙にホッと息をついたところへ、ぷしゅっと針が。
でも、全然痛くない。
ホントにちくりっ、程度。
「液がはいりまーす」
入ってるらしいのだが、それもよく分からず。
針が抜かれた途端、看護婦さん達に
足をむんずと鷲掴みにされて、
「はい、うつ伏せになりますよっ。
 手をバンザイにしてください!」
と、速攻ではりつけの刑に。
腰から下がすぐに『もやもや〜ん』としてきて、
もう自分ではぴくりとも動かせません。
正座して、足が痺れたのの強力版って感じ。
下半身、あったか〜い。

そんなこんなしてるところへ、奥田先生が颯爽と登場。

「サガコさん、学会用に術前、術後の患部のお写真、
 協力していただけますか?」

はいはい、いいですよー。

「あ、名前とかプライバシーは守られますからね」

まぁ、そのぅ・・・
学会で守っていただくプライバシーすら、
こうして自らぶち壊しちまってるわけですけど、
それでもよろしいですならば、
どうぞどうぞ、撮ってくださいまし。
私のお尻が少しでも
「痔の治療の発展」に貢献できるのなら、
他の誰かの幸せのお手伝いになるのなら、
これほど幸せなことはないでしょう。
今から取られて、死滅してしまう
「痔」の患部の細胞さん達も、浮かばれましょうて。。。

「ところで先生、そのカメラで私の写真は撮れませんか?」
「どうだろう〜。接写用だからなぁー。
 一応、シャッター切ってみようか?」
「フィルムの無駄でなければ、お願いしますー」
というわけで、はりつけのワタクシも痔のフィルムで、
はいチーズ。
上手く写ってたら、焼き増ししてくださるそうです。
(どんな焼き増しなんだ・・・)

さて、手術自体は二十分程度。
先生との軽快なトークを楽しみながら、
時間は楽しく過ぎていきます。

「痔の研究って言うのはね、
 他のいろんな病気に比べて後れてるんですよ」

ほうほう。これは豆知識だぞ。

「痔になるのは2足歩行をする人間だけなんです。
 二本足で立ち上がってしまったばっかりに、
 お尻に負担がかかるようになって、
 こんな病気が生まれちゃったわけです。
 他のどんな動物も、痔になるってことは、
 まずないわけですよ。
 だから、ほとんど実験とかが出来ないんですね」

なるほどぉ・・・
簡単な病気だと思ってただけに、意外ですなぁ。

「昔ね、犬に痔を作らせる、
 という研究をやった人がいましてね」

はぁ?医学の進歩の為とはいえ、無茶な研究ですねえ。
それってどうするんですか?

「犬の上半身をひもで引っ張り上げて、
 無理矢理2足歩行の状態にしたら、
 いつか痔になるんじゃないかっていう・・・」

だいぶ発想が安直ですけども(笑)、
結果どうなったんですか?

「痔より先に、犬、胃潰瘍になりました。
 2足歩行状態のストレスが
 溜まり過ぎちゃったんでしょう。
 痔犬にならずに、
 胃潰瘍犬になっちゃったっていう、
 哀しいオチです」
「(笑)。あ、笑うとお尻が動きますね、すいまっせん」
麻酔してても、笑えば筋肉は動くのでありました。
不思議ー。

話はそれますが、
医学の進歩の影には、
たくさんの実験や動物たちの命があるわけです。
痔の治療の進歩は、
どうやら人間だけに依るもののようではありますが
どちらにしても「病気や怪我の手術ができる」
っていうのは、
本当はそれだけでありがたいことなんだろうなぁ、
なんて思いました。
だって「手術できる」んだし、
「手術すれば、治る」んですから。
そこまでには、多分、
ものすごくいろんな「積み重ね」があるんでしょう。
その上に、自分の「治療できる」という現実がある。
本当に、ありがたいことであります。

さて、そんなこんなで浜崎あゆみの曲が
「倉木麻衣」に変わった頃、
無事に手術も終了。
ストレッチャー(車の着いたベッド)に乗せられて、
病室まで帰ります。
寝たまんまで右に左にごろごろ転がされながら、
二大のストレッチャーを乗り継いで、病室へ。
寝かされて天井を仰いだまま移動し、
なおかつ点滴の袋が揺れる光景は
「病気なんだなぁ」という気持ちをかなり煽りました。

さて、根城であるベッドへ戻った後は、
2時間仰向けで絶対安静。
麻酔が引けていくのを待ちます。
同時に、何ともなかったお尻の部分が
「じ〜ん、じ〜ん」と
痛み始めました。
うう、さすがの医療もここまでか・・・。

完全に麻酔が切れて、
下半身が動くようになったら寝たままで軽い食事。
ビスケット、ゆで卵、オレンジジュースが
こんなにうまいのか〜、とやや感動。
そして、鎮静剤やら抗生物質、
加えて後日の「お通じ」のために
整腸剤やら緩下剤を
(かんげざい、って読むんだって。知らなかった)
まとめて5種類、飲み下して、再び横になって寝る。
さすがに痛みが増してきて、じんじんするお尻周り。
なんていうんでしょう。
「遠火の強火」って感じの痛みでした。
なんとなく理解いただけるかな?

術後5時間で、トイレへの歩行が許されます。
「したかったら、排便もどうぞ」
と看護婦さんはにっこり。
む、無理です・・・。
おならプーってすんのも怖いのに、
お通じなんかできるわけないっしょーぉ。

やがて点滴も取れて、
こっそり原稿用のメモを寝たまま書きつつ、
とりあえず安静に。
夕食はお粥食べて、薬飲んで、また横になる。
鎮静剤の効果が無くなると痛むんだけど、
薬さえ飲めばほとんど痛くない。
現代医学の発展に感謝しつつ、就寝。
長くて短い一日でありました。
とりあえずはやくシャワー浴びて、頭洗いたいよー。

<2日目、以上>

2001-04-30-MON
TANUKI
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