だからからだ
だからからだ
谷川俊太郎と覚和歌子、詩とからだのお話。

第9回
他者のいのちとつながっている。


谷川 覚さんは、お茶好きでしょ?
好きですよ。
谷川 どういうお茶が好きですか?
「有機栽培の」(笑)。
谷川 僕も、有機や無農薬などについて
真剣に思うようになったのは、
からだを意識するようになってからですね。
それまでは、自分だけ死なないというのも
おかしいじゃないかって思ってた。
もし死ぬんなら、みんな一緒に死ぬんだから
農薬食ったっていいだろう
という考え方だったんです。
でもからだを大事にしだすと、
やっぱりちょっとでもいいほうがいいかな、
みたいなことになります。
自分のからだを
大事にしてるということは、
自分のからだ「だけ」を
大事にしてる感覚じゃなくなってくるんですよね。
俊太郎さんは、そういうことはないですか?
谷川 それはすごくある。
身近な人だけじゃなくて、
身近な人の向こうに、さらに見えない人たちとも
つながっていってる、と言えばいいのかなあ。
自分を大事にするってことは
「いのちの存在全部を
 大事にする」
みたいな感覚とつながると思うんです。
谷川 我々の世代は、自己愛とかナルシズムは
ダメと言われてきたから、自分に関して、
わりと無造作に扱ってたところがあるんです。
── というと?
谷川

ナルシズムというのは、ものを書くうえでも、
人を甘ったるくさせるし、よくないって
言われつづけてきたんですよ。
それから、頭でっかちな人間は、
「人間というのは精神が大事なんである」
などと言うんです。
ですから、肉体はむしろ
無造作に扱っていいんだ、
というような考え方を、
僕も若い頃はしていました。
だけど、からだに対して
少しずつ目覚めはじめると、
自分を大事にして、自分を愛してないと、
人に対しても優しくなれないし、
人も愛せないんだというふうに変わってくる。

── それは実感なさってるわけですよね。

谷川
うん。実感ですね。
自分のことも他人のことも
大事にできるという感覚は、
どちらが先なんでしょう?
自分かな、それとも他人?
谷川 僕はむしろ、他人を
大事にしていくことから
自分を大事にするようになった。
そうですよね。そうだと思うな。
谷川 僕はわりと若い頃から
読者が必要だと思っていましたし、
そうしないと食えないってことも
意識していました。
だからずっと自分のなかに
他者を自覚してきました。

言葉というのは
自分の私有物にはできなくて、
常に他者と
共有のもの
です。
その言葉を通じて
他者とすごく結びついてるということを
頭レベルで考えていました。

今はからだを通じても他者と結びついていて、
他者のことを大事にすれば
それがもう自分を大事にすることに
循環してつながってるというふうに
思えるようになったんです。
つまり、相手が自分だというような
一体感ですね。
でも、私ね、俊太郎さんが、
「自分のことを愛せないと
 他人にも優しくできない」
っておっしゃるのが
ちょっと引っ掛かることがあるんですよね。
谷川 たぶん、女の人のほうが
最初から一体感があるんじゃないかな?
男ってやっぱり「切り離す」ことで
生きてきてるところがあるんですよ。
いっぺん切り離したものを
元に戻そうという意識がすごく強いね。
既にひとつであるところに
何の抵抗もないのが女性なんですよ。
谷川 うんうん、そうだね。
一体感をリアルに日常の場面場面で
実感してるというのではなくて、
もっと意識下ですでに知っている、というような
感覚があるんです。
俊太郎さんは、
「まず自分」というようなことを
わりとよくおっしゃいますよね。
谷川 自分の中から理由もなく涌いてくる
一種の自発性みたいなものが
いちばんの元だというふうに
僕は思ってるんだよね。

その自発性というものは、
外からの働きかけなしで
涌いてくることもあるし、
外からの働きかけに応える形で
涌いてくることもあるわけです。
いろいろあるんだけれども、
やっぱり今の社会に生きてる以上は
自分というものがある程度自立していて、
そこから自然に涌いてくる、
というかんじがあるね。


(つづきます!)

「青空1号」


sony music shopへ
詩作朗読家でありシンガーソングライターでもある
覚和歌子さんが昨年リリースしたソロCD。
覚さんが作詞した
映画「千と千尋の神隠し」の主題歌、
「いつも何度でも」も収録されています。
空や風や海をとおって届くような覚さんの声に
からだの扉が開かれる気分が味わえるアルバムです。

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2005-02-23-WED

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