だからからだ
だからからだ
谷川俊太郎と覚和歌子、詩とからだのお話。


第3回
からだの記憶のはじまりは。

── おふたりは、からだととても上手に
つきあっておられるようなのですが、
それが詩人のコツかと‥‥?
谷川 そんなことないよ(笑)。
からだとのつきあいは、
生まれる瞬間からはじまっていますね。
俊太郎さんは、
帝王切開で生まれていらっしゃる。
谷川 そうなんです。
それが、ずっと負い目になってます。
負い目とは、お母さんの体を
傷つけてしまったということについてですか?
谷川 いや、帝王切開になったのは
母の勝手ですからね。
── 勝手?
俊太郎さんのお母さまは、
帝王切開を「選ばれた」。
谷川 少なくとも母の言を信じれば、
「自分は、健康体であったんだけれども、
 出産のときの女性の体位が、
 私は恥ずかしくて耐えられない、
 屈辱的である、
 だから、帝王切開で生んだ」
と言うんだけど。
── す、すごい話をありがとうございます。
谷川 ただ、小柄な人だったから、
帝王切開のほうが安全だってことが
あったんじゃないかな、と
僕は思うんです。
でもなんだか、
昔のインテリ女性の発言っぽい
かんじがしますね。
谷川 うん、すごくそうだよ。
当時はまだ
帝王切開はめずらしかったと思うんです。
しかも、自分で選んだんだとしたら。
谷川 そうだよねぇ。
ところで、産道を通るときって、
胎児はけっこう苦労するんでしょう?
── 頭の骨を組み合わせて
小さくして出やすくしたり。
谷川 それに、旋回しながら
出てくるんでしょう?
僕はそれをしないで、
「桃太郎生まれ」しちゃった(笑)。
パカッとこの世に出現した。
目に浮かぶんですよね、俊太郎さんが
生まれたとたん、
母体の横でしてるガッツポーズ!
谷川 ですから、僕には
「苦労せずにこの世に生まれてきてしまって
 よかったのか?」
という負い目があるんですよ。
そもそもそれが、
苦労がない人生のはじまりだったと(笑)。

谷川 そうそう、
恵まれすぎていたのではないか。
産道を通るときに、胎児は、
ああいう苦労をすることによって
ひとつのカルマを、
解消してくるんだと思いますよ。
谷川 なるほど、そうかもしれないね。
僕は解消してこなかったんだな。
からだの記憶について、
どのへんのことまで憶えてる?
覚さんも僕もひとりっ子だけど、
親のおっぱいを吸ったことは、
憶えてないでしょ?
それはさすがにないです。
でも私、生まれたときに
まわりに女の人がたくさんいたんで、
それぞれのおっぱいの感触を
触り比べていた記憶はあるんですよ。
── たくさん?
たくさんといっても
母と伯母とおばあちゃんの3人なんですけどね。
谷川 それはなんだか
メニューを見てるようなかんじだろうね。
そう、メニューですね。
いちばんしっくりくるのは
やっぱり母のおっぱいなんですけど、
でも、おばあちゃんのおっぱいも、
伯母ちゃんのおっぱいも、
それなりに、味わいが違うというか。
谷川 ハハハハ。
おっぱい、
好きだったんですよ。
谷川 僕も、おっぱい好きでしたね。
ひとりっ子って、そうなのかなぁ?
うん、それはあると思います。
「今は?」と訊くのは
やめときますね。
谷川 もしかすると
ちょっと異常かもしれないけど、
中学生ぐらいになっても
触ってたような気が。
私もですよ。
ひとりっ子って、そうなんですよ。
谷川 そうなんだ!
── あぶないな。
あぶないですね。
谷川 あぶないな。あぶないかんじだね(笑)。

(つづきます!)

「青空1号」



詩作朗読家でありシンガーソングライターでもある
覚和歌子さんが昨年リリースしたソロCD。
覚さんが作詞した
映画「千と千尋の神隠し」の主題歌、
「いつも何度でも」も収録されています。
空や風や海をとおって届くような覚さんの声に
からだの扉が開かれる気分が味わえるアルバムです。

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2005-02-14-MON

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