ITOI
ダーリンコラム

<黄金週間(直後)のむだ話 part2>

前回、「むだ話」というかたちで
この『ダーリンコラム』を書いたら、
書いていて楽しかったので、またやりたくなりました。
今回は、人格も変えてしまって、
自分の分身ではあるけれど、
「だれかさん」になり切って語ることにします。
なぜそういうことをするのか?
やりたくなったからに決まってるじゃありませんか。
あ、イッセー尾形さんがうらやましかったから、
かもしれません。

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正直言ってさ、おれって、
ブラッドピットに似てないよな?
いや、似てないよなと思ってさ。
いやんなっちゃうよ、まったくな。

「イスンヨプ」っているじゃない。
巨人の4番打ってる選手。いいよね、打つもんね。
李って字を「イ」って読むわけだよ。
んで、承が「スン」なんだよ、それはいいんだよ。
問題は最後の一文字よ。
火ヘンに華って書く漢字、な。
漢字ソフトに登録されてないんだよね、この漢字。
だから、ネット上の新聞社の記事なんかでも
■(火へんに華)なんて表記されてるよね。
「イスンヨプ」がものすごく有名になっても、
ずっとこういう表記になっちゃうのかね?
複雑な気持ちだよ、おれ、他人だけどさ。
いや、それじゃないんだよ、言いたかったのは!
「ヨプ」って、漢字で、「ヨプ」って‥‥読むんだろ?
なぁ、意外過ぎないか?
漢字に「ヨプ」の「プ」って‥‥
半濁音の読み方があるなんてなぁ。
これ、予想もつかなかったという気持ちだ、
おれにはな。

どう?
あんたは、ヨプのほう、オッケーだった?
おれは、悩んでたよ、この「ヨプ」についちゃ。
半濁音が、気になってさ。
国こそちがうけど、
漢字が「ヨプ」って読まれることが、
どうにも、納得がいかなくてな。
半濁音はまずいだろ、と思っていたのよ。
日本には、半濁音で読む漢字はねぇぞ、
って思ってたよ。

‥‥

‥‥‥‥。

だけどさぁ。
人間の視野っていうか、思いこみっていうか、
狭いものだよな。
人間っていうか、おれ、かな。
おれは、あきれたよ、自分という人類にな。
‥‥「ヨプ」、半濁音、どうぞ! だよ!
日本の漢字の読み方に半濁音はないとか、
思いこんでたんだなぁ。
半濁音だらけだよ、日本の漢字だって。
ふと、思いついたんだよ。
「別府温泉」ってな。

ひとつ思い出したらさ、いくらでも出てくるよ。
徳川家康のお城なんて、「駿府城」だよ。
ちょっとずつ支払いするのが「月賦」だよ。
「プ」ばっかりじゃないよな、
『津軽海峡冬景色』って歌知ってるか?
「ごらん あれが 竜飛岬」ってあるよ。
「ピ」だよ、半濁音その2だよ。
「半端」といえば、「パ」だよ。パリーグのパだよ。
「木端微塵」って、これだって「パ」だよ。
「林家三平」なんかは、「ぺ」だろ?
「ペヨンジュン」の「ぺ」だぜ。
「月報」といえば「ポ」だしな、
「根本的」も「ポ」が入ってるぞ。
半濁音、いっくらでもあったよな。
「ヨプ」でびっくりしてる場合じゃなかったんだよな。
よかったよ、まずは「別府温泉」発見してさ。
よく発見したよ、おれ、な。
じゃ、こういうことで、
日本語の漢字でも半濁音読みはあるもんだ、と。
え? それだけじゃダメか。

くだらなすぎるって? はははは、そうだよな。
先週も、アミノ酸とか犬のフンのこととか書いて、
「くだらなすぎる」とか、抗議されたのか!
怒ってるのか、一部の読者が?
何を考えてるのかね、もともとくだらないのにな。
先週だけくだらないってことはないよなぁ、なはは。
求めているものを間違ってるよな、そういう人は。
ああ、文体までもが、
いかにもくだらなそうだから悪かったのかね。

今週は、もっとひどいな。
テーマは「ヨプ」の半濁音だけだものな。
しかも、自分の思い違いがネタだもん。
それが思い間違いでしたってことで、おしまいじゃぁ、
今週のほうが怒る人、多いんじゃないの。
『MOTHER 3』も、冗談無視しちゃう人がいるんだって?
あのくだらないことの連発が、本領なのにな。
ま、一生、わかってもらえないかもしれないな。
「いっしょうけんめいよ!」とかな、
「イヌてきな おにいさん」とかな、
反応してくれてる人もいるし、うれしいじゃないか。
ぽてんしゃる!

先週の表紙カバーのなくなっちゃった本、
『ヒトはおかしな肉食動物』
その後も読んでいるんだよな。
おもしろいよな、
仮説の大盛りサービスって感じもあるよ。
ちょっと、見る?

「ジャガイモ」っていう植物というか、食物な。
16世紀のはじめに、インカ文明を滅ぼしたついでに、
このジャガイモを、持って帰ったんだな、スペインがさ。
ここからヨーロッパの人口がどっと増えるんだよ。
それまでの小麦食に比べてさ、
ジャガイモってのは、収穫量も多いし、
栄養的にも人間の必要としている必須アミノ酸が多いんだ。
小麦は、ダメだったんだよ、そのへんのところが。
ジャガイモのおかげで、人口増やせちゃったわけです。
で、さ、この人口の爆発的な増加が、
都市だとか工業社会だとかができてくための、
元になるわけだよねー。
ジャガイモあっての、工業社会だよ。
おもしろいんだよ。
風が吹くと、桶屋が儲かるんだよ。ほんとなんだよ。

あとさ、小麦ってやつを摂っても、
決定的に足りないアミノ酸があるわけですよ。
もうね、ほんのちょっぴりしか含まれてないらしい。
どうも、リジンって名前のやつらしいんだけどね。
そのあたり、詳しくは知らないよ、おれは。

ま、とにかくだ。
必要なものがなかったら、生きられないわけだ。
いちばん足りないものが、必要なだけ摂れてはじめて
生きていけるわけだよね。

で、小麦で足りないアミノ酸を、
畜産だとかでね、牛を飼って乳をしぼって飲んだり、
肉とかタマゴを食ったりして補うって方法があるよ。
これはさ、牛だのニワトリだのにエサを食わせて
大きく育てて、そいつを食うってわけだから、
コストの高い食料だよね。
みんなが円満に、小麦で足りないアミノ酸を
しっかり摂れたものかどうかは、わからない。
病気になったりもしただろうし、寿命も短かったろうよ。
このやり方が、まずある。
ヨーロッパ型なのかな、いまの日本もそうだよね。

もうひとつが、アジア型っていうやつだよ。
小麦にだってさ、大量に食えば、
リジンも足りるまで摂れるだべ‥‥っていう理屈だよ。
成人男子だと、小麦で2キロ食えば、
リジンの必要量に達するんだってさ。
肉食わなくたって、小麦を大食いするんだよ。
ところがさ、リジンは必要量摂れてめでたしめでたしか?
そうはいかない、うどん2キロも食ったら、
リジン以外は、摂り過ぎになっちゃうわけでさー。
わかるじゃない、炭水化物の摂り過ぎだから、
その余分に摂取したカロリーを捨てなきゃならないんだよ。
こういう食生活をしている人たちは、
だから、冬でも薄着をして、
朝から晩まで長時間農作業に従事していたんだ、と。
これはこれで、理屈に合ってるんだよなぁ。
このあたり、読んでいると、
おれたちの祖先のアジアンの生き方が、
ある種の倫理にまでなっているということが、
体で感じられるじゃない?
食うってことから、われわれの民族性とか、
われわれの道徳観だとかが、類推されるとさ、
膝を打っちゃうようなところがあるんだよなぁ。

もういいんじゃない?
ジャガイモとかさ、おれらの労働観とか、
それなりに実のありそうな話になったじゃない。
もう、この先、この本を順番に読書会みたいに
読んでいって、それを原稿にしたらどうよ?
それはそれで、飽きるかもしれないな。
でも、今日のところは、こんなもんでいいんじゃないか。

帰り際に言うのもあれだけどさ。
ティム・バートンって監督さ、
ほんとスゴイと思ってるんだよ、おれ。
『チャーリーとチョコレート工場』とか、
けっこうみんな厳しい御意見言ってるけどさ。
誰があれだけの世界をつくれるっていうんだよな。
『ビートルジュース』から、もう、
ずうっっと、この監督は、ほんとスゴイ。
『コープスブライド』も、見たほうがいいわ。
中沢新一なんか、この映画は『明日の神話』だって、
そう言ってたもんだよ。
細かい整合性だとか、区役所の議事録みたいなことで
あちこち突っつく批評なんか、意味ないんだよ。
「へんなもの」をむぉんむぉんと湧き出させる、
いわば、そいつの世界をデッサン狂っていても
ぼわぼわと産み出しちゃうってことこそが、いいの!
ティム・バートンって、それなんだよね。
だから、「くず映画」の帝王みたいに言われる
『エド・ウッド』なんていうしょうもない監督に、
リスペクトを捧げちゃったりするわけだよね。
エド・ウッドだって、チープでへんだけど、
他にない世界を湧き出させていたんだものね。
『ビッグフィッシュ』なんて映画も、
ナイスなほら吹きがテーマだったよな。
最高だよ、ティム・バートン。
あ、立ち話のつもりが、長くなっちゃったな。
ほんとに帰るよ、じゃぁな。

おまえも、もてなそうな顔してるなー。
もてないだろ、わかるよ。
もてるやつは、こんな話、ここまで聞いてないよ。
おれは、好きだけどな、そういうやつがさ。

また、な。
ぽてんしゃる!

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2006-05-08-MON

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