むだ話。ふたつ。
2008-09-22
ひとつめ。
じいさまは、言った。
「ほとんどの、人の考えというものには、
ある特徴がある。
ほとんどの、人の考えというものは、
考えているじぶんの、
生きている理由、
ますます生きていたほうがいい理由を、
もっと肯定するために生れてくる。
じぶんが生きていくために、
不都合な人や、
不都合な考えについては、
じぶんが生きるのに不都合になるから、
無くしてしまいたいということになる。
だいたいの人は、
そういう考え方をしているもんだ。」
それは、そう言っているじいさまの考えも、
そうだということかい。
「そうだな。
ほとんどが、そうだ。
あんたが、わしの考えにうなずいてくれたら、
わしは、ちょっとだけ、生きやすくなる。
そして、わしがいることは、
そう悪いことでもなかったかと、うれしくなる。」
でも、じぶんのためばかりじゃなく、
他人のためや、みんなのためになる考えだって、
あるはずだろう?
「他人のためになることや、
みんなのためになることが、
じぶんのためにもなるのでなかったら、
それは考えとして語られないだろうな。
ほんとうにいやなことは、したくないものだ。
ほんとうにいやなことは、
人間はしないようにできているからな。」
じぶんにとって、ほんとうにいやなことで、
みんなのためになること‥‥を、
人間はしないというのかい。
「しないだろうな。
じぶんの心臓をとりだして差し出しても、
おおぜいの人たちから辱めを受けても、
じぶんからそれをしたのだったら、
それは、ほんとうにいやなことじゃないよ。」
じいさまにとって、
ほんとうにいやなことって、どんなことだ。
「そんなことは、考えたことがないな。
だいたいの人は、そんなことは考えたことがない。」
ふたつめ。
くまに襲われたら、死んだふりをしろって言うだろう。
あれは、はんぶんだけ、ほんとなんだ。
ただ、くまだって、ばかじゃない。
死んだふりをしているのか、
ほんとうに死んでいるのかくらいは、
試すのがふつうだ。
あんたが死んだふりをしているとき、
くまはあんたの顔色をみる。
そこは心配しなくていい。
くまは、人間の顔色についてくわしくないからな。
でも、そのあとで、
死んだふりをしているあんたの鼻と口のあたりに、
しずかに手のひらを近づけるんだ。
この手のひらは、とてもくさい場合がある。
くさいからって、びっくりしちゃいけない。
いや、そもそも、においをかいじゃだめだ。
あんたは、死んでいるんだから、
息を止めてなきゃいけないんだよ。
これ、気をつけよう。
ここまで、なんとかしたら、
くまは、あんたのことを死んでいると思いこむ。
そして、あんたから離れるだろう。
でも。
ここで安心するのは早いってことだ。
くまは、念のために最後に確かめるんだ。
死んでいるはずのあんたに、
ちょっと離れたところからね、クイズを出すんだ。
‥‥それが、とてもかんたんなクイズなんだよ。
たとえば、こんなだ。
東京にあるタワーは、つぎのうちのどれでしょう。
1番、東京タワー
2番、エッフェル塔
3番、とうちょうタワー
あんたは、あっけにとられるだろう。
答えが、あまりにもかんたんなんだ。
答えたくて答えたくて、うずうずしてくる。
くまは、クイズをもう一度くりかえす。
東京にあるタワーは、つぎのうちのどれでしょう。
1番、東京タワー
2番、エッフェル塔
3番、とうちょうタワー
そして、こうつけくわえるんだ
わかりませんかぁ?
うまく死んだふりをしていたあんただった。
うっかりクイズに答えたりはしない。
だがしかし、
ついつい、こころのなかで思っちゃうんだ。
「東京タワーだろう、そりゃぁ」とね。
そのとき、死んでいるはずのあんたのからだが、
ちょっと生き生きしてしまうんだな。
それを、くまは見のがしゃぁしない。
にっこり笑いながら、もどってくるんだよ。
おしまい