高山先生、 新型インフルエンザについて 教えてください。
高山 ふたつめに違うことは、
9.11のときには本田先生のいた病院のスタッフは
被災してないと思うんですよ。
本田 ええ、被災はしていません。
高山 だけど、パンデミックでは病院にいる人たちも‥‥
本田 わたしたちも、患者になる。
高山 そう、どんどん被災していくんです。
そこが大きなちがいです。
テロとかのときには、その病院のスタッフは、
不眠不休でがんばることができますよね。
でもパンデミックのときは、
どんどん、スタッフが感染して休んでいくんですよ。
本田 そうよねぇ。
高山 もうひとつ、これもけっこう重要なことなんですが、
新型インフルエンザが
ある都道府県に入ってきたとしますね、
そうすると、最初の1例が出た時点で、
すべての学校、保育所、幼稚園はお休みになるんです。
本田 学校が休校になって子どもがうちにいるということは、
親は仕事に行けない。
高山 そう、行けない。
病院の場合でも、小さい子どものいる看護師たちは
出勤できなくなります。

このことは、関係省庁でとりまとめた
「事業者・職場のための
新型インフルエンザ対策ガイドライン」
というものに含まれるんですが、
パンデミック期にはおそらく最大で4割の人たちが、
出勤できなくなります。

つまり、すべての学校が休校したり、
感染者のケアをするために、出て来れない人が増えてくる。
原則として軽症者は自宅療養ですし、
入院しにくくなりますから。
そうすると、必ず自宅でケアをする人が必要なんですね。

その4割減の状態で、
どうやってみなさんの事業を継続しますか。
事業者ガイドラインでは、その考え方を示しているんです。

それは、医療機関においても同じです。
若い看護師さんがたくさんいるようなところだと、
もっと来れない、4割以上の人が来れないと思うんですね。
本田 そうですね。
高山 いままでの患者さんもちゃんと見ながら、
新型インフルエンザのためにがんばるという話じゃなくて、
いままでの診療すら継続の危機にさらされて、
それでも最低限の医療をどうやって維持するのか。
そして、プラスアルファで新型インフルエンザのために
がんばれるかどうかを問うんです。
本田 考えるだけで暗くなりますね。
そうか、たいへんですよね。
高山 医療機関において、病院の機能ということを
お医者さん中心で考えると、
いかに診療をつづけるかということに
目がいきがちなんですが、
ひとつの事業者として、パンデミックの流行期に、
病院の機能をどこまで維持できるのか、と考えると
さらにいろいろな問題に気がつくことになるんですよ。

ちょっと佐久総合病院の立場で話をすると、
病院の機能をチェックしていったときに、
けっこう問題になるのが病院食です。
本田 それはどういう意味で?
高山 供給できなくなるかもしれない、ということです。
流通が止まっていくので。
おそらく米やパンなど主食はさすがに大丈夫でしょうが、
低たんぱく食とか、低カリウム食とか、特殊食ですね。
そういうものは厳しいかもしれない。
入院患者さんに出す食事がないということも
起こりうるんです。だから、
それだけの備蓄ができるかということも問われている。
それから、感染性廃棄物の処理。
本田 ああ、そうですね。
高山 廃棄物処理業者も機能しなくなる可能性がありますから、
病院に、感染性廃棄物をはじめとした廃棄物が
処理できずにたまっていく可能性もあるわけですよ。
一般の診療所でも、レントゲンの現像液とか、
定期的に交換やメンテナンスの必要なものは
止まる可能性もあるわけです。
本田 なるほど。
高山 だから、事業者の新型インフルエンザ対策というのは、
まず、自分のやっている仕事で、
最低限つづけなくてはいけないことはなんなのかと考えて、
それを最低限守るためのプランを立てることなんです。

そのときに、次に出てくるのが、
自分の事業を最低限つづけるためには、
取引先のこの業種には、
このことはちゃんとやってもらわなければ困る、
ということなんです。
これは、必ず出てくるんですよ。

そして、その事業者に問い合わせて、
「あなたのところには
最低限このことをしてもらわないと困るけれども、
そういう事業継続計画を立ててますか」と聞くと、
「いや、そこは切ることになってます」
というふうになるかもしれない。
そうすると、それはたいへんだから
「それはやってください!」というような、
そういう調整が始まるわけです。
本田 自分のところがなにを優先するか、
それは、義務ではないわけだし。
高山 そうです。そこで信頼関係が問われていくんですが。
いま、いろんな企業が事業継続計画をすでに立てていると
メディアでも報道されるようになっていますけど、
それは、そういう作業なんです。
多少は早い者勝ちの部分もあるんでしょうね。
事業継続計画をいま立ててしまっているところは、
それがひとつのスタンダードになっていくので、
あとで、「うちの事業はやっぱりこれをやってもらわないと
困るんですけど」と言っても‥‥。
本田 無理になってきますね。
高山 もう有機的な事業継続計画のネットワークができていたら、
あなたの事業は切り捨てられる可能性がある。
だから、急いで計画を立てておいたほうがいいんです。

これは、新型インフルエンザに関することだけじゃなくて
地震が起きたとき、あるいはテロが起きたとき、
戦争被害のとき、さまざまな大きな被害が起きたときに、
参考として使われる可能性があるんです。

いま、はじめて日本は、
大きな、長期的な危機管理の考え方というものを、
全業種において、有機的なネットワークのもとに
立てはじめているので、
これはいろんな意味でチャンスなんです。
本田 システムを構築するという意味での、チャンスなんですね。
高山 そう。そして、それぞれの業種の人たちには、
自己主張をちゃんとしてほしいと思います。
本田 自分たちの事業継続にはなにが必要かということを
主張するということ?
高山 そうです。
そして、それは医療機関もおなじなんです。

話を戻しますけど、
病院の入院医療で、たとえば400床ある病院だったら、
1割の40床には、新型インフルエンザの患者さんが
入ると想定してください、と申し上げました。
しかし、その想定の前に検討すべきことがあるのです。
パンデミックを400床のままで耐えられますか?
病院食などの400床分の備蓄ができますか?
4割のスタッフが休んでも400床で大丈夫ですか?

たぶん、400床は厳しいはずです。
半分くらいの200床がせいぜいかもしれない。
そして、そのうちの40床を新型インフルエンザに、という
そういう、ひじょうにシビアな話です。
本田 そうですよね。
高山 もちろん、事前の対策で
スタッフを確保することができるかもしれません。
たとえば、家庭保育の導入です。
看護師さんたちのローテーションを、
働いている人、休んでいる人、
それからもうひとつ、保育をする人、
というように組む方法ですね。
働いている人の子どもたちの
保育をするグループをつくるんです。
それをローテーションして、
幼稚園や保育所、小学校が閉鎖していても
看護師さんが出勤できるようにしてもいいかもしれません。
本田 なるほど。仕事ができるようにするんですね。
高山 そうです。そして可能であれば、
病児保育をするグループもつくれるとよいかもしれない。
病気の人の家族のケアをするグループですね。

新型インフルエンザ対策は
公助、つまり公的サービスだけでは対応しきれません。
地域で、あるいは事業者での
支え合いのネットワークをつくっていくことで、
社会を支えていくシステムが必要なんです。

これはひとつの事例なんですが、
公(おおやけ)が助ける公助というものがありますけど、
ともに支え合う、共助(きょうじょ)の部分というのが、
必要なんですね。

やっぱり公助だけでは無理なので、
共助が必要で、そして、自助がある、と。
その共助というのが、いまの日本社会では
かなり公助のほうに投げられてしまっていて、
すたれてきている部分があるんだけど、ひと昔前なら、
「あなたのとこ、病気になっちゃってたいへんね」って
ご近所で子どもを預かってくれたりといった、
共助というものがあったんです。

地域の新型インフルエンザ対策では、
共助のあり方を再発見してほしいというのが、本音ですね。
ほぼ日 あの‥‥すみません、
お話の腰を折って申し訳ないんですが、
想像を超える大災害のお話に衝撃を受けて、
ちょっとわからなくなってしまいました。
えっと、第1波のパンデミックの時期には、
ワクチンがないんですよね。
高山 そう、ないです。
鳥インフルエンザから開発している
プレパンデミックワクチンというのはありますけど、
効果は限定的というのが専門家の共通した意見です。
ほぼ日 ふだん「インフルエンザには予防接種」と思っているので
ワクチンがないときに、いったいどうしたらいいのかと。
わたしたちが、ワクチン以外で身を守る方法って、
なにかあるんでしょうか。
本田 ええ、あります。

(つづきます)

2009-04-09-THU