女房はね、おもしろいんですよ
2008-12-15
いろいろな年上の方にお会いしてきたけれど、
ご夫婦のかたちで知りあった方というのは、
そんなにたくさんはいない。
夫婦というのは、おもしろい単位で、
ふたりを、ひとつのセットとして見ることもあるし、
いやいや、これはひとりずつ別々なのだ、と
思っておつきあいしていることもある。
年をとって仲のいいご夫婦というのは、
それだけで、なんだか気持ちがいい。
どう言えばいいんだろう。
男と女は、なのかな、
人間と人間は、なのかな、
けっこう仲よくやっていけるものなんだよと、
教わっているような気になれる。
もう、それだけでうれしいものだ。
そんなご夫婦といるとき、なんとなく、
「仲がよろしいんですね」ということばが、
口をついて出た。
ご主人のほうが、「ああ」と首肯くような表情をして、
こう返してくれた。
「女房はね、おもしろいんですよ」
そうかぁ、それはいいや、そうだったのか、そうかそうか。
ご主人のほうもハンサムだし、
奥さまのほうも、きれいで明るい方だ。
それはもう、見た通り、よくわかるのだけれど、
「おもしろい」のかぁ。
じぶんの家にいる女房という人を、
「おもしろいなぁ」というふうに見ているご主人の、
いつものこころの動きが、想像できるようだった。
その、きれいな奥さまは、
冗談を言うような感じではない、
笑わせようとしているのではない。
でも、そうか‥‥おもしろいんだな。
ご主人は、書画骨董の趣味をお持ちの人だ。
「おもしろい」ということばについても、
格別なふくらみを持たせて使っているのがわかる。
あ、いま辞書を読んだら、
「目の前がぱっと明るくなる感じ」が
元になっているらしい。
笑わせるようなおもしろさも、
おもしろいの一部分ではあるのだけれど、
もっとずいぶん大きくて広々したものだ。
「女房はね、おもしろいんですよ」。
そういえば、ぼくのところにいる女房も、おもしろいや。
女房とはちがうし、人間でもないけれど、
ずっと長い時間つきあっているうちの犬も、
おもしろい、のだった。
きれいだの、すぐれているだの、つよいだの、
おいしいだの、やさしいだの、かわいいだの、
好感を表すいろんな形容詞があって、
どれもとてもいいことなのだけれど、
「おもしろい」は、なんだかとても持ちがいい。
永遠に使いべりしないで、
意味が増えていくことばのような気がする。
「うちの旦那は、ハンサムなんです」よりも、
「うちの旦那は、とても強いんです」よりも、
「うちの旦那は、やさしいんです」よりも、
「うちの旦那は、かっこいいんです」よりも、
ぼくの場合は、
「うちの旦那は、おもしろいんです」なんて、
どこかで言われているのが、
いちばんうれしいかもしれない。