── |
おふたりは、からだととても上手に
つきあっておられるようなのですが、
それが詩人のコツかと‥‥? |
谷川 |
そんなことないよ(笑)。 |
覚 |
からだとのつきあいは、
生まれる瞬間からはじまっていますね。
俊太郎さんは、
帝王切開で生まれていらっしゃる。 |
谷川 |
そうなんです。
それが、ずっと負い目になってます。 |
覚 |
負い目とは、お母さんの体を
傷つけてしまったということについてですか? |
谷川 |
いや、帝王切開になったのは
母の勝手ですからね。 |
── |
勝手? |
覚 |
俊太郎さんのお母さまは、
帝王切開を「選ばれた」。 |
谷川 |
少なくとも母の言を信じれば、
「自分は、健康体であったんだけれども、
出産のときの女性の体位が、
私は恥ずかしくて耐えられない、
屈辱的である、
だから、帝王切開で生んだ」
と言うんだけど。 |
── |
す、すごい話をありがとうございます。 |
谷川 |
ただ、小柄な人だったから、
帝王切開のほうが安全だってことが
あったんじゃないかな、と
僕は思うんです。 |
覚 |
でもなんだか、
昔のインテリ女性の発言っぽい
かんじがしますね。 |
谷川 |
うん、すごくそうだよ。
当時はまだ
帝王切開はめずらしかったと思うんです。 |
覚 |
しかも、自分で選んだんだとしたら。 |
谷川 |
そうだよねぇ。
ところで、産道を通るときって、
胎児はけっこう苦労するんでしょう? |
── |
頭の骨を組み合わせて
小さくして出やすくしたり。 |
谷川 |
それに、旋回しながら
出てくるんでしょう?
僕はそれをしないで、
「桃太郎生まれ」しちゃった(笑)。
パカッとこの世に出現した。 |
覚 |
目に浮かぶんですよね、俊太郎さんが
生まれたとたん、
母体の横でしてるガッツポーズ! |
谷川 |
ですから、僕には
「苦労せずにこの世に生まれてきてしまって
よかったのか?」
という負い目があるんですよ。 |
覚 |
そもそもそれが、
苦労がない人生のはじまりだったと(笑)。
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谷川 |
そうそう、
恵まれすぎていたのではないか。 |
覚 |
産道を通るときに、胎児は、
ああいう苦労をすることによって
ひとつのカルマを、
解消してくるんだと思いますよ。 |
谷川 |
なるほど、そうかもしれないね。
僕は解消してこなかったんだな。
からだの記憶について、
どのへんのことまで憶えてる?
覚さんも僕もひとりっ子だけど、
親のおっぱいを吸ったことは、
憶えてないでしょ? |
覚 |
それはさすがにないです。
でも私、生まれたときに
まわりに女の人がたくさんいたんで、
それぞれのおっぱいの感触を
触り比べていた記憶はあるんですよ。 |
── |
たくさん? |
覚 |
たくさんといっても
母と伯母とおばあちゃんの3人なんですけどね。 |
谷川 |
それはなんだか
メニューを見てるようなかんじだろうね。 |
覚 |
そう、メニューですね。
いちばんしっくりくるのは
やっぱり母のおっぱいなんですけど、
でも、おばあちゃんのおっぱいも、
伯母ちゃんのおっぱいも、
それなりに、味わいが違うというか。 |
谷川 |
ハハハハ。 |
覚 |
おっぱい、
好きだったんですよ。 |
谷川 |
僕も、おっぱい好きでしたね。
ひとりっ子って、そうなのかなぁ? |
覚 |
うん、それはあると思います。 「今は?」と訊くのは
やめときますね。 |
谷川 |
もしかすると
ちょっと異常かもしれないけど、
中学生ぐらいになっても
触ってたような気が。 |
覚 |
私もですよ。
ひとりっ子って、そうなんですよ。 |
谷川 |
そうなんだ! |
── |
あぶないな。 |
覚 |
あぶないですね。 |
谷川 |
あぶないな。あぶないかんじだね(笑)。
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