日野原重明先生に聞いた 健康についての大切な話。
本田 お薬の記録とかアレルギーの記録を書いておくことが
とても大事だとおっしゃっていましたが、
それについて、あらためて少しうかがえますか。
日野原 やっぱり、薬を処方する医師が、
患者さんがふだん飲んでいる薬だとか
もっている病気だとかを
知らないままで薬を処方すると、
たいへんなことが起きてしまうことが
あるんですよ。
実際にあった例で話をしてみましょう。

以前、どこかの病院に入院していたことがあるという
腎臓病の患者さんがいたんです。
入院したときにとった病歴では、
不眠症で入院していたということで、
カルテにもそう書いてあった。
ところが、前に入院していた理由が
実は不眠症ではなく、重い鬱病を
わずらってのことだったというのが
あとでわかった。
それがわかったのは、
非常に残念なことが起きたあとでね。

その患者さんがネフローゼという
腎臓の病気を起こしたときに、
担当の医師は、その治療として効果の高い
ステロイド剤を処方したんです。
ところが、ステロイドという薬は、
鬱病にマイナスの影響を与える作用があるもので、
その患者さんは、
もともともっていた鬱病がひどくなり、
2週間目に自殺をしてしまった。

もし、前の病院に入院した理由が鬱病だと
担当の医師が把握できていれば、
いくらステロイドが効くといっても
ぜったいに使わない。
このことは、ぼくにとっても忘れられないことです。
本田 わたしたち医師にとって、
ほんとうに避けたい、辛いことです。
日野原 医師が患者さんについての
正しい情報をもっていないと、
こういうことが起きる危険性は、常にある。
この患者さんは、おそらく
鬱病と腎臓病はまったく関係ないことだと
思っていたんでしょう。
でも、こういうことが起こりうるんです。

だから、その患者さんがこれまで
どういう病気にかかったか、そのときに
どういう薬を使っていたかというような情報は、
医師にとっても患者さん本人にとっても、
とても重要なデータなわけです。
少なくとも、担当する医師は、
その情報を正確に把握していないといけない。

そういう情報をはっきりと、
自分で医師に伝えるということが、
自分を守ることにつながるんです。
本田 この手帳をつくりながら、
「ほぼ日」編集部のかたに言われて
ものすごく驚いたことがありました。
「患者さんの立場としては、
医師にこの手帳をそのまま見せることに、
遠慮を感じるというかたも少なからず
いらっしゃるんじゃないか」というのです。
「医師にさしでがましいと思われるのではないか」
と懸念する声が編集部のなかにもあったといいます。

でも、病院の外来を受けもつ医者の立場としては、
はじめて受診されるかたが、
この手帳にあるようなご自分の健康の記録を
持ってきてくださると、
ほんとうに助かるな、ありがたいなと思います。

ふだんからこの手帳にまとめておいたものを、
医師や看護師に会うときに
そのまま見せてくださるといいと思うのですが、
先生はどう思われますか?
日野原 見せたほうがいいね。
できればこの手帳を医師に見せてください、
そう、ちゃんと伝えたほうがいいと思う。
あるいは、ここに書いてあることを
別の紙にメモしていって、
それをそのまま医師に渡してもいいですよ。
いずれにしろ、
ふだんからまとめておくことが大事です。
たとえば手術をしたことがあったとして、
それがいつのことだったかとか、
そうそう覚えてはいられないからね。
本田 そうですね。
それでも少しむずかしいと思われるかたは、
この手帳を見ながらお話しくださるだけでも、
じゅうぶん助けになると思います。

そうそう、
心電図のコピーをとっておくといいですよ、
ということもみなさんにお伝えしたいと思って
小さなコラムにして載せているんです。
日野原 そうだね。心電図をとったときに
コピーをくださいと言えば、
どの病院でもくれるからね。
手帳に貼っておくといいよ。
ほぼ日 心電図のコピーって、いただけるものなんですね。
わたしたち、本田先生にお聞きするまで、
もらえるものだと思ってなかったので、
ちょっと驚いたんです。
本田 頼めばすぐにもらえると思いますよ。
この手帳にも書いていますが、
心電図って、以前の形と同じか違うか、
そこが肝心なんです。不整脈が出たときに、
それが新しく起こったものか、
それとも前からあるものなのかによって
治療の内容が変わってきます。
もちろん、いわゆる心臓マヒを
早く見つけるのにも役に立ちます。
いまは人間ドックを受けるかたも増えていますし、
そういう機会に心電図をとったときには、
ぜひ、コピーをもらって
この手帳にはさんでおいていただくのが
いいなと思っているんです。

そういえば、先生、
人間ドックをはじめられたのは、
こちら(聖路加国際病院)だと
うかがったことがあります。
日野原 昭和29年のことでね。
国立第一病院(現在の国立国際医療センター)が
4月に人間ドックをはじめて、
ぼくらはちょっと遅れて9月からのスタートだった。
でもうちはベッド数が十床と多かったのでね。
本田 人間ドックは、ご自分の健康状態を
客観的に把握して、早めに治療をはじめたり
今後の予防をする機会としては
すばらしいですものね。
いま、どのくらいのかたが人間ドックを
受診されていますか?
日野原 ここでは人間ドックのコースがいくつかありますが、
外来で行う、4時間のコースだけでも
1日におよそ160人が受診してますよ。
ひじょうにたくさんの人たちが
人間ドックを受けるようになってます。
本田 人間ドックのまとめとして、検査の結果から、
よくなかったことだけを書きとめて、
これからの生活で気をつけることをあわせて
記入しておくためのページもつくったので
ぜひ、みなさんに活用していただければと
思っているんです。
ほぼ日 人間ドックの結果を見るときには、
どういうところに着目したらよいのでしょうか。
なかなか、判定のAとかBとか‥‥
日野原 そうね、判定のAが何か、Bが何かなんて、
よくわからないでしょう。
ほぼ日 はい、よくわかりません(笑)。
日野原 ほんとうは医師のほうでね、
その人の検査の結果が心配ない、
優等でなかったとしても、まぁまぁいいと思えば、
結果の伝えかたも、
もう少しおおまかにすべきなんですよ。
なんでもかんでも、AだBだとランクづけをして、
かえってわかりにくいものにしてしまってると思うね。
本田 わたしも、そう思います。
検査結果の指摘が細かすぎることで
大切なポイントは何かということが、
わかりにくくなってしまっているし、
ほんとうは気にかけないでいいことまで、
気になってしまうようなことに
なっているんじゃないかと思います。
日野原 それはもう、神経質になると思うよ。
とくに、いまは検査の機械が精密になって
細かいことも数値になってでてくるからね。
ほんとは問題点だけを書けばいいわけですよ。
本田 それと、かかりつけの先生をおもちになって、
人間ドックの結果をその先生に
見てもらうようにするといいですね。
日野原 そう。ふだんの健康状態を把握してくれるような
かかりつけの医師をもつことも大事だね。
本田 送られてきた検査の結果には、
細かいこともいろいろ書いてあるけれども、
「ひとことで言うと」という感じで
説明してもらえる関係の
かかりつけのお医者さんを
おもちになるといいですよ、と
多くのかたにお伝えしたいです。

ほんとうにみなさんに知っていただきたいことが
たくさんあって。歯の大切さとかも‥‥
日野原 (健康手帳をめくりながら)
「80歳で20本の自分の歯を残す」ね。
ぼくは90歳で20本だったよ。
一同
(笑)そうですか!  すばらしいです!

(明日につづきます)



2008-12-17-WED