だからからだ
だからからだ
谷川俊太郎と覚和歌子、詩とからだのお話。

第7回
ちゃんとからだとつきあいはじめる。

── おふたりが、
からだと頭のバランスがとれてきたのは、
何歳ぐらいのときですか?
私は、30歳くらいで、失恋したんですよ。
ちょうどそのとき、
会社をやめて仕事もなくなって。
なんだか、よすがのない状態が続いたんです。
それで、ふと自分をかえりみたら、
「机の上でしか仕事してなかったな」
ということに気がついたのね。
ほんとに
頭のなかでしか
言葉を繰り出して
なかったなぁ
って気がついて。

時期を同じくして、
「詩の朗読をしてみないか?」
という依頼がきたんです。
それから偶然、
身体術をはじめたんです。
太極拳のような、ゆっくりした
からだのエクササイズだったんですけれども。

言葉が自分のからだを通って
声になって出てくるということと、
からだを動かしはじめて、
「からだを感じてみよう」と
意識するようになったあの時期から、
それまでとぜんぜん違った
からだとのつきあい方がはじまったんです。
言葉を選ぶときにも、
からだの感覚を
参照する、

何度もフィードバックするというクセが
自然に身についたんです。



── 谷川さんが、
からだとのバランスがとれたのは、
いつぐらいでしょう?
谷川 うーんと、
60代に入って‥‥
ほんと、ここ8、9年だよ。
でも、俊太郎さんが朗読をはじめられた、
つまりからだを使いはじめたのは
39歳でしたよね。
谷川 35か6、そのへんですね。
最初の大きな朗読会が
アメリカのワシントンの国会図書館だったんです。
その前に、アメリカにしばらくいたとき、
いろんな詩人の朗読を聴く機会があって、
朗読がすごく大切だと思うようになったんです。
それからは、積極的に朗読を
するようになりました。
けれども、そのころは、
声に出すということを
自分のからだの問題として、考えてませんでした。
もっぱら詩の問題として
とらえていましたね。

現代詩はすごい頭でっかちで、
黙読一辺倒だから、
それだけじゃ、やっぱりどうもおかしいんです。
詩の原点に戻ると
もともと詩は「声」だったんだから、
というようなことをずっと考えていて。
はじめから平仮名だけで、
声に出してもらうことを前提にした
詩を書いたりしてたけど、
からだと、そのことが結びついてきたのは、
ほんとにここ8、9年ですね。
── からだとつきあうことになったきっかけは?
谷川 うちの息子が、DiVaという
音楽ユニットをつくって、それに僕は誘われて、
舞台に立って詩を読むようになったんです。
ツアーもけっこう増えてきた。
ところが、メンバーがみんな、30代でしょう?
自分がぶっ倒れたりなんかすると、
穴開けたりして迷惑かけるだろう、
という意識があってね。そのときから
自分のからだをちゃんとコントロールしなきゃ、
と思うようになりました。
友だちに誘われて、覚さんと同じように、
身体術に通うようになったんです。

はじめは嫌々通っているような
かんじだったんだけど、
やってると気持ちよくなってくるし、
腰痛なんかも、なくなってくんですよ。
そういういことで、
身体術のいろんな流派を、知ったわけです。
── 渡り歩かれた、と。
谷川 「やや」渡り歩いた(笑)。
自分が年をとったということもあってか、
身体術のおかげか、その両方かわかりませんが、
からだに対する意識が、
だんだん変わってきてる。
自分のからだが感じてることが、
わかるようになってきてるんですよ。
── 自分のからだが感じてることがわかる!
なんだか逆の発想みたいに聞こえてすごいです。
谷川 つまり、僕は、
からだを信用しはじめたんですよ。
風邪を引いても、薬を飲まずに治す自信が
ある程度はあったりね。
どこかが変なときには、からだに素直になって、
痛くないように、どうにか工夫しようとか。
── 工夫とは、具体的にどういうことですか?
谷川 寝ちゃうとか。
足湯したりね。
私も、もう何年もお医者さん行ってない。
健康保険料を払ってるのがもったいないの。
谷川 もちろん、年をとっていくんだから、
衰えていくわけでしょ?
それをどうにかちゃんと、
ある一定水準で押さえたいという気持ちは、
すごくあるんです。
── 糸井重里も、昨年の末に、
「風邪のウィルスは2日で出ていく」
ということを信用して、薬を飲まずに、
少しだけ仕事を減らして治すということに
チャレンジしていました。
からだに対する意識の高い人って、
頭だけで喋るより、数段おもしろいんです。
頭で考える種類の文章でも
からだを通して出た言葉がチラチラ出てくると、
その正直さがすごく魅力的で。
谷川 そうだよね。
あのさ、頭がほとんどなくて、
からだだけで喋ってる人は、
もっとおかしいよ。
そういう人、いますか。
谷川 今、僕が読んでる
『人は食べなくても生きられる』
という本のことなんだけどね。
表紙に「不食」と大きく書いてあるから
本屋さんですぐわかると思う。
この本の著者は、
脱サラした50代ぐらいの男なんだけど、
「オレはもう何年間も
 ものをほとんど食ってないんだけど、
 こんなにからだがきれいだ」
というようなことを言ってるんだ。
── 何年間も!
断食すると、感性がほんとに繊細になって
頭がスッキリするっていうの、
聞いたことない?
── そんなことが‥‥?
断食道場の3日目かなんかに、
風が吹いて、
どんぐりの実がパーッてアスファルトの上に
落ちたのを見た若い女の子が
「こんなきれいなものが世の中にあったなんて!」
って、泣き出しちゃったっていうの、
テレビで観た。
谷川 ハハハ。
── からだって、ほんとうに頭に影響するんですね。
それは、あたりまえなんですけど
軽視していたことが
だんだんわかってきました。


(つづきます!)

「青空1号」


sony music shopへ
詩作朗読家でありシンガーソングライターでもある
覚和歌子さんが昨年リリースしたソロCD。
覚さんが作詞した
映画「千と千尋の神隠し」の主題歌、
「いつも何度でも」も収録されています。
空や風や海をとおって届くような覚さんの声に
からだの扉が開かれる気分が味わえるアルバムです。

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2005-02-21-MON

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