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水野さんが、タマネギ炒めを、科学的に、
「時間じゃない」って言ったときに、
もう目からぼろーんと
でっかい鱗が音立てて落ちたんです。
ぼく、だって、3時間とかしてたもん。
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あれもね、ぼくは、さっきの話のように、
自分で言っておいて、
何かこう、複雑な気持ちになっているんです。
要はタマネギ1個分だったら、
フライパンで最初から強火で炒めるんですよ。
で、焦げそうになったら水足していく。
そうすれば10分で飴色になるんですよ。
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うん。
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タマネギ1個を2時間かけて
弱火で丁寧に飴色にするのと比べて、
糖度も測って、変わんないってことは
もう証明したんだけれど、
だけども2時間、
弱火で飴色にしたからこそできる
おいしさがあるんですよ。
それは糖度の問題じゃなくて
「ぼくはこれを2時間やった」
っていうことなんです。
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そうですね。
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それが作り出すおいしさは
水野の理論を通すとなくなっちゃうんです。
それはちょっと寂しい。
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それはね、すごい大事でね。
お経を何回唱えたみたいな話で。
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そうそうそう、ほんとそうなんですよね。
だからお経なんかそんな何回も唱えても、
意味ないじゃないかとは言えない。
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違うんですよね。
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じつは私もタマネギ炒めの時間、
短縮するんですよ。
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ハチミツ入れるって書いてましたもんね。
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そうなんです。すぐ飴色になるんです。
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飯島さんはね、科学者と対談するとかね、
結構やっちゃうんでね、
信仰の解体をやってるんですよ、実は。
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あ、そういえば伏木亨さんとも
本を出されてるんですね。
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── |
「うまみ」を研究なさっている、
京大の栄養化学の教授ですね。
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ぼくね、伏木さん、尊敬してるんですよ。
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ああいうのがお好きなんですよね。
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ああいうのが好きなんです。
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で、あれに怒る人は怒る。
でも両方ある。
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そう、両方あるんですよ。
伏木さんで語り尽くせないおいしさが、
別のところにあるんです。
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ぼくは、カレー以上に
一所懸命にやってるのがジャムでさ。
最近煮る前に果物を干しているんだよ。
こーれがね、明らかにうまいんで困っちゃうの。
じゃあ天日で干すのと
オーブンで干すのとはどう違うんだろうとか。
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たぶんいろんなものが、
効率化に向かってるから、
結局ゴールが一緒だったら、
その間は短縮できた方がいいでしょ、
っていう考え方に則ると、
タマネギは強火で10分、
果物はオーブンで干すほうが、
ってぼくは言っちゃうんだけれども、
でもその、何か、こう‥‥。
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今っぽ過ぎるね。
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そう、そうなんですよ。
もうね、ほんと今どき過ぎるんですよ、
こういうことを言うのは。
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だからさ、これからは、
この3人はもともと自分の中にあった
今っぽくないところを生かしてさ。
つまり過去っぽくじゃなくて未来っぽくしようよ。
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あー、それが未来っぽいっていうことに
これからなってくるんですね。
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うん、「ばらつき」があるんだ。
「ばらつき」が未来っぽいんだよ、たぶん。
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うんうん、そうですね。
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そこで、今っぽさもできる、
ってことが大事ですけどね。
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あ、そうだね。
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今っぽさ、できるけど、
今っぽくはしないよっていう。
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で、今日はするよとかね。
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そうそう(笑)。
ああ、いい、モテそうだなあ、それー。
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ぼくがコピーライターやめたって言ったけど、
たまに頼まれると、ちょっと嬉しい。
それは商売じゃない頼まれ方だからなんです。
商品をよくする方がコピーをよくするよりも
世のため人のためだとぼくは思ってる、
だけど伝え方間違ったら、
やっぱりつまんなくなっちゃうんで、
そうすると、ただの仕事ってちょうどいいよ。
そういうことをやってるときは楽しいんです。
‥‥そろそろ時間かな。
最後にお訊きしたいんだけれど、
最近、水野さんがカレーにおいて、
工夫したこと、何かありますか?
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ほんとに偶然糸井さんから出てきたから
ビックリしたんですけど、
タマネギの刻んだの、最後に入れるんです。
ぼくの中では最初にタマネギを炒める量が、
わりと厳密に決まってるんですよ。
ところが欲しいタマネギの量に
ぴったりのサイズのタマネギは
なかなか売ってないから、そうすると、
みじん切りするときに
ちょっと余るじゃないですか。
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余る、余る。
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それをね、最後に入れるんです。
そうすると香りが最後に、つく。
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ちょっと関係ないかもしれないですけど、
八王子ラーメンて、
タマネギの生のみじん切りが上にのってるんです。
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それ、スパイスですよね。
それ、いい、うまそう。
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そうだ。
タマネギって強いスパイスなんですよね。
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そう、でもそう考えたら、
うちの親父はぼくがちっちゃい頃から、
納豆の薬味は生のタマネギでしたね。
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あ、わたしも入れます。
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あ、入れますか?
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はい。
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へぇー!
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あれ、うまいんですよ。
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ワケギがないときはタマネギ。
で、また納豆に味噌で味をつけると
タマネギがまた合うんですよ。
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発展が尽きないですね。
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ぼくはね、タマネギを後で入れるヒントはね、
カツ丼。
カツ丼って、プロは揚げたてのカツを
ものすごく短時間にカツ丼にするでしょ。
で、半熟の卵があるでしょ。
あれの横にともすれば生っぽい
タマネギがあるでしょ。
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ああ。
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あれ、やだなって、食べる前に思うんです。
でも、食べ始めるとよかったなと思う。
あれがヒントなんですよ。
すき焼き丼なんかも、
ちょっと生っぽいタマネギがあっても嬉しい。
それがカレーのヒントだったんです。
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ああ、なるほど。
いろんなところにあるな、
ヒントが、まだまだ!
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それも「ばらつき」ですよね。
トンカツの下でよく煮えてるのは
甘くなっちゃってるかもしれないし、
端っこのちょっと飛び出したところは
辛いままかもしれないし。
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そうなんです、ばらつき、ばらつき。
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飯島さんも「ばらつき」を大事にしますよね。
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お好み焼きも、焼きそばもね。
ここは固いけど、ここは柔らかいとか。
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ああ、そうですね。
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「ばらつき」は、未来です。
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「ばらつき」を専門的に追求する人が出てきたら、
君のこの料理はこことここをやって
もうちょっとばらつかせてみようかっつって(笑)。
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やり過ぎちゃだめですね(笑)。
それ、「ばらつき」がなぜ感動するかっていうと
リスクを背負ってるからです。
つまり、その「ばらつき」を作るためには
失敗の可能性があるんですよ、やっぱり。
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失敗と思われる可能性もありますよね。
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そうそうそう、
そこをごっくんと飲み込んでるから
すっごく奥が深いんです。
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なるほど。
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面白いよね。
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とっても面白いです。
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── |
話が尽きませんが、このあたりで
お開きといたしましょう。
新春にふさわしい内容になりました。
どうも、ありがとうございました。
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ありがとうございました。
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ありがとうございました!
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ありがとうございました。
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