谷川 |
男の子でいえば、初潮は精通ですよね。
それがあってから、
僕はおねしょも止まったし、
からだも丈夫になった。ほんとに不思議だった。
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覚 |
扁桃腺をとったり盲腸をとると健康になるとか、
そういうのはよく聞くけど、
女の子が初潮によって調子がよくなるとは
あんまり聞いたことははないよね? |
── |
うーん、ないですね。
ところで、盲腸をとると健康になるんですか? |
覚 |
体質が変わるって、よく言うけど。
私は、大学4年生のときに
盲腸をとってるんですが、
なーんにも変わりませんでした。 20代の
からだの意識の
しかたは表面的なんです。 |
谷川 |
たしかに20代なんて、ほとんどからだを
意識してなかった。
生理的なことをとおして、
ある程度意識はするんだけど、
それはほんとうに表面的だよね。
今のからだの意識とは違う。 |
覚 |
うん、ぜんぜん違いますね。 |
谷川 |
20代のころは、
「からだを理解しよう」とか、
「からだとはどういうものか」
ということは、あんまり考えないでしょ。 |
覚 |
「からだを味わおう」
というのも、考えつかない。 |
谷川 |
そうだね。 |
覚 |
「からだに起こっている感覚を味わおう」とか、
「こういう感覚が起こっているのは、
なぜなんだ?」
という発想は、
20代にはぜんぜんないですよ。
お肌が荒れたからクリームつけなくちゃ、
という程度です。 |
谷川 |
うんうんうん。 |
── |
今は、味わおうとしているわけですか。 |
覚 |
うん。いいことも、トラブルも。 |
谷川 |
男はとくに、20代なんて、
すごく頭でっかちに
なってるでしょ?
だから、哲学の本を読んだりとか、
もっぱら頭のほうに関心がいっていて、
「からだなんかどうでもいい」
みたいなことになってるわけ。
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── |
たしかに。 |
谷川 |
僕は、からだのことを意識するまでに
ずいぶん時間がかかりました。
きっと病気なんかをすれば、
からだを意識するようになるけど、
僕はわりと健康だったからね。
もしくは、スポーツをやってると、
「こういう練習のしかたなら
からだがこう変わる」
というような意識があるだろうけども、
スポーツ好きでもなかったから、
からだのことを考える機会が
なかなか、なかったんです。
ほんとに頭でっかちに暮らしてたし、
加えて、僕が育った家庭が
からだというものについて考えることを
タブー的にとらえていたから。 |
覚 |
からだのことを考えるのがタブー? |
谷川 |
そう。というのは、
たとえば川端康成や横光利一は
新感覚派などと言われていまして、
うちの父は、そういう感覚派の文学を、
ちょっと低いとこに
見てたような気がするんです。
白樺派とか、そういうのが偉くてね。
漠然とそういう雰囲気があったし、
からだのことを
家族で話題にすることもなかったから、
だんだん無関心になってったのかなと思う。 |
覚 |
でも、お母さまとの密着は
相変わらずあった?
ちょっと咳をしただけで、
「薬を飲みなさい」とか
「あったかくしなさい」とか。
そこに、過保護的な感触はありました? |
谷川 |
過保護的なものは、ある程度あったけど、
ふつうのひとりっ子よりは少なかったと思う。
うちの母は、甘やかすまい、過保護にすまいと、
すごく気をつけてたから。 |
覚 |
でも、そのわりには、
中学までおっぱい触って‥‥。 |
谷川 |
おっぱいを触らせるのは、
過保護とか、そんなもんじゃないような気がする。
もっと、なんか、 性的なもんが入ってる気がする。 |
覚 |
性的なもの?!!! |
谷川 |
うん。父に不満があったわけですよ、うちの母は。
父は、浮気したりして、
母はそのことを知っていた。
だから、そういうものの補償としての
長男つまり僕、という存在が、
あったような気がする。
全面的じゃないけど、ある程度の補償。 |
── |
もう胸を触るのはやめなさい、というふうには、
おっしゃらなかったんですか? |
谷川 |
うん。 |
覚 |
されるがまま? |
谷川 |
されるのをよろこんでいたのではないかしら。 |
覚 |
うちの母が
よろこんでいたかどうかは別として(笑)、
私も中学になるまで
おっぱいを触っていたけど、
「もうやめなさい」と言われなかったのは、
私も同じです。 |
谷川 |
きっと、親子のあいだの
ジョークみたいになってたんですよ。 |
覚 |
そういうかんじもありますね。
今でも、おっぱいは触らなくても、
母はほっぺたを寄せてきますよね。
俊太郎さんは、
息子の賢作さんに、ほおずりはしませんよね? |
谷川 |
もう、今は、できませんね。 |
覚 |
でも、俊太郎さんのお父さまは、
ほおずり好きだったとか。 俊太郎さんが
50歳になっても
ほおずりされてたと聞きましたが。 |
谷川 |
そうそう。 |
── |
50の男の親子がほおずりするって、
すごいですね。 |
谷川 |
だってほら、ハグとおんなじですよ。
今、みんなハグするじゃん。 |
覚 |
ぜんぜん違いますよ。
うまくイメージできないんですよ。
あの谷川徹三さんと、
50歳の俊太郎さんの。 |
谷川 |
あ、そう(笑)。 |
覚 |
ヒゲがジョリジョリ。 |
谷川 |
そうね。そうだった。
それがいちばん、印象に残ってる。
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