水野
実は今日は事前に会場のみなさんから、
森内さんへの質問をいただいているんです。
せっかくなので、いまカレーを食べているあいだだけ、
森内さんに簡単にお答えいただければと
思うんですが。
森内
はい、わかりました。
水野
では、最初の質問です。
『加藤一二三さんが対局中にお菓子を
召し上がるのは有名ですが、
対局中に相手の方が何かを食べはじめたら、
森内さんも食べたくなったりしますか?』
森内
あ、おいしそうだったら食べたくなります。
会場
(笑)
森内
おやつも宿で出るおやつと持参するおやつがあって、
たぶんこのかたの質問は
持参するおやつのことだと思うんですけど、
そっちは自分で持っていかないと
食べられないんです。
水野
じゃあつまり、相手の方が食べるときに
「あれ何だろう?」みたいなことになるわけですね。
森内
はい、ちょっと気になりますね。
水野
つづいて『好きな将棋の駒は何ですか』。
森内
飛車ですかね。
水野
なるほど。飛車。
そういえば聞いたことがあります。
どんどん行きましょう。
『致命的に頭が悪く、詰ませることができません。
克服方法はありますか?』
森内
将棋の終盤ってけっこうパターン化されていて、
詰めの形というのがあるんです。
それを知っていると、
うまく応用できるかなと思うんですけど。
水野
じゃ、そういう形をたくさん覚えると
いいという感じですかね。
森内
そうですね。「一手詰め」という
終局の基本の形がありますから、
それを知るとずいぶん変わってくると思います。
水野
それではつづいての質問です。
『フリークラス(※)に行くことを
選んだときの心境は?』
これは将棋ファンなら聞きたいでしょう。
森内さんのフリークラス転出のニュースは
けっこう衝撃でした。
(※プロの棋戦のなかでも、もっとも歴史のある
「順位戦」に参加しないクラスのこと。
順位戦Aクラスの優勝者が名人に挑戦でき、
七番勝負で4回勝ったほうが次の名人となる。
森内九段は2017年3月にフリークラス宣言をおこない、
名人復帰の可能性がなくなった)
森内
順位戦は数年前から成績が下降気味で、
内容的にもちょっと悪いものが多かったので、
すこし前から考えてはいたんです。
それで昨年度は順位戦で2勝しかできなかったので
タイミングかなと思って決めました。
水野
そのことと、森内さんが将棋連盟の理事選(※)に
出られたことは関連しているんですか。
(※森内九段は2017年4月に
日本将棋連盟の理事選に立候補を表明。
また、このトークイベント後の5月末、
7人の理事のひとりとして正式に選出された)
森内
理事選挙に出ることを決めたのは、
本当にここ最近ですね。
将棋界も去年からずいぶん状況が変わったので、
そのあたりも受けて
立候補をさせていただくことに致しました。
水野
なるほど、ありがとうございます。
つづいて‥‥
『将棋の世界にカレー仲間はいますか?』
森内
あ、わたしにですか(笑)。
さっき、去年の陣屋での対局の中継を見ていたら、
羽生王位と木村八段の対局で
ふたりともカレーを頼んでいましたので、
棋士にカレー好きは多いんじゃないかと思ってますけど。
でも、一緒に行ったりはしないですね。
水野
まあ、そうですよね。
どこかのお店で羽生さんと木村さんと森内さんが
一緒にカレーを食べてたら、
けっこうビックリしますよね(笑)。
森内
水野さんはあるんですか?
みんなでカレーを食べに行こうとか。
水野
ありますね。
ただ、ぼくの場合はいろんな人が
「水野との食事ならカレー屋に行きたい」
となることが多いんです。
なんだかそういう気持ちにさせるんでしょうね。
森内
水野さん、毎日カレーを召し上がるんですか?
水野
ほぼ毎日カレーですね。
森内
すごいですね。その中で目新しいカレーと
出合うこともありますか?
水野
あります、あります。
森内
そうですか。もうカレーのお店は
ぜんぶご存知なのかなと思ってました。
水野
昔はそうでしたけど、いまのぼくは
すべての店については知らないんです。
前は新しい店の話を聞くと
3日以内に行かないと気が済まなくて、
1日に4、5食でもふつうに行ってたんですが、
だんだん体力的にもできなくなってきて(笑)。
とはいえいまのぼくは別の能力が発達してきてて、
ネットで調べると、だいたい味がわかるんですよ。
森内
え、カレーの写真を見てですか。
水野
カレーの写真を見て、
あと、ラインナップやメニューの説明を読むと、
「たぶんこんな感じかな」と
味が予測できるようになってきたんです。
なんだかその精度もだんだん上がってて、
実際に行くと、わりとその通りだったりして。
森内
それ、すごいですね。
水野
棋士の方って、経験を積むうちに「大局観」がついて
不必要な手を省けるようになるという話が
あるじゃないですか。
ぼくのこの感覚、もしかしたらこれ、
「自分はちょっとだけカレーの世界での
大局観がついてきたのか?」
とか思うんですけど(笑)。
森内
なるほど(笑)。わたしは将棋の場合ですけど、
大局観がついてくる感じはわかります。
そして経験を積むと、
その精度が上がってくるのはありますね。
(つづきます)
2017-08-03-THU
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN